特集 手
舞台の上には、観客の目を惹きつける「手」がある。
手の動きひとつで、空気が変わったり、音楽を感じたり、心が揺さぶられ涙することも。
千の言葉より多くを語る、表情豊かな「手」に迫る。
日本舞踊 山村若手の先にこだわりながら、
その向こうにある情景を浮かび上がらせたい
Photo / Ko Hosokawa Text / Ayako Takahashi
気品漂う滑らかな動きに、思わず引き込まれてしまう日本舞踊。曲に合わせた、きめ細やかで豊かな手の所作には、日本人の感性の高さと伝統芸能の奥深さを感じる。日本舞踊でもしっとりとした内面的な舞を特徴とする上方舞。その山村流宗家である山村若さんにとって、舞における「手」への思いとは?
「座敷舞である山村流は、劇場で演じるような大きな動きはしません。繊細で優しい動きの中に表現を込めます。特に私は男性ですから、手をむしろ着物に隠すようにし、柔らかく見せるよう心がけています。もちろん隠した手や動かしていないほうの手にも、神経を行き渡らせて、全体の形や動きを作っています」
山村さんによれば、山村流の舞の魂は指先に留まらず、さらにその先へと向かう。
「指を伸ばす場合でも、力を指先で止めてしまうと、手が緊張して震えてしまい、表現もそこで止まってしまいます。指の先へと、力を解放することで、指の向こうに表現している月や景色などを、お客様にも観ていただけると思っています。そのためには、私も普段からイメージトレーニングは欠かしません。映像や写真を参考にしたり、昔の絵などを見て情景をいつもイメージできるように心がけています」
常日頃の心身の鍛錬や稽古の末に、舞での具体的な描写が実現できるわけだ。
「例えば『ゆき』なら寒さ=寂しさでもあるので、そうしたものを指先に出したい。実際に氷を持ったりもしますよ。10代で『浦島』を舞った際には、太郎が年を取るところで『手が老けていない』と注意されました。先生は高齢だから老けているに決まっている!と思ったのですが、先生が若い役の時の手は実にお若い。実年齢ではなく"技術"なんだと痛感しました」
曲に合わせて上方舞を観ていると情景がはっきりとイメージできて、ハッとすることがある。
「地唄などを良くお聴きいただくと、舞い手が指し示す対象物の情報が耳からも入ってきます。例えば月が出ている方角の変化や高さの違いだとか、海があるとか山があるとか。舞と曲を合わせて感じて下さい」
歌舞伎や宝塚歌劇団などでも振付を手がけている山村さん。他の踊りの「手」に触発されることは?
「色々なジャンルを観るのも勉強です。パントマイムの手などは、そこに無いものを"ある" かに見せてしまうのがすごい。我々の場合は"あるように" くらいでないといけないのですが、いつか、何らかの形で舞にも取り入れてみたいなとも考えています」
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