女装すること、すべてが「芸能活動」
―― テレビやラジオなどで大変にご活躍のミッツさんですが、ご自身ではこの人気ぶりをどのように感じていますか。
あまり意識していないです。人気っていっても、実態がないものですからね。今まで自分がやってきたこととは全く関係がないものなので、完全に水ものだと思っています。
―― 多彩な活動をされていますが、ご自身の職業は何だと考えていらっしゃいますか。
特定できないですね。私の人生は、すべて成り行きなので。これになりたいとか目的をもったことがなくて、いまの立場なんて全然なりたいものじゃなかったし。その場その場で雇ってくれる人のところにお世話になってきたので、いまもそれの一つだと思います。
―― 芸能界にデビューされたきっかけは?
アングラなものやマイナーなものだったら、もう十数年やってます。私にとってこうして女装をしてやることは、ずっとやってきた舞台も、踊ることも歌うことも、街でティッシュを配ることも、全部芸能活動なので。
―― 徳光和夫さんが「伯父さん」と聞いていますが、何か影響を受けたことは?
全然ないです。伯父ですからね。親父だったらもうちょっと密接だと思うんですけど(笑)。
痛感するイギリスと日本の違い
―― 小中学校時代はロンドンに住んでいらっしゃったそうですが、イギリスと日本の文化の違いで、何か感じていることがありますか。
イギリスはやはり、戦争に勝った国、日本は負けた国ですね。私たちみたいなのは、完全に「敗戦国の人たち」という目で見られますよ。
―― またロンドンに住みたいと思いますか?
友だちもいるので行くだけならいいですけど、住むのはちょっと...(笑)。あの国って、良く言えば少し怠けた感じの国民性が、古い景色や伝統を守っているんだと思います。悪く言えばあまり向上心がないというか...。大きなウォークマンを20年ぐらい平気で使っていたり、携帯も日本だとどんどん進化していくのに、そういうのがない。車なんかもずっと乗っていて、お金のない人なんか、壊れたところにガムテープ貼って乗ってるし(笑)。
―― そのイギリスで、ウエストミンスター大学のコマーシャル・ミュージック学科に通っていたそうですが、どのような勉強をしたんですか?
「コマーシャル」は商業なので、ザックリ言えば、クラシック以外の音楽で、ビジネスになるような音楽について勉強したんです。ロックだったりテクノだったりの、制作と実技とビジネスを全般的に学ぶ学科です。私は、実技と制作ばかりやっていたんですけど。
―― ということは、音楽のプロデュースとか作曲とか...
でもあんなの、勉強してもできないですよね。勉強してみてわかりました。あ、こんなの勉強するもんじゃないって。ノウハウや理論的なものはあり得るけど、最終的にはセンスや生まれ持った才能なのでね。私は歌ったり踊ったりするのが好きで行ったんですけど、それで何か就職活動したわけでもないし。だから、親はすごく高い金払わされたので、今でも金返せって言ってます(笑)。でも、最終的には辻褄は合ってるような気がするんです。何がきっかけでこの世界に入ったかということにつながりますけど、ダイレクトではなかったにしても、あのとき勉強したものが何だったのかが今になってわかったりしてますから。
―― 音楽業界は今、大変な状況ですよね。
これは絶対に、聴き手が悪いですね。すべて損得で考えるような、みみっちい価値観ばかりがはびこってるでしょ。そういうのって、音楽に触れたりするとすごく出ますよね。それでいて、テクノロジーがここまで発達しちゃうと、やはりビジネスはきつい状況になるだろうなって思います。
―― 音楽もちゃんと良い音で聴いて、価値のあるものだという認識を持ってもってもらいたいですけどね。
大衆音楽にはもっと、ジャンルとか老若男女わけ隔てなく伝播する力があると思うんです。それを細分化してターゲットを絞ってなんてみみっちいやり方をして、「国民的ヒット曲」のようなみんなに伝わるようなものが、結局生まれにくい状況にあるんだと思いますね。