特集 変身
舞台の魔法
たとえば、男が女になる。たとえば、女が男になる。
たとえば、若者が年寄りになる。たとえば、現代人が未来人になる。
舞台の上で、ドラマの中で、さまざまな演者が、
鮮やかな「変身という魔法」を見せてくれる。
華やかな「変身という魔法」で魅せてくれる。
しかし、それは、魔法などという簡単なものではなく、
演者の一生における努力の結晶であり、
変身しても変わることのない強い意志であることをあなたは知るだろう。
要潤14 年目に辿り着いた「変身」のかたち
自らを客観視することで見えてきた俳優としてのあり方
Photo / Ko Hosokawa Text / Taisuke Shimanuki
「俳優」の特徴を表す形容は無数にある。他人になり代わり、異なる人生を表現することが俳優の職能とするなら、どんな現場でも技巧的な演技力を発揮する演技派俳優や、役柄に合わせて外見をも変えてしまうカメレオン俳優は、それぞれの役者が見出した変身のためのメソッドであると言えるだろう。では、彼の場合はどうか?
要潤さんは、2001年に『仮面ライダーアギト』でデビューして以来、いわゆる「イケメン俳優」の枠に収まらない独創的な役柄に臆することなく挑戦してきた。例えばギャグマンガ原作の映画『ピューと吹く! ジャガー』では、縦笛を武器にするシュールな主役を演じた。出身地である香川県PRのために「うどん県副知事」に扮したことも記憶に新しい。じつに多彩な経歴を見返すと、自らの既存のイメージを覆すことを恐れないカメレオン俳優としての姿が浮かび上がる。だが要さんはこう言う。
「役者にはキャラクターを内面から作っていく『憑依型』と、外側から作っていく『客観視型』の2パターンがあると思っていますが、僕は明らかに後者です。プロデューサーや監督が配役を決める時に意識しているのは、役者たちが生み出す演技のハーモニーですよね。だとすれば『要潤』らしい演技を期待されて僕は声をかけていただいている。ですから、一番気にかけるのは自分らしさと他の役者とのバランスなんです。現場の空気、役者同士の関係を注意深く観察しながら自分のポジションを発見していく。パズルのピースを見つけてはめていく感覚に近いです」
インタビューは、今年4月から新シリーズが放送開始した『タイムスクープハンター』の撮影現場で行われた。要さんは戦国時代や江戸時代を調査する未来人、時空ジャーナリストを演じる。未来からの歴史の改変を避けるため、常に傍観者であろうとする役柄は、自分を客観視型と分析する要さんのハマリ役だ。
「歴史ドラマですから各時代の知識は勉強しますが、調べれば調べるほど深い演技ができるかというと、それは別の話。現場に対して一定の距離を保ちつつ、いざカメラが回り始めたら瞬時に役を演じられることが、『タイムスクープハンター』で僕に求められている客観性だと思います。付け加えるなら、オンとオフの境界がないことがプロの俳優の条件だと僕は考えています。いつ『スタート!』と言われたとしても、瞬時に役を演じられなければダメ。今年で俳優生活14年目を迎えますが、仮面ライダーでデビューして以来、僕は『変身しっぱなし』なのかもしれません」
インタビュー中、冗談を差し挟みながらも真摯に俳優論を語る姿は、たしかにテレビや映画で見る「要潤」そのものだった。変身し続けながら、同時に自分を客観視すること。それが要さんが辿り着いた「変身」のかたちなのだ。
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