PLAZA INTERVIEW

vol.044「25年のアーティスト活動を支えてくれた、皆さんに感謝しています」

独特の緩やかなビブラートと強弱のあるウェーブを活かした透明感のある歌声が印象的な遊佐未森さん。今年デビュー25周年を迎えた遊佐さんに、音楽活動から「みやぎびっぎの会」の活動を通じた震災復興支援まで、幅広く伺いました。聞き手は、松武秀樹・CPRA法制広報委員会副委員長。
(2013年09月24日公開)

Profile

遊佐未森さん
1964年仙台生まれ。7歳から作曲をはじめ、10歳のとき仙台少年少女合唱隊に参加。仙台の名門合唱隊の一員としてさまざまな演奏会を経験。中学より声楽を勉強し、常盤木学園高等学校音楽科に進学、卒業後は東京の国立音楽大学音楽学部に。大学在学中から音楽活動を始め、卒業後の1988年にシンガー・ソング・ライターとしてメジャー・デビューした。
デビュー作の『瞳水晶』(1988)から、最新作の『淡雪』(2012)まで30作近いアルバムをリリース。
デビュー25周年となる本年はベスト・アルバム『VIOLETTA THE BEST OF 25 YEARS』を発表するほか、コンサート・ツアーなども積極的に行う。
また、仙台出身者として東日本大震災の被害者へのチャリティ活動も数多く行っている。

音楽との出会い、人との出会い

044_pho01.jpg ――もともと音楽に関心を持ったきっかけはなんだったのでしょう?
両親によると、なんでも私は言葉を話すよりも先に歌を歌っていた子供だったそうです(笑)。赤ちゃんのときから、おんぶされた背中で歌っていたという...。そんな歌や音楽が大好きな子供だったので、周りの大人の人達も、「この子はこんなに音楽が好きなんだから」と、「こんな合唱団があるからどう?」って勧めてくれたんですね。

――なるほど、生まれつきなんですね。
そうなんです。最初は地元の小さな合唱団に入れてもらったのですけど、小学五年生のときに、仙台市のいろいろな学校から子供たちが集まる大きな合唱団があると教えてもらいました。その仙台少年少女合唱団は、クラシックの作曲家の福井文彦先生が指揮をやっていらして、仙台少年少女合唱団に入って、福井先生と出会ったことが、私の音楽人生にとってとても大きかったんです。先生は子供たちのためのすばらしい合唱曲の作曲も多くなされていて、それを作曲した福井先生自身の指揮で歌う。その素晴らしい体験ができたのは本当にかけがえのないことでした。

――素晴らしいですね。
あのときの、ハーモニーの素敵さや美しさは、いまソロの音楽家としての自分にとって大きな礎となっています。私の作品にコーラスがたくさん入っている曲が多いのもその影響だと思います。私が合唱団に入ったときは、福井先生はもうおじいちゃんだったのですけれど、とてもかっこよくてやさしいおじいちゃんでした。レッスンは厳しかったのですが、大人も子供もわけへだてなく、子供たちもそれに応えてがんばって歌うような、そういういい時間を過ごさせてもらいました。

――それがいまに繋がる本格的な音楽体験なのですね。
そうです。音楽の本格的な世界というものを味わわせていただきました。私が合唱団に入って、1年半ぐらいで先生はお亡くなりになったのですが、その最後の時間をご一緒させていただいて指導を受けられたというのは、私にとってかけがえのない財産になっています。先生の曲を、先生の指揮で歌わせてもらったことは本当に幸せな体験でした。

――作曲という点ではいかがでしょう。作曲において心に留めている点ですとか。
子供の頃の作曲は、本当に目にしたことをそのまま曲にしていた感じです。学校の帰りに空がきれいだ、白い雲が美しいということをそのまま曲にして歌って帰ったり。最初がそういう、自分が心を動かされた物事をきっかけに曲を作るようになったので、それはいまでも続いていると思います。星とか月とか花とか、美しさに心を動かされて、それを歌にすることでもうひとつ別の世界を作る。小さなときから曲を作ることに関してそういう憧れがありました。

身体のメンテナンスに気を配って声を維持する

044_pho02.jpg ――遊佐さんは、他の多くのアーティストに詞や曲を提供したり、あるいは子供番組や少年少女の学校の音楽コンクールなどにも作品を提供しています。それらは、ご自身で歌う作品の場合と、作る際の意識のちがいなどはありますか?
基本的には、ちがいはないと思っています。作品を提供する場合も、依頼される方が「遊佐未森の世界」を気に入ってくださってお話をいただいていると思いますので、私らしい作品でいいものを作ろうと思っています。実際、そうして提供した作品を後に自分自身で歌うこともおおいですし。
ただ、去年のNHK全国学校音楽コンクールへの提供作品「希望のひかり」のようなケースはちょっとちがいます。 震災直後に被災地に行ってみて、まず気づいたのは、街中がシーンとしていること。シーンとして、きらきら光るものが目に入ってこない。子供たちが歌う歌ならば、きらきら光る気持ち、希望を前面に出せるものがいいなと思いました。まずそこから曲作りが始まりました。子供たちがそれを歌うことによって希望を持てるような作品にしたいという気持ちで作りました。 小さい頃に歌った歌をわたしは大人になってもよく憶えていて、それを歌うことでとても励まされることが今でもあります。そんなふうに大人になっても歌ってもらえたら、という気持ちで作品を作りました。

