SANZUI vol.01_2013 summer

ロングインタビュー 坂東玉三郎

Photo / Takashi Okamoto

舞台に立つために朝起きて、
明日の舞台のために生きていく

舞台こそ人生のすべて

美という言葉はこの人のためにあるのではないだろうか?一度でも舞台を観るとその美しい姿や立ち居振る舞いが目に強烈に焼き付き、心を激しく揺さぶられる。歌舞伎俳優という枠を遙かに超え、世界の一流芸術家とのコラボレーションを実現させ、日本はもとより世界から賞賛され続ける五代目坂東玉三郎さん。歌舞伎座終演後の観客の興奮がまだ残る中、舞台芸術の魅力や将来について話を伺った。

「演技というのは人間の感情の再構築だと私は考えています。そして人間の感情表現というのは〝感受〞、〝浸透〞、〝反応〞という3つの過程を辿って生まれます。われわれ俳優は舞台で、その感情を再構築するわけです。それでは感情を伝えるために根本的に一番大切なことは何か?それは人と人とが実際に劇場という場で出会うことだと思います。今ではテレビやDVDやコンピューターなどがあり、そこで演劇も観ることができる。でも、やはり人間同士が同じ時間と空間を共有して、一体となって観るということが舞台芸術の一番の価値だと思いますし、大事にしていかなければならないことだと思うんですよ。これは劇場が大きかろうが小さかろうが、昔も今も同じだと思います。江戸時代の芝居小屋でも今の歌舞伎座でも俳優が観客の目の前にいるということ。これは古今東西、万国共通です。

今はたくさんのメディアが登場して、手軽な楽しみ方が増え、劇場に足を運ぶお客様が減少しているという時代ですが、どんなに進んだ映像があっても、目の前で繰り広げられる演者の気迫や感情の表現、アクロバティックな動きや、意外性、そして演技の奥にあるものは、実際に目の前で体験してみないことにはその本質は伝わらないと思うんです。そして芝居というのは異次元の世界です。非日常の時空間を俳優と大勢のお客様とが共有して作り上げるものです。ですから、そういう魅力を感じてもらえるものをどうやって作っていくのか、あるいはお客様がどうやってその魅力を見つけてくれるか、何を望んでいるのかを常に私たちも考えていかなければならないのだと思います」

舞台芸術は一朝一夕にできたものではない。先人の涙ぐましい精進や情熱、観客の感動が次々と伝承され、長い時間をかけて進化し熟成され続けてきた。そして今を生きる玉三郎さんも芸術家として頂点を日々追い求めている。

「私はいろんな意味で自分の人生をかけて芝居をしているつもりです。簡単に言うと、人生のすべての時間を舞台の上で演じる瞬間にかけているということのように思います。日頃の健康や自己管理もそうでしょうし、お稽古もそうでしょう。作品に対する俳優としての取組みの時間、いろいろなものを見たり調べたり、身につけるものを用意したり、時には素材から探して職人さんに作ってもらうこともあります。衣装だけでなくお化粧も含めて、いつも最高の状態で舞台に立つように務めています。スムーズにその役に入っていく手立てや舞台での芝居が絵になるために、いつも考え続け、舞台の一瞬のためにできる限りのことはやらなければならない、やり続けなければならないのです。

俳優の修行というのは 若い時にあれこれ迷ったり、いろんなことに興味を持ち、一つのことに集中することが難しい時期にあえて脇目もふらずに集中して修行したことが一生を左右し、後々どれだけ自分に返ってくるか計り知れません。年齢を重ねていくと脇を見ている暇は無くなってきます。無事に舞台を務めることで精一杯です。若い時のように終演後どこに行こうか?開演前にどこかへ寄っていこうかとい う気などもおきなくなります。今では舞台に立つために朝起きて、終演したら明日の台のために生きていく。嫌でもそうなっていくんです。若い時は力があります。力が有り余っている。その余力をどうやって内なるものに持っていき、それをどう一生続けていくのかが俳優としての生き様です。

普通に生きてきて、普通の人間が舞台に立つのではない。良かれ悪しかれ俳優は超人的でなければならないのでしょう。だからこそ凝縮された修行をして舞台に立たなければお客様は感動しないし納得して下さいません。舞台で生き残るためには一人ひとりの自覚と修行が不可欠です。そしてそれを何気ない形で見せることがさらに大事です。凄いでしょと言って舞台に立つのではなく、何気なくやるからこそお客様は心から楽しめると思うんです」

すべては舞台の美のために、そして玉三郎さんの美の奥には厳しい修行や鍛錬、飽くなき美への好奇心と探求があった。演技の奥にある世界についてさらに話は続く。

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