CPRA news Review

他の記事を探す
カテゴリで探す
記事の種類で探す
公開年月で探す

「知的財産推進計画2016」の策定を終えて

内閣府 知的財産戦略推進事務局 参事官 永山裕二

 本年5月9日の知的財産戦略本部で「知的財産推進計画2016」が決定された。今回の計画の大きなテーマの一つが第4次産業革命への対応、具体的には、AI、IoT、ビッグデータなどの新しい技術の進展が既存の知財システムにどのような影響を与えるのか、このような変化に対応した次世代知財システムをどのように構築していくのかという点であった。

 著作権システムに関しては、フェアユースの議論に端を発した「柔軟性のある権利制限規定」について、計画では「次期通常国会への法案提出を視野に、......具体的に検討」することとされ、今後、文化庁を中心に検討が進められる。対外的な関心はこの点に集中した傾向があるが、今回の計画の意義は次の2点にあると考えている。

 第1が、「グラデーションのあるシステム」の構築が次世代システムの基本的方向性であることを明確にした点である。フェアユース規定を打ち出の小槌のごとく主張する論者もあるが、無償型の完全権利制限規定の議論だけで、今後予想される多様な課題、著作物の利用形態に対応していくことは困難である。「柔軟性のある権利制限規定」、報酬請求権付き権利制限、集中管理団体による利用許諾の拡大、裁定制度の拡充など多様な政策手段を用意し、それらを適切に組み合わせていくことにより、柔軟な解決を図っていく必要がある。著作権システムのあり方についての議論も、許諾権か完全権利制限かというゼロイチのデジタルの世界からグラデーションを内包するアナログの世界に転換することが求められている。

 第2が、主要な権利者団体からの政策提言を踏まえて、「拡大集中許諾制度」の検討が計画の中に盛り込まれたことである。「拡大集中許諾制度」は、「グラデーションのあるシステム」の重要な一翼を担うものであり、著作物の利用の円滑化につながる具体的な政策提言が権利者団体からなされたことは極めて意義深いことである。制度導入に当たっては、今後、制度的課題についての多角的な検討に加えて、制度の実施を担う集中管理団体の育成・整備が必要不可欠である。今回の計画策定の経緯を踏まえ、その実現に向けて官民がそれぞれの役割と責任を果たしていくことが大いに期待される。

 第4次産業革命は、「知的財産」そのものの意義にも課題を投げかけている。データや情報の集積それ自体(情報の選択、体系的な構成に創作性が認められないもの)は、これまで「知的財産権」の対象とされてこなかったが、AIやビッグデータの時代となり大きな経済的価値を有するようになっている。特に、現在、世界各国が研究開発を競っているAIの成否は、AIに学習させるデータや情報の質に大きく左右されるものと言われている。それらを知的財産としてどのように考えていくのか、今後の大きな検討課題である。また、データ・情報の集積自体の価値の増大は、「柔軟性のある権利制限規定」の議論にも影響するものと考えられる。この問題は、「知的財産推進計画2009」で日本版フェアユース(仮称)の導入がうたわれて以来の課題ではあるが、第4次産業革命が進展していく中で権利保護と利用、イノベーションの創出とのバランスをどのように図っていくのか、新たな視点から検討を深め、早急に結論を出していくことが強く求められている。