――遊佐さんは、曲や詞の美しさと同じく、透明感のある歌声の美しさも特徴的なアーティストなのですが、デビュー以来四半世紀に渡って声の美しさを保っている秘密はどこにあるのでしょうか?
以前は、気をつけていることはとくにありませんと答えていたのですが、実はけっこうルールみたいなものはあります。やはり、歌の場合は自分の身体自体が楽器ということなので、毎日の日々の過ごし方が重要なんだと思います。楽器である身体を鍛えてキープしないといけません。朝起きたらまずストレッチ、寝る前もストレッチをするというように、日常のメンテナンスを自然にこなすことが必要なんだと思っています。のどだけ鍛えればいいというものではなく、やはり身体すべてをメンテナンスするべきだと思います。

――遊佐さんの特徴的な唱法もありますよね。
8の字唱法ですね(笑)。地声から裏声にいくときに、ちょっとこぶしをつけるんです。その声を出すときに腹筋が8の字の形になっているような感覚があるんです。それで8の字唱法。ちょっと特徴的な歌い方なので、レコーディングやライヴのときには意識して取り入れたりもしています。とくに民謡やそれに近いような歌を歌うときは多用したりもします。

歌い継いでいかなければならない作品がある

044_pho03.jpg ――民謡といえば、遊佐さんは大正時代から昭和の初めまでの日本の唱歌や歌謡曲をよくカヴァーされて、そういうアルバムも作っています。
はい。大好きなんです。

――「蘇州夜曲」「月がとっても青いから」など、昔の曲には本当にいいものが多いですよね。「蘇州夜曲」を作曲した服部良一先生なんて、ジャズやポピュラーの世界的な作曲家だとつねづね思っています。ああいうレトロな作品のどこに魅力を感じられているんでしょうか?
まずなにより、本当にいい曲がいっぱいあって、記憶にはっきり残っているものが多いです。最初のカヴァー・アルバムの『檸檬』を作ったときなど、ほぼ全曲が昔から好きだった曲で、選曲はすぐに決まりました。

――ああいう古い曲にむかしから親しんで育ったのですか?
そうなんです。うちはけっこう宴会好きの家というか、なにかあると大人たちが集まって食べて飲んで歌ってという家で、そういう場で横で歌を聴いて育ったようなところがあるんです。大人の人たちが楽しそうに歌っている顔を見て、歌っていいなって思いました。いま思えば、きっと大人は大人でいろいろなことがあって、そのときどきにその歌に励まされてきたんだろうな、それで心にしみ込んだんでしょうね。

――なるほど。
あと、私は西条八十さんと、そのお弟子さんの佐伯孝夫さんの詞の世界もすごく好きなんです。とくに佐伯さんの歌詞にはとても惹かれるものがあって、どういう社会情勢の中でこのような詞が生まれたのだろうというようなことが気になって調べたりもしました。するとやはりその歌がその時代に生まれた意味もよくわかって、こういう歌は時代の中で誰かが歌い継いでいくべきだろうと思ったんですね。単純に好きだからという理由に加えて、その作品が忘れ去られないようにしたいという思いもあるんです。

――よくわかります。
いろんな時代があって、戦争や関東大震災などの大変な時は、当時の人たちはこれらの歌に本当に励まされたと思いますし、明日の希望につながる素晴らしい作品がたくさん生まれたと思います。いまの時代も、音楽が果たす役割というのは変わっていないように思います。

子供たちと向きあって得られたもの

044_pho04.jpg ――実際、遊佐さんはさとう宗幸さんが代表を務めるチャリティ団体「みやぎびっきの会」の設立メンバーとして、音楽を通してさまざまな支援活動をなされていますよね。
はい。今年は仙台市教育委員会による"児童生徒による故郷復興プロジェクト・復興ソング"という企画のお手伝いもさせていただきました。子供たちの子供たちによる、子供たちのための復興ソングを作ろうということで、小学生、中学生の書いた歌詞に、私とやはり同郷のかの香織さんで曲をつけて、子供たちとレコーディングしました。400通近い歌詞の応募があったんですよ。

――すごいですね!

