美匠熟考
Photo / Anna Hosokawa
Number:013 Music sheet作詞 永 六輔 作曲 中村八大
「上を向いて歩こう」の譜面中村力丸(音楽プロデューサー)
1961年7月21日、父のリサイタルで初めて上演されたときの記録が、この譜面に遺されています。永六輔さんと父による共同作業の結晶は、半世紀を超えて、聴かれた方、歌われた方、演奏された方の気持ちに寄り添いながら、新たな生命をいただいています。
小さく書かれた「ウラ声入るやつ」を、弾けるような若さと真っ直ぐな魅力で表現された坂本九さんの歌声も、絶えることなく流れ続いています。そしてこの歌の創作や、その後の世界に向けての展開に係わっていただいた音楽人の夢も、現在に受け継がれています。
音楽を記録・再生する技術がどれだけ発達しても、音楽は刹那にしか存在しないものです。その刹那にかけた思いと、だからこそ未来に渡って歌い継がれていってほしいという願いを、この譜面が伝えてくれているように思います。
Number:014 Apron舞台「放浪記」
カフェー女給エプロン三閒(記者)
女優、森光子の名とともに語り継がれる名舞台「放浪記」は奔放な生涯を送った作家、林芙美子がモデルだ。代表作の言葉を引きつつ、菊田一夫が自分の知る芙美子を芝居の中で生き直させた作である。女優はこれを2017回も演じつづけた。菊田は「お芙美さんは嫌われていたんだ」と常々口にしていたが、性格の剣呑さは生きる必死さが生んだものであり、それを全肯定するた
めに台本は書かれた。
第2幕第1場のカフェー「寿楽」の場面で、女給の芙美子が着るのがこの割烹着。お盆をふりまわし、にぎやかに踊る場面は「放浪記」の中でもひときわ印象的だ。着物の上につける純白のエプロンは昭和初年頃、モダンの象徴でもあっただろうか。が、白をまとう女たちはどす黒い貧窮にあえいでいた。ひらひらと舞う白い布には悲しみが映っているようにも思えるのだ。
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