SANZUI vol.07_2015 spring

SANZUIぱっしょん

この場所で、みんなでつくる ~雲南市民劇~

島根県雲南市。人口約4万人の町で、のべ6,000人近い観客を動員している市民劇がある。出演者も裏方も公募制。年代は小学1年生から70代まで幅広く、演劇初挑戦という人も多い。

募集の際に決まっているのは大まかな題材程度で、具体的な中身は参加者たちの意見交換の中で形になっていく。議論を通して、参加者の距離も縮む。市民劇がきっかけで雲南市に移住してきた人や、参加者同士で結婚したカップルもいるそうだ。市民劇は、仕事や学校、家庭に次ぐ「三つめの場所」になっている。

作・演出を担当している亀尾佳宏さんは、最新作「Takashi」で若手演出家コンクール2014(主催:日本演出者協会)の最終候補4名に選ばれた。本職は高校の国語の先生。演劇部の顧問として、部を何度も全国大会に導いている。市民劇に携わるようになったのは2012年から。「ここは演劇をやる機会も場所も少ない土地だから、経験や年齢を問わず広く集めてみよう」と公募制を採った。

亀尾さんは、大学時代を大阪で過ごした。島根に戻ってきたとき、もうお芝居はできないと思っていたそうだ。市民劇の参加者や高校の教え子の中にも、夢を叶えるため東京に行きたいという子がいる。でも、「田舎ではやりたいことができないのだろうか」という疑問がずっとあった。

「いろんな要因でお芝居を仕事にすることができなかった人も、お芝居をつくったり観たりする楽しみを丸ごと諦める必要はないはず」と亀尾さんは言う。「地元にいても、別の仕事をしながらでも、やりたいことができるということを見せたい」。

目指すのは、お芝居を観るために島根に来てもらうこと。「その場所に行かないと観られないお芝居が日本中にあったら、きっと、もっと面白いと思うんです」。


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