特集 うたう
私たちは、歌うことで生きている。
さまざまな人生と歌でつながる人がいる。
うなることで、言葉を遥か遠くまで伝えられる人がいる。
自分自身という楽器から生の歌声を奏でる人がいる。
次元を超えて、愛のメッセージを発信する人がいる。
ジャンルも表現も違うけれど、みな、歌うことを心から楽しんでいる。
みな、歌うことで生きている。
コラム日本語を歌・唄・謡う中山一郎(元大阪芸術大学教授)
前々から「日本語をうたう」ということについて疑問を感じてきた。例えば、ソプラノ(いわゆる、洋楽)に接しても、"これが日本語なのだろうか...!?"。一方、古来、「日本語をうたう」ことを営々と培ってきた伝統芸能(いわゆる、邦楽)の世界でも、"何と洋楽的な...!?"、等々。前者の違和感の根底には、「洋楽的唱法」という異文化を全く無批判に直輸入してしまった、明治初期の「洋楽受容期」以来のこの国の誠に歪な声楽教育の歴史があると思われるし、また後者には、コトバと同様に、音曲も時代と共に変化せざるを得ないが故の、「伝統」というものとのジレンマがあるものと思われる。
ならば、日本語をどのように「うたう」のか...? この疑問を解くためには、現在、日本語がどのように"歌・唄・謡" われているかを知ることが先決、と考えるようになった。が、世の中には邦・洋楽を問わず多数のCDやDVDなどが存在するが、それらは演目(即ち、歌詞)が各々異なるが故に、この疑問を解く鍵にはなり得なかった。そこで、同じコトバ(共通詞)/かえでいろづく やまのあさは/を用意し、日本の「声の音楽」の殆ど全ての歌唱分野(32分野)の79名(うち、人間国宝16名)に、各分野の典型的な歌唱表現法でこの共通詞を「うたい分け」して貰った。収録には6年を要したが、こうして一般公開したのがDVD全集『日本語を歌・唄・謡う』である。歌詞が同一であるが故に、各々の歌唱表現法の同・異が一目瞭然に把握していただけるものと自負している。
全600チャプタに及ぶこのDVD全集が「声のテキスト」として次世代に受け継がれれば、と願っている。
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