SANZUI vol.01_2013 summer

特集 声

Photo / Ko Hosokawa   Text / Kiyoshi Yamagata

人間はこの世に生まれると、
真っ先に、大きな『声』で泣く。
誰もが生まれた時から
『声』で意志や感情を演じている。
舞台芸術も『声』なくしては始まらない。
では『声』とは何か?
その役割や魅力に迫る。

声は心の響き! どれだけ心を声に響かせることができるか。
それが一生目指し続ける私の目標です!
声のこだわり01 島田歌穂 歌手

声というと、まず思い出すのが子供の頃の記憶。私は音楽家の父と、宝塚を退団した後、ジャズ歌手をしていた母の間に生まれました。私がお腹にいた時も母はステージで歌い、父は自宅でお弟子さん達に歌のレッスンをしていた。奥の部屋でそれを子守歌代わりに聴いて育った私は、お弟子さんが音を外すとケラケラ笑って大きな声で正しい音程で歌っていたそうです(笑)。今考えると、本当に声と音楽に包まれて生まれ育ちました。

4歳の頃からバレエ、ピアノを習い始め、発表会でミュージカルの主役を演じ、それがきっかけで子役やアイドル歌手もやり、演じること、歌うことの楽しさと厳しさを少しずつ経験していきました。18歳の時、たまたまミュージカルのオーディションを受けて主役のシンデレラ役に合格。初舞台でいきなり主役...本当に自分に出来るのかという不安の中で稽古を重ね、いざ初日にお客様の前に立った瞬間、それまで自分の中で眠っていたエネルギーのようなものが、一気に心の奥底から湧き出てくるような感覚を覚えたんです。歌、踊り、芝居、大好きなことがいっぺんにできる!ああ、やっぱりミュージカルってこんなに楽しいんだ。私はもうこの道に進むしかない!と舞台の上で固く決意しました。これが私にとってのミュージカルの原点です。

私は歌も踊りも全て芝居だと信じます。歌詞は全て台詞であり、その台詞をどう解釈し、どう深く表現していけるか。よく台詞は歌うように、歌は語るようにと言われます。声の高低、強弱、リズム、テンポ、そして間(ま)...ストレートプレイで学ばせていただいてきたことが歌の表現に大きく反映されていると感じます。一番大切なのは心。そして、声は心の響き。どれだけ心を声に響かせることができるか。それが一生目指し続ける私の目標です。

やはり日本人として日本語の美しさを声に出すことは大切にしていきたいですね。井上ひさし先生の作品をはじめ、さまざまな舞台を通し、日本語の繊細さや素晴らしさを強く感じてきましたし、民謡や唱歌など、日本の歌も必ずコンサートやライブで取り入れています。西洋の作品、楽曲にも挑戦し続けると同時に、日本人ならではのオリジナルミュージカルや朗読劇、そして日本の歌を心のド真ん中に置いていきたい。父と母が残してくれたこの声で、どこまでどんな形で心を表現していけるか。それには自分自身の心もいろいろなものを深く響かせて成長していかなくては。私にとって声は本当に大切な一生の宝物です。



PROFILE 1974年子役デビュー。82年「シンデレラ」で初舞台。87年「レ・ミゼラブル」で脚光を浴び、2001年までロングランに参加。出演回数は千回を越えた。同作の世界ベストメンバーに選ばれ、日本の女優として初めて英国王室主催の「ザ・ロイヤル・バラエティ・パフォーマンス」に招待される。また、1990年にはベストキャストとして参加した同作アルバムがアメリカにてグラミー賞を受賞。ストレートプレイからミュージカル、コンサートやライブ活動など女優として歌手として幅広く活躍。
芸術選奨文部大臣新人賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇賞優秀女優賞など受賞多数。現在、大阪芸術大学教授として後進の育成にもあたる。

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