私たちのまわりの音楽関係の方々にもたくさんのご協力をいただきました。仙台の教育委員会の方々、本当に多くの人が子供の夢をかなえたいという一心で手作りで進めてきたプロジェクトなんです。最初に子供たちが応募してきた詞に目を通した時、涙がぼろぼろ出てきました。すごくすばらしい歌詞ばかり。本当は400の詞すべてに曲をつけたいぐらいでした。

――小、中学生それぞれの部で1曲ずつ計2曲の歌を完成させて感慨はいかがでした?
私の母校の常盤木学園でレコーディングをして、生徒たちに復興ソングを歌ってもらったのですが、歌っている子供たちを見ると、ものすごくまっすぐで、復興に向かって自分たちは一歩いっぽ前に進んでいくんだという力強さを感じました。ひとつひとつの言葉をとても丁寧に歌ってくれて、それもうれしかった。なんだかその様子を見ていて「未来はきっと大丈夫だ」っていう確信を持てたような気がしました。

――今年は遊佐さんのデビュー25周年に当たります。それを記念したベスト・アルバムも発売されますね。
はい。『ヴィオレッタ』、イタリア語で「すみれ」を意味するタイトルのアルバムです。私の故郷の仙台は冬がとても長い。でも春になってだんだん光が明るくなっていき、庭の緑の色もあざやかになっていくと、その庭に雑草みたいな小さなすみれがそっと咲いていたんです。春が訪れ、またこれから新しい物事が始まっていくんだっていう予感をそのままタイトルにしました。イタリアの歌曲「レ・ヴィオレッテ(すみれ)」の歌も学生時代に試験で歌ったりして思い出深いですし。

――あらためてこの25年を振り返ると、どういう感慨となりますか?
一言で表現すると、やはり本当にたくさんの方に支えてもらって歌い続けてこられたのだなあということです。

――音楽はひとりじゃできないですものね。大変だったことはなんでしょう?
デビューしてずっと本当に夢中で忙しくて、4~5年経ったあたりで、「あれ? このペースで今後もずっとやっていけるんだろうか」って不安になったことです。自分が自分でなくなるような感覚になって、歌うことは好きだけど、もうすこし自分のペースで活動しないと続けられないなと気づきました。そういうときに、ナイトノイズというアイルランドの4人組アコースティック・ミュージシャンたちと、彼らが当時住んでいたアメリカのオレゴン州で一緒にレコーディングすることになりました。1か月ぐらいオレゴンで一緒に過ごして音楽を作っていたとき、彼らの醸し出す自然で、余裕のある感じにとてもヒントをもらいました。自分も、彼らのように自分のペースで音楽を作りたい。そうしないとこの先も長く音楽を続けることはできないなと思ったんです。

――そのときの気づきがあってこそ、今年の25周年までの歩みが生まれたんですね。
25年、四半世紀という時間の長さに、ふと我に返るとちょっとクラクラする感じもあるのですが(笑)、自分なりにやってきたことがこうしてベスト・アルバムという形になって、それが次につながるんじゃないかなと思っています。いまやりたいこともたくさんありますし、次はまた新人みたいな気持ちでアルバム作りに向き合えると思います。

――最後にCPRAへのメッセージをお願いします。
CPRAを始めとしたみなさんに権利を守ってもらえているからこそ、私たち音楽家は安心して作品作りに集中できるのだと思っています。今後ともぜひよろしくお願いいたします。

――こちらこそ、ありがとうございます。今後のさらなるご活躍を楽しみにしております。

2013年9月11日発売
遊佐未森デビュー25周年記念アルバム「VIOLETTA THE BEST OF 25 YEARS」

044_pho05.jpg YCCW-10202~3 \4,410(tax in)

DISC-1<mimori's best sellection>
01.瞳水晶 02.地図をください 03.0の丘 ∞の空 04.僕の森 05.Silent Bells 06.Island of Hope and Tears 07.Floria 08.ポプラ 09.眠れぬ夜の庭で 10.オレンジ 11.クロ 12.Tell me why 13.ミナヅキ 14.欅 ~光りの射す道で~
DISC-2<new recording>
01.暮れていく空は 02.潮見表 03.一粒の予感 04.poetry days 05.街角 06.桜、君想う07.君のてのひらから 08.ブルッキーのひつじ 09.Theo 10.夏草の線路 11.I'm here with you

Mimori Yusa 25th Anniversary Concert "ミモリアル ソングス"
2013年10月27日(日) 東京・渋谷公会堂
open 16:15 start 17:00 全席指定 \6,500
mimori yusa concert 2013 "VIOLETTA"
2013年11月22日(金) 大阪・ビルボードライブ大阪
1st open 17:30 start 18:30 / 2nd open 20:30 start 21:30
サービスエリア¥6,500 カジュアルエリア ¥5,000
2013年11月30日(土)・12月1日(日) 福岡・ROOMS
11/30 : open 17:30 start 18:00 / 12/1 : open 15:30 start 16:00
全席自由(整理番号付き) ¥6,000

詳細は、オフィシャルサイトをご覧下さい。

関連記事