SANZUI vol.10_2016 spring
Live in the Nature
Photo / Kenichi Hanada
ITSUKUSHIMA KANGETSUNOH自然のなかで躍動する能のエネルギー
10月某日、嚴島観月能が始まる数時間前の浜辺。夕陽を浴びながら、4人家族が静かに海を眺めていた。東京から来たという。「この公演だけは寝たことがないって友人が言うから」とお母さんが笑う。一度はお能を観てみたいと思っていた。
やがて辺りが暗闇に包まれ、能の始まりとともに、潮が海に浮かぶ能舞台を包んでいく。ちゃぷちゃぷちゃぶ。不規則な波の揺らめきに、般若の目が光る。鋭い囃子、力強い掛け声が、空に抜けていく。見上げれば冴えわたる月。静かに激しく能が満ちていく。
「自然の中だと、演者のエネルギーが大きく拡がっていく感じがすごい!」終演後、名古屋からの女性は、ここなら何度でも来たいと、興奮気味に語ってくれた。
もともと能は何百年も野外で上演されてきた。光、風、雨、雲、山の色、虫の音。いつも絶え間なく変化する演出があり、各時代の役者は、その中で能をいかに魅せるか腐心してきたはずだ。旅先で自然を感じながら、能に出会う。そんな時間もいいかもしれない。
SANZUIの著作権は、特に明記したものを除き、すべて公益社団法人日本芸能実演家団体協議会
実演家著作隣接権センターに帰属します。
営利、非営利を問わず、許可なく複製、ダウンロード、転載等の二次使用することを禁止します。