美匠熟考
Photo / Anna Hosokawa
Number:007 Recording Microphone美空ひばり「みだれ髪」 収録用マイク反畑誠一(音楽評論家)
昭和62年5月29日美空ひばりは50歳の誕生日を病床で迎えた。彼女はその5か月後、復活のレコーディングに臨んだ。作品は星野哲郎作詞、船村徹作曲「みだれ髪」。収録は東京赤坂の日本コロムビア本社3階スタジオ(昭和48年創設)で行われた。クラシックなどが一同に収録できる機能が整っており、数々の名曲がここから生まれた。美空ひばりの復帰記者会見は10月9日、鏡開き後「みだれ髪」も披露された。スタジオ入りに際しては、本社玄関から赤絨毯が敷かれていた。船村さんは「40年も歌い続けた喉も身体の休養とともに声の質を若返らせたようだ。もともと医学分野でも研究対象となるぐらい強靭だった」と著書にある。「『みだれ髪』は作詞者星野哲郎さんにとっても渾身の作品であった」とも。収録はオーケストラの伴奏で同時
録音。それも2回だけ。この緊張感と人間ドラマをマイクロフォンは忠実に「伝説」にした。
協力:株式会社ひばりプロダクション
Number:008 Butai Geta舞台下駄吉田和生(文楽人形遣い)
舞台下駄は文楽の人形遣いが人形を高く差上げるために履く特殊な下駄です。お客さまには見えないものですが、人形を遣う上でとても大切なものです。15cm前後から40 cmくらいまであり、人形遣いの身長や人形の大きさで高さが決まります。私の初めての下駄はお囃子の方が作ってくれました。器用な方で、私に役がついた時に「和生さんも、ひとつ作ったるわ」と。もう40年ほど使っていて、その方が亡くなられた今では形見みたいなものです。
鼻緒は自作です。自分の足に合ったものができますし、選ぶ布に持ち主の個性が出ますね。底のわらじは足音を消してすべりを良くするためのもので、人形遣いの若い者がつけます。下駄だけでなく人形の胴も、自分で使うものは自分で作ります。工夫して自分に都合よく作る道具は、苦労せずに楽に使えますね。
(聞き手・文 浅野未華)
協力:一般社団法人 人形浄瑠璃文楽座むつみ会
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