特集 うたう
私たちは、歌うことで生きている。
さまざまな人生と歌でつながる人がいる。
うなることで、言葉を遥か遠くまで伝えられる人がいる。
自分自身という楽器から生の歌声を奏でる人がいる。
次元を超えて、愛のメッセージを発信する人がいる。
ジャンルも表現も違うけれど、みな、歌うことを心から楽しんでいる。
みな、歌うことで生きている。
いきものがかり音楽グループ
歌は作った時点、歌った時点が完成ではなくて、聴いた人が完成させるもの
Photo / Ko Hosokawa Text / Makoto Hasegawa
いきものがかりは本当に歌を大事にしているグループである。自己表現、自己アピールする以前に、いい歌を届けることに集中している。水野良樹さんと山下穂尊さんが歌を作り、吉岡聖恵さんが歌うのが彼らの基本的なスタイルだが、もともと水野さんと山下さんの路上ライブからスタートして、"歌好き"3人が集まったグループだ。歌うことの魅力について彼らはこう語る。
「私は家族が多くて、曾おばあちゃんも一緒に住んでいたんですが、大人ってすぐ歌を教えたがるんですよ。雨が降ったら『雨』。赤い靴を買ったら『赤い靴』。身近なところにいつも歌があった。昔のテープを聴くと、私が家族の前で歌うと、すごく褒めてくれる。歌うのも楽しかったんですが、反応があるのが子供ながらにうれしくて」(吉岡)
「高校で路上ライブを始めたんですが、とにかく歌いたいって感じでした。カラオケはお金がかかるけど、路上ならタダだし(笑)。自分達の遊び場を見つけたみたいな感覚。しかも調子のいい時は人が聴いてくれる」(山下)
「単純にそっぽ向いていた人達が僕らの歌で振り返ってくれたのがうれしかったんだと思います。根本的には3人ともさびしがり屋で褒めてほしい気持ちが強い。頑張って歌ってたら集まる人が増えて、その流れの先に今がある。ミュージシャンとしてはできないことだらけの3人なんですが、歌によって人と出会い繋がってきた。人間同士だと性格の違いで限界がありますが、間に歌があると、考え方の違う人、会ったことのない人とも繋がっていける」(水野)
幅広い層からの支持は路上での経験が大きいようだ。
「路上って、特定の層だけが集まることはほぼないんですよ。かっこいい男子2、3人でやってたら、女子が集まるかもしれないけど、普通は子供連れやサラリーマン、様々な人がいる。みんなを立ち止まらせるにはどうするか、かなり考えました。男女いるのも重要で、女性ボーカルを探すことになり、近所にいたぞと(笑)」(山下)
「路上って音楽をやる場所じゃないし、みんな用事があって歩いてるわけだから、押しつけがましくなく、いかに立ち止まらせるかが難しい。吉岡が元気よくて、男子ふたりが静かにしているのが絶妙なバランスで(笑)。場の空気を読む訓練にもなった。この客層、この人数なら次はこの曲って互いに言わなくてもわかるようになりました」(水野)
さりげなくそばに寄り添ってくれるのが彼らの歌の魅力のひとつ。吉岡さんのボーカルも強烈な個性を主張するわけではないのに、芯があって、確かな存在感がある。
「多分、強烈な個性がないという強烈な個性なんですよ。バラエティーに富んだ曲作りを心がけているんですが、新たな曲調のものでも吉岡が歌うことでいきものがかりになる。そこに助けられているところはありますね」(山下)
「吉岡のモノマネをする芸人さんが少ないのは誇りでもあって。多分、クセをつかみづらいんでしょうね。彼女はクセのある歌い方もできるし、器用なんですが、そこに逃げずに、歌を伝えることに専念していると思います」(水野)
彼女自身はどんな意識で歌っているのだろうか?
「レコーディングでまず歌の物語を掴むことに集中するんですが、ライブという空間に入ると、また違う感じになる。楽しい曲で笑顔になってくれたり、悲しい曲ではその表情が変わったり。ライブって不思議だなと思います」(吉岡)
NHK全国学校音楽コンクールの課題曲「YELL」、NHK ロンドン2012放送テーマソング「風が吹いている」、全国高校サッカー選手権大会応援歌「心の花を咲かせよう」など、大きな期待を背負いつつ名曲を生みだしてきたことからはグループの底力が見えてくる。
「出会いに助けられましたね。僕らは路上ライブから始まったわけで、社会と関わっていくグループだと思うんですよ。違う分野で頑張ってる人たちとリンクできることを探して、外と結びつくことで良いものができるグループだし、そういうことをやっていくべきだと思っています」(水野)
「ゼロから曲を作る2人の産みの苦しみを見ているからこそ、歌を信頼して取り組めるんですが、タイアップはさらにいろんな人の力を借りて生まれてきているので、そこでもまた奮い立たせてくれるものがあります」(吉岡)
いきものがかりの歌の根底には人との繋がりがあるのだろう。こんな言葉からも彼らの歌への姿勢が見えてくる。
「MCでもよく言うんですが、曲は作った時点では完成してなくて、聴いてくださる皆さんが完成させるものだと思っています。歌は聴かれないと歌にならないですから。3人しか知らなかった曲が遠い街の女子高生の恋や誰かの人生に繋がって、願わくばプラスの方向に変わってくれることに喜びや生き甲斐を感じさせてもらっています」(水野)
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