美匠熟考
Photo / Anna Hosokawa
Number:015 Noh flute能管一噌隆之(能楽師一噌流笛方)
能楽の笛「能管」の音は、実は多くの人に耳馴染みがあります。よくテレビの効果音などで使われるピーッと甲高い笛の音、あれが能管です。ヒシギというその独特の音は空気を切り裂くように力強く、「瀧止」と呼ばれた銘管もあるほどです。
能管は、内部にノドという薄い竹筒を入れて、構造的にわざと音程を崩しています。世界的にも珍しいようで、この構造が幽玄な調べを生み出し、能の雰囲気を一層効果的に演出します。だからこそ、伝承は口伝が基本。「ヲヒャ~ ロルラ~」と呪文のような言葉(唱歌)を唱えながら、旋律を覚えていきます。
一本の耐用年数が300年前後。一人の笛方が一生で使う笛は、体力などに合わせて3本位替える程度。需要が限られていることもあり、玄人仕様の笛を作れる職人は全国で数少なく、技術の伝承が課題ですね。
Number:016 Hat映画「男はつらいよ」
寅さんの帽子露木幸次(美術・装飾)
小道具の担当として「男はつらいよ」に関わったのは、第8作から。「寅さん」のイメージは、決まっていました。
渥美清さんは、第1作で使用した帽子をとても気に入っていましたが、とうとう穴が開いてしまい、新しい帽子を準備しました。ただ、違和感があったようで、生地を「ワンタンの皮みたい」と言っていましたね。生地の厚さやツバの長さに、こだわりがあったようです。ようやく最初の帽子を作ったメーカーの職人が見つかり、何度か作ってもらいました。フェルトの生地がなくなったときは、織ってもらったこともあります。
被り方や角度にもこだわりがあったようで、鏡で確認しているところを見かけました。てっぺんの前のくぼみも、ご自身で、クセを付けていたように思います。リボンの形も、第1作から変わっていませんから、帽子への思い入れがあったのでしょうね。
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