エッセイ
Illustration / Asuka Kitahara
岡崎忠彦「curiousであり続けること」
デザイナーだった私が故郷の神戸に戻り、ベビー・子ども服の仕事を始めて12年、経営トップに就いて5年が経った。大きな可能性を秘め、日々成長する子どもたちの洋服を作るこの仕事を、誇りに思っている。
インターネットの普及でコミュニケーションの方法が劇的に変わり、世の中はめまぐるしい変化を遂げている。10年後、15年後の社会がどうなっているのか、もはや誰にも分からない。成長過程にある子どもの可能性が未知数であるように、これからのビジネスも大きな可能性を秘めている。
さて、表題に掲げた"curious"とは、英語で「好奇心が強い」ということ。好奇心がなければ前には進めない。終戦直後の貧しい時代に当社を創業し、母親たちに新たなライフスタイルを提案した祖母は、少年時代の私によくこう言っていた。「好奇心がなくなったら終わりよ」。その言葉の意味を、今はよく理解できる。いかにおいしいワインも飲んでみなければ分からない。大切なのは知りたいという欲を持ち、体験することだ。体験なしに感動は生まれない。
知らないことは恥ずべきことではない。それが大きな力となることがある。私の会社が、新生児用の肌着を開発したときのことだ。「この世に生まれて初めての衣服」に新しい上質な素材を求め、日本の桑の葉を食べて育った蚕の繭で作った100%国産シルクを使うことにした。繊細な素材だが、繰り返し洗って使える丈夫さがなければいけない。何度も試験・改良を重ね、2年半がかりで納得いく商品を作ることができた。開発に協力してくれた着物屋の主人に言われた。「シルクのことを知らないから無茶ばかりいう」。まさにその言葉通り、「知らない」ということが不可能を可能にしたのだ。
生きていく上で、curiousは最大の武器となる。新しい人に出会い、新しいアイデアや情報を取り入れ、本物に触れる喜びを味わおうとする限り、人も組織も成長を続けていける。そう信じている。
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