裏舞台という名の表舞台
Text/Taisuke Shimanuki Photo/Ko Hosokawa
多くの人たちによってつくられる舞台。
主役のまわりに視線を転じてみると、
至る所にプロの技が輝いている。
舞台を支える人に光を当てる。
STAGE 10特効 有限会社スパーク
ヒットチャート上位を彩った、人気曲・定番曲が次々と演奏され、観客の盛り上がりは最高潮を迎えている。次の瞬間、巨大な破裂音と一緒に紙吹雪と銀色のテープが頭上を舞い、会場全体が幸福な一体感に包まれる。こんな鮮烈なクライマックスをコンサートの思い出として記憶する人は多いだろう。
特殊効果、通称「特効」と呼ばれる職業は、こういったライブなどで使われる、火炎、スモーク、紙吹雪といった特殊効果(スペシャル・エフェクト)を作り出す専門職だ。1985年創業の有限会社スパークで働く畑中力さんは、そんな特効のプロフェッショナルだ。
「父親が創業した会社に勤めて、もう18年になります。現在は、ライブやTV番組、演劇、企業イベントなどを中心に活動しています」
バラエティー番組でスペシャルゲスト登場時に使われるスモークや、降りしきる雪を表現する紙吹雪、ガンエフェクトなど、特効が活躍する機会は多い。
今回の取材では、火の玉や火柱を上空に噴出する機材や、花火を実際に動かしてもらったが、たった一基でも、その熱気、華やかさに思わず「おお!」と歓声を上げてしまう迫力がある。こういった機材を数十基、時には数百基も駆使して作られる華やかな特効演出が、伝説として名を残す数多のライブを盛り上げてきたのだ。
「自分のオペレートで会場が一斉に沸く瞬間はやはり楽しいですね。ドームやアリーナといった大規模会場の仕事も好きですが、もうちょっと規模の小さい会場で、アーティストやお客さんとの距離が近い仕事も楽しいです。感動や驚きを、肌で実感できるのがたまらない。新人のアーティストの中には、特効を初めて体験する人もいますから驚きが新鮮なんですよね。でもそこに至るまでの特効の仕事はとっても地味なんですよ。クライアントであるアーティストや演出家からイメージする演出を聞いて、過去の経験や、小規模な実験から、理想に近いプランを考える。現場に入れば、機材をセッティングして、微調整しながら本番に備える。ライブ中、アーティストの動きを把握しながら操作する照明や音響と違って、特効は『ここぞ!』という瞬間のインパクトを求められる仕事。裏方の中でも、特に裏方的だと思います(笑)」
畑中さんはそう笑って謙遜するが、特効の専門性は欠かすことのできないものだ。収容人数、天井高、付帯設備など、同じアーティストのツアーでも会場ごとに特徴は大きく異なる。また観客が入場すると室温が上がり、会場内の風の動きも変化する。スモークの設置位置や方向を決定するには繊細な判断が必要になる。ライブが始まれば、機材トラブルなど不測の事態も起こる。たった1つのミスが、ライブの印象を損なうこともあるのだ。
「特効の仕事で大切なのは冷静であること。アリーナやドーム規模のライブになると、点火スイッチの操作は私がやるにしても、各機材の責任は若いスタッフたちが負うことになります。お客さんだけでなく記録用のカメラマンの動きも配慮しながら、事故が起こらないようにしないといけない。緊張しすぎてもいけないけれど、特効の仕事が生死に関わることを忘れてはいけないんです」
ホール規模でのライブなどの場合、畑中さんは必ずアーティストの姿が見える舞台袖でオペレーションを行う。本番になってテンションが上がり、前もって決めておいた段取りが頭からスッ飛んでしまうアーティストも少なくないからだ。火柱を噴出すべきタイミングであっても、危険であれば絶対にスイッチは押さない。その見極めと決断は、特効スタッフだけに委ねられている。
「機材のことを一番熟知しているのは私たちですからね。ライブの興奮を途切れさせるのもいけないし、安全性も確保しないといけない。つまりいつも冷静に。そして柔軟さを忘れず臨機応変に、ですね」
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