CPRA news Review

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分配業務から振り返る芸団協CPRAの20年の歩み

芸団協CPRA運営委員(音楽関連分配担当/データセンター担当)
椎名和夫

商業用レコード二次使用料分配業務

news71_img001.png芸団協CPRAの分配範囲
news71_img002.png商業用レコード二次使用料の分配額と分配権利者数の推移(徴収年度単位)
news71_img003.png商業用レコード二次使用料 分配対象楽曲数の推移

 音楽CDをはじめとした商業用レコードに固定された実演(以下「レコード実演」という)を放送、有線放送で利用した際、放送事業者は著作権法第95条1項の規定により実演家に二次使用料を支払わなくてはならない。この二次使用料を受ける権利(以下「二次使用料請求権」)という)は、同95条第5項の規定により「国内において実演を業とする者の相当数を構成員とする団体...でその同意を得て文化庁長官が指定するもの」がある場合には、その団体のみが行使することができる。1971年、芸団協は文化庁長官より二次使用料請求権の行使団体として指定を受け、徴収を開始すると共に分配も開始した。この権利は、法律上は「放送等で使用された商業用レコードに参加する個々の実演家・権利者の有する権利」でありながら、当時は「立法趣旨の『機械的失業』の概念※1」、「客観的分配データの不足」、「徴収額が少額(1971年度は約3,000万円)」などの理由から、権利を有する個々の実演家・権利者に分配する(以下「権利者分配」という)のではなく、芸団協会員団体である団体を対象とした団体分配を行っていた。1961年に採択された著作隣接権の国際条約、ローマ条約においても、放送番組作成の際、昔はオーケストラ等を雇って生の実演をさせていたのに代わって、レコード実演が使用されるようになったことで、実演家が生の実演を行う機会が減少するという、実演家の「機械的失業」への補償及びレコードを使用する者が得る利益の一部を実演家に還元すべきという経済均衡論の考え方から、実演家に二次使用料を支払うよう加盟国に義務づけた。そのため、個々の権利者に分配するのではなく、実演芸術振興のための基金設置など、実演家全体のために使うのが国際的潮流でもあった。
 しかし、1992年頃から徴収額が10億円を超えるようになり、海外でも権利者分配にシフトする国が増えてきたことから、国内でも、著作権法第95条の「商業用レコードを放送または有線放送に利用した場合は当該実演に係る実演家に二次使用料を支払わなければならない」という規定を厳格に解釈し、権利者分配を望む声が高まってきた。また、放送局から放送に使用した商業用レコード使用曲目報告(以下「楽曲報告」という)も受けられるようになったことから、1993年度徴収分から権利者分配を開始した。団体分配については、関係各団体に対し権利者分配の必要性への理解を求めながら、経過措置として1993年度徴収分から分配額を段階的に下げ、1997年度徴収分を最後に廃止した。但し、「立法趣旨の『機械的失業』の概念」を考慮して、実演家全体のために使用する目的で、権利者合意の上で、徴収額の一部を「共通目的基金」として拠出することとなったが、その後2011年度徴収分より廃止され、現在では全面的な権利者分配が実現している。
 権利者分配の方法は、権利者団体の代表者で構成された委員会や部会の中で検討された。放送では幅広いジャンルの楽曲が使用されている。特に、著作権の処理と比べた場合に、実演家の場合は一楽曲に関わる権利者が数多く、その中でもメインアーティストや演奏家など参加形態も様々である。そこで、バランスのとれた分配を行うため、分配資金(徴収額から管理手数料・クレーム基金・共通目的基金等を控除した金額)を、①「ポピュラー/フィーチャード・アーティスト」(楽曲において中心的に氏名表示された実演家。以下「FA」という)、②「ポピュラー/ノンフィーチャード・アーティスト」(楽曲に参加したFA 以外の実演家。以下「NFA」という)、③「クラシック」、④「その他」のジャンルに分けて、ジャンル毎に最適な分配方法を検討した。
