ロングインタビュー 仲間由紀恵
そこに居るだけで役の存在感を出せるような、そんな女優になっていきたい。
先輩から得たものを受け止めて、そして後輩へ
――役柄的にも蓮子は花子の先輩でよき友。花子を支えていきます。そんな蓮子が登場すると、場が引き締まるような存在感がありますね。
頭が大きいからというのもあるかもしれないですね(笑)。蓮子のヘアスタイルは地毛で結ってもらっているんですけど、あの格好であの頭で現場に入ると、何だか楽しくなっちゃうんです。蓮子風に「何かしら?」「ごきげんよう」って言いながらみんなと話しをするのが楽しくて仕方ない。それにしても、あの格好は迫力ありますよね。誰も寄せ付けない迫力(笑)。吉田鋼太郎さんが蓮子の嫁ぎ先の旦那さん役なんですけど、吉田さんと言えば(舞台の)シェイクスピアのリア王、私にとっては迫力のある大先輩です。そんな吉田さんが相手でも、あのヘアスタイルなら私も隣に立てるかもしれない! と思いながらやっています(笑)。
若い俳優さんとのお芝居からも刺激をもらっていますが、吉田さんのように深みのあるお芝居をされる先輩とご一緒するのは本当に楽しくて、ものすごく気持ちを引き上げてもらっています。吉田さんが出演されているドラマや舞台を一観客として見ているときよりも、共演者として目の前という特等席で大先輩の生の演技を見ることができるので、吉田さんの気持ちの揺れがダイレクトに伝わってくるんです。それはとても楽しいですし、役者としてもたくさん学ばせてもらっています。そうやって先輩から得たものを今度は自分自身が後輩に、というプレッシャーもあります。それはいままでにない新しいプレッシャーですね。
――確実に前進して女優の道を開拓しているという証ですね。その道を歩くことになった、そもそものきっかけも伺いたいのです。なぜ、女優になろうと思ったのでしょう?
沖縄で育って、スカウトに近い形でこの世界に入ったんですが、歌ったり踊ったりお芝居をしたり、いろいろ経験させてもらって、高校を卒業するときにはお芝居に面白さを感じて、ずっとやっていきたいと思っていた気がします。大学はいつでも行けるけど、この仕事はいまじゃないとダメだって、変な割り切り方ですよね(笑)。ただ、劇団に入っていたわけでもお芝居のレッスンを重ねてきたわけでもないので、がっつり芝居を突き詰めてきた方と比べたら勉強不足なところはあります。けれど、現場でしか吸収できないことも必ずあるはずで。多くの役者さんと向き合って、お芝居をして、そうやって積ませてもらった経験とその時間は、私にとってとても貴重なものです。
――かけがえのない大切な時間ですね。スカウトされる以前から芸能界に興味はあったんでしょうか? それとも、ほかに夢があったのでしょうか?
芸能界の華やかな世界への憧れはごくふつうに持っていたと思います。憧れを持ちつつも、私、幼稚園の頃から10年ぐらい、ずっと琉球舞踊をやっていたんですね。師範になるためのコンクールに出たりしていたので、きっとこのまま踊りの先生になるんだろうなっていう感じではありました。踊りは好きでしたから。その琉球舞踊がいまの女優の仕事に直接つながっているかはわからないですが、続けるということを含めて、何か精神的な面で活かされていると思っています。
――舞踊=優美というイメージがあるからなのか、お話を伺っていてもそういったものを仲間さんから感じます。つねにそんなに穏やかなんですか?
昔からなんですけど、ライバル心がないんですよね。誰かがこうなったから私もこうなりたいとか、そういう競争心がない。だから、若い頃は「君は仕事に興味を持っているのか?」と言われたこともありました(苦笑)。でも、自分が「こうしたい!」「好きだ!」と思ったことはとことんのめり込むタイプ。それが私らしさなのかなと。
経験を重ねたからこその余裕とこれからの目標
当然、自分のなかにないものを求められることもあるので、それはプレッシャーですし、悩みます。最近で言うと『森光子を生きた女』というスペシャルドラマで森光子さんを演じさせてもらったんです。そのときは実際の森光子さんを演じるのではなく、台本のなかの森光子さんを演じようと思ったんですね。とは言っても、台本のなかの森光子さんもとても強い女性。戦後の日本という時代で、どうしても芝居をやりたい、主演をやりたい、仕事をやりたいという熱い思いを持って、前へ
前へと生きていた方。さっきも言ったように、私にはガツガツ感やギラギラ感がそなわっていないので、なかなか感覚がわからない。でも、監督はつねにそれを求めてくる。私の平常心よりもずっとずっと高いテンションで生きている方だったんですよね、森光子さんという方は。
そういう役を演じるのはとても大変でしたが、作品が完成したあとにたくさん評価をいただけたんです。そのとき、あきらめずにギリギリのところまで頑張る、そしてさらにそれを超えられるようにその先を目指す、そうやっていくと新しいものを見つけられるんだなと思いました。でも、現場は本当に大変で。「わかってますよっ!」って声をはりあげて監督とケンカするようなこともありました。いまは「必ずできる」と私を信じてくれた監督に感謝しています。
――そういう現場にはさまざまなドキドキが詰まっていると思います。高揚感を感じる瞬間はどんな時ですか?
そうですね、お芝居をしているといろんなドキドキがありますけど、いまやっている朝ドラ『花子とアン』でいうと、たとえば、吉田さんとのシーンで、お互いに気持ちが激しく揺れ動くシーンを一緒に乗り越えていくお芝居はワクワクするしドキドキするし、心配も緊張もあります。その感覚はたまらなく楽しい瞬間ですね。
――そんな仲間さんの演じる蓮子を通じて、女性の生き方についても深く考えさせられます。
考えますよね。思うのは、いまの時代の女性は働いて、家事もして、さらに女性らしくあってほしいとか、そういうことが当たり前だよねって、求められていることが多い気がするんです。大変だなぁって思います。もちろん、男性と対等に頑張れる、仕事においてはいい時代かもしれないけれど。私の場合は、ずっと仕事をしていて楽しい反面、仕事と私生活の境目がなくなってしまって、女性のしあわせがわからなくなっているのかもしれません。
現在、35歳。先輩たちからは、30代はプレッシャーもあるけど楽になるよと聞いていて。たしかに、20代で経験してきたことを活かせる年齢ではありますね。すべて自由にとはいかないけれど、やりたいことが明確に見えてきて、そこに向かって進んでいけるようになっている。やりたいことというのは、大きな目標ではなく小さなこと。お芝居においての、こう演じたいというものですけれど、30代40代でたくさん自分のなかに経験を貯えて、60代70代になったときに、役に入るとか役をつくるとかではなく、撮影現場にただ居るだけで、呼吸しているだけで、その役としての存在感を出せるような、そんな自然体で演じられる女優になっていきたいです。
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