盆栽ブームに火をつけた
―― 一方で山元さんは、「マン盆栽」の創案者で家元。盆栽の魅力はどのようなところに?
最初はコケが好きになったんですよ。道ばたに生えてる、なんでもないコケが。それから、鉢に土を入れて苔を盛っただけで北海道の原野のような感じになるのが、日本人独特の美意識で悪くないなって思い始めて。(「ここにあるんですけど」、とフィギュアの乗った盆栽を取り出す)
―― すごい。小宇宙ですよね。
完全に小宇宙ですね。この木は真柏(しんぱく)で、これは五葉松。ところが、これで私は、ものすごく悪者扱いされるようになってしまったんです。渋谷パルコで展覧会をやったら、初対面のまったく知らない編集者の勧められるままに「ザ・マン盆栽」という最初の本を出したんです。ところがそのあと古くからの盆栽愛好家から「とんでもない奴が現れた、ぶっつぶせ」と排斥キャンペーンまでされちゃいました!
―― ええ! なぜですか?
木だけだったらいいけど、鉢の上にフィギュアを乗せたらだめだっていうんです。でも、これを置いたから、このスケール感が出るんですよね。その後、『タモリ倶楽部』でタモリさんと一緒にマン盆栽つくったり、若い人たちに理解が広まったのはいいんですけど、フツーの盆栽をたしなんでいた人からすると、盆栽の上に人形を置くのはけしからんてなっちゃうんですね。それがまた激しい。パルコの展覧会場で、いきなりどっかのおじいさんがやってきて、「ダメダメ、こんなのは!どこのどいつがやっとるんだ!盆栽が泣いておるっ!」と会場で大声を出されちゃったり(笑)。スグに隠れて難を逃れましたが。
―― でも、個性を表わして創るもので、決まり事とかはないですよね。
マン盆栽はなんでもありなんですけど、ちゃんとした盆栽はやっぱり、「この枝振りだったら美しく見えるけど、こうしてはだめ」とか決まり事があるんです。最近私がやってるのは、枯れた盆栽を作品にするっていう「枯れマン盆」。これなんか、今年の異常気象で枯れちゃったサツキなんですけど、それをさらに乾燥させてわざと地割れとか出しました。つい最近フランスから取材にきたキュレーターの方は「枯れてる盆栽こそ本当のわび、さび感が!」って、フランス語でいろんなことを言ってくれましたね。もう人形をのっける以上に非難の対象になるのは必至でしょう。(笑)
―― フィギュアが乗ってるところがいいですよね。
これはね、近所の園芸市で買った盆栽に、燃えないゴミの日に捨ててあった鉢に、フィギュアがたしか450円かなんかです。マン盆栽は必ず木と鉢のバランスにフィギュアを入れて、最後にタイトルをつけるんです。そうすると、より締まるんです。まあ、今から20年前のマン盆栽の望まれざる登場で若い人が興味を持ったり、雑貨屋さんでミニ盆栽が流行るきっかけになったのはたしかだし、まぁ、よかったのではないかと思いますが。
餃子から入浴剤まで
―― さらに山元