 ①「FA」分配については、1995年6月から楽曲報告に基づく分配を開始した。開始当初の楽曲報告は、各放送局が社団法人(現・一般社団法人)日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」という)に提出した紙の報告書を基にしていたため、届いた報告書からデータを起こして、権利者を特定し、その権利者の連絡先を調査する、といった時間と手間のかかる作業だった。
 また2007年頃からは、楽曲報告をそれまで行われていたサンプリング報告※2から全量報告※3にすることを目的に、フィンガープリント技術(放送された楽曲を既存のデータベースと照合して自動的に楽曲を特定する技術)を使用した楽曲報告の検討が開始され、2008年頃から各局が相前後して全量報告へと移行する状況が進行中である。その結果、楽曲報告数が飛躍的に増加し、かつ得られる情報もより詳細なものとなってきている。こうした状況に対応するため、分配の精緻化を含め、更なる合理化を目指して現在FA分配方法の見直しを行っている。
 ②「NFA」分配については1998年3月から分配を開始した。NFAの場合、数十万曲に及ぶ楽曲報告から、その全ての楽曲の参加演奏家を後追いで調査特定することは到底不可能であることから、演奏家団体の提案により、演奏家に係る貸レコード使用料NFA分配データと、演奏家権利処理合同機構ミュージック・ピープルズ・ネスト(現・一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPN、以下「MPN」という)が収集する演奏家のレコーディング参加履歴をデータ化したレコーディング参加データ(過去3年分)を複合的に使用する形での分配が開始され、現在に至っている。
 ③「クラシック」分配については、当初演奏団体の提案により、オーケストラのCD制作枚数を基に1994年度から1996年度徴収分の一部をオーケストラに分配したが、1999年10月に演奏家8団体によりMPNが設立され、その中にクラシック関連の団体で構成される「クラシック委員会」が設置されたことを受けて、その分配方法の検討を「クラシック委員会」中心に行っている。2000年度徴収分からは、株式会社ビデオリサーチに収集を委託した、ラジオのクラシック専門番組での使用楽曲データと、それらの楽曲に参加した演奏家のデータを使用して分配を行っているが、調査データから漏れた権利者への補完として、オーケストラのCD制作枚数データも一部併用している。
 ④「その他」分配については、ポピュラー・クラシック以外のジャンルを、「邦楽」、「沖縄民謡」、「民謡」、「演芸」の4部門に区分した。これらのジャンルは楽曲報告から権利者を特定することが困難であったため、各ジャンルの権利者が所属する団体を通じて分配することとなった。当初、沖縄民謡および民謡の権利者をまとめている団体が存在しなかったため、他ジャンルより分配が遅れることとなったが、2005年社団法人(現・一般社団法人)沖縄県芸能関連協議会(以下「沖芸連」という)、2006年日本民謡実演家協会(現・一般社団法人、以下「民謡協会」という)が設立されたことを機に、「邦楽」は邦楽関連団体で構成している邦楽実演家団体連絡会議、「沖縄民謡」は沖芸連、「民謡」は民謡協会と社団法人(現・一般社団法人)日本歌手協会、「演芸」は演芸関連団体で構成している日本演芸家合同機構等に分配を開始した。ただし分配にあたっては、これらの団体に対して、権利者の利益以外の目的に使用してはならないことを課している。
 このような二次使用料の権利者分配の複雑さから権利者に向け芸団協における権利処理業務の専門性や透明性、独立性を示すことが求められるようになり、1993年、権利者団体協力の下、専門機関CPRAが設置されるきっかけとなった。その後、ジャンル毎にデータや環境が整ったものから順次分配を行ってきたが、現在では、分配規程も整備され、定期業務として全ジャンルの分配を毎年3月に実施できるようになった。

貸レコード使用料分配業務

 1985年、芸団協は文化庁長官より商業用レコードの貸与に係る報酬請求権の行使団体として指定を受け、1986年から徴収を開始した。商業用レコード販売後一年間、実演家には排他的権利(許諾権)である貸与権が付与されるが、それ以降は報酬請求権となる。貸与権は個々の権利者が行使できるが、権利者、利用者双方の便宜上、著作権法に基づいて、芸団協が報酬請求権と併せて行使することとなった。そのため、芸団協では最初から権利者分配を行うことを目指した。芸団協における権利者分配は、貸レコード使用料が初めてであったため、分配方法を定めて、準備が整うまで2年以上の時間が費やされた。分配の基となるレンタル使用データはJASRACの貸与使用実態調査データ(以下「貸与データ」という)を利用した。貸レコード使用料は、年2回(6月と12月)分配を実施しているが、通常その1回分(半年分)の貸与データの邦盤レコード件数は7,000から8,000、多い時は10,000を超えることもあった。そこで、権利者を「印税契約者」(現・FA)と「非印税契約者」(現・NFA)に区分し、分配資金を①「FA」分と②「NFA」分に分けて分配することとした。
 ①「FA」分配については、貸与データの全レコードを分配対象として、1988年10月から分配を開始した。権利者への分配額は、レコード毎に貸与回数と種別(アルバム・ミニアルバム・シングル)格差を乗じた値(レコードポイント)を収録曲数で割り、楽曲毎にポイントを付けて計算した。分配開始当初は、FAをオリコン雑誌や各レコード会社が出しているレコードカタログ等で調べ、1件1件登録していたため、時間のかかる作業であった。現在では、MINC※4や株式会社音楽出版社、株式会社ジャパンミュージックデータなどの音楽データベースを利用し、機械的にFAの登録が可能となり、作業負担は軽減されている。
 ②「NFA」分配については、1989年3月から分配を開始した。NFAの場合、FAとは異なりクレジットなどの既存の情報では参加実演家が網羅されていないことが多く、独自に情報を収集する必要があったため、調査に係る時間や費用対効果を考慮し、分配対象を貸与データの中から、レコードポイントの上位1,000レコードに絞ることとした。
 当初、社団法人音楽制作者連盟(現・一般社団法人日本音楽制作者連盟、以下「音制連」という)ならびに社団法人日本音楽事業者協会(現・一般社団法人日本音楽事業者協会、以下「音事協」という)の協力のもと、音制連内に「芸団協レコードデータセンター」が設置され、他方、演奏家7団体が有限会社ミュージシャンズ・データ・サービス(以下「MDS」という)と「データに関する協力確認契約」を交わして演奏家の情報収集を委託したことにより、音制連、音事協、MDSの3者によるデータ収集の体制がスタートした。また1997年2月には、音制連と音事協が、「円滑な権利処理および原盤権利情報の一元管理を目的」としてアーティスト・マネージメント・オーガナイゼーション(AMO)総合研究所を設立し、MDSも協力して楽曲単位での作品データベース(AMOデータベース)の構築を開始し、のちの二次使用料FA権利者分配への道筋をつけることにもなった。現在では、音制連と、MDSの業務を継承したMPNが、この調査業務を担っている。
 なお、2013年度から貸与データがサンプリング報告から全量報告に移行しているため、2013年度上期の邦盤レコード件数は約115,000までに増加している。一方で、貸レコード使用料はレンタル店の減少に伴い、徴収額の減少も予想される。この状況の中、現在関係者間で合理的かつ、より精度の高い権利者分配を実現するための検討を続けている。

news71_img004.png貸レコード使用料の分配額と分配権利者数の推移(徴収年度単位)

権利者の委任取得業務

news71_img005.png芸団協 CPRA 委任者数の推移

 芸団協が、権利者分配を開始するにあたり、まず手掛けたことは実演家から権利行使の委任を取得することだった。当時、実演家の著作隣接権に対する認識は低く、芸団協から直接委任を取りに行っても理解を得ることは難しかったため、芸団協会員で商業用レコードに係る権利者が所属する団体(権利者団体)に協力を依頼し、実演家はまず所属団体に権利行使を委任し、その団体から芸団協に複委任する方法で委任者を集めた。しかし、分配対象となった権利者で団体に所属していない実演家(非委任者)も大勢いた。CPRA発足後は、権利者団体の協力を得て非委任者の連絡先等の調査を行い、委任者を増やしていった。非委任者の使用料は委任が取れるまで芸団協CPRAで保留していたが、長年分配を続けて行く中、その保留額が蓄積され高額になり、文化庁から「指定団体である芸団協CPRAは委任者の権利を行使しているので、非委任者の使用料を保留する必要はない」との指摘を受け、2004年度徴収分から分配資金の全額を委任者に分配する方法に変更した。しかし、二次使用料ならびに貸レコード使用料に関しては、指定団体である芸団協CPRAしか権利行使できないことから、クレーム基金の料率をあげ、一定金額を確保して後から委任した権利者に対しては、そのクレーム基金から分配することとした。最近では権利拡大とともに、実演家の権利意識も高まったことに加え、芸団協CPRAが著作権等管理事業者として映像の権利処理も開始したことで、委任者数は順調に増えてきている。

システム開発業務

news71_img006.pngデータベース概要図

 芸団協CPRAでは、二次使用料ならびに貸レコード使用料で分配対象となったレコード・楽曲情報を蓄積したデータベース(レコードタイトル・収録楽曲・楽曲参加者(権利者)等の情報が登録されている。以下「作品DB」という)と、団体から提出される権利者の委任状を基に権利者情報を蓄積したデータベース(性別・生年月日等の個人基本情報から、芸名・所属事務所および団体等の情報が登録されている。以下「権利者DB」という)を構築している。現在、作品DBにはレコード約254,000件、楽曲約1,646,000件、権利者DBには約75,000名が登録されている。これらのデータベースは映像など他業務の権利者分配にも利用されている。また、権利者団体の実務担当者を集めて「データセンター推進委員会」を設置し、楽曲報告や貸与データ等のデータ処理、作品・権利者DBの管理、権利者分配額の計算処理等を行う分配システムや、権利者団体とのデータ受け渡しや情報共有のための権利者団体連携システムの開発改善に取り組んでいる。システムの精度を上げて、作業負担を軽減することは、経費節減にもつながっている。その結果、手数料を段階的に下げ、権利者により多くの使用料等を分配できるようになった。

最後に

 芸団協CPRAの権利者分配は、貸レコード使用料から始まり、25年が経過した。開始当初は、分配方法の検討・データ収集に試行錯誤を繰り返したが、芸団協CPRA発足後は、環境や状況の変化に応じた分配方法の見直しや、様々な課題・問題の発生にも、協議しながら解決する環境が実現している。
 今後、実演家の権利が拡大していく中で、分配業務もますます複雑になることが予想される。「権利者へ最大の分配」を目標に、関係する権利者団体と共に適正且つ合理的な分配を目指して行きたい。

※1:立法を担当した当時の文化庁著作権課長加戸守行氏は、その著書『著作権法逐条講義-六訂新版(公益社団法人著作権情報センター、2013年8月27日)』の中で、機械的手段の発達により、実演家の生実演に代えて実演が録音されているレコードの使用が一般化している現状を鑑み、もしレコードが存在しなければ実演家が実演を行うことで収益を上げることができたのだから、使用されたレコードに吹き込んでいる実演家であるか否かを問わずこのようなレコードの二次使用料によって生じる実演家の機械的失業に補償を与えようとの趣旨から、実演家に二次使用料を受ける権利を定めたとしている。

※2:統計学に基づき、放送された一部の楽曲サンプルによって全体の楽曲を推定するもので、放送の視聴率調査などで一般的に行われている手法。

※3:放送された全ての曲目を報告してもらう手法。

※4:1993年、著作権審議会マルチメディア小委員会が、マルチメディア時代に向け、権利処理の効率化を目的に「J-CIS(著作権権利情報集中システム)」構想を提唱した。その音楽分野を担うため、JASRAC・社団法人(現・一般社団法人)日本レコード協会・芸団協CPRAの3団体が協力し、1999年1月「ミュージック・ジェイシス協議会/Music・J-CIS」(略称MINC=Music Information on Neighboring-rights & Copyright)を設立。その後、J-CIS構想は断念されたが、MINC運営は継続し、3団体が保有する情報を統合したデータベースをインターネット上に提供している。