エッセイ
Illustration / Asuka Kitahara
矢崎和彦「舞台を観る 舞台に立つ 舞台をつくる」
2013年8月、神戸で行なわれたサザンオールスターズの復活ライブに出かけた。4万人を超える観客は3時間におよぶ生のステージに魅了された。10年前にも神戸で行なわれたステージを見ていたが、今回はその時の何十倍もの感動を覚えた。病を克服し再び舞台に立つ桑田佳祐は32曲もの名曲を休むことなく歌い続けた。私は魂の歌声に触れた気がした。
私は彼らと同世代で、学生時代にはブルーグラスというジャンルのバンドを組んで活動していた。フォークソングの洗礼を受けて育った私は大学に入ると、当然のようにギターを買い、音楽サークルに入った。そこで出会ったブルーグラスは、当初、どの曲目を聴いても同じようだと感じていたが、夏に入る頃にはこの音楽の虜になっていた。ライブハウスなどで演奏をさせてもらうこともあった。得たバイト代は殆どの場合、その場所での飲み代に消えた。葉山マリーナで演奏していた時には、クルーズを終えて通りがかった中村玉緒さん、勝新太郎さんご夫妻に演奏を聴いていただいたこともあった。中村さんからは「頑張ってね」と声を掛けられた。ご本人の記憶に残っているとは思えないが、テレビでしか見たことのない有名人から、そんな風に接していただいたことは、私の心に大きなタカラモノとなった。以来、そのように人に向かい合える人間になりたいと思い続けているが、器の違いは歴然で58歳になった今も中村さんのようには振る舞えない。
私が経営するフェリシモは全国の生活者の方々にカタログやウェブを通じて多様なオリジナル商品を販売する会社である。さまざまなフェリシモのカタログや、500色の色えんぴつなどの商品を目にしていただいた方もいらっしゃるかも知れない。ビジネスの特性上、私たちがお客さまと直接接することは少ない。それゆえに、お客さまとお会いする機会を意識的に設けるようにしている。1995年の阪神淡路大震災をきっかけに誕生した「神戸学校」は月に一度、各界の第一人者にご登壇いただくメッセージライブである。これまでに200名近くの著名人の方々にスピーカーをお引き受けいただいた。「神戸学校」は準備から当日の運営までのすべてを入社二年目までの社員たちが行なう。彼らに人と接することの大切さを感じて欲しいからであり、ひとつの舞台を作り上げる大変さ、楽しさ、達成感を味わって欲しいからである。
舞台を観る。舞台に立つ。舞台をつくる。人は生きている中でさまざまな役割を持つ。役割と舞台はそれぞれの人生シナリオに大きな意味を与えてくれる。
そんな舞台が私は好きだ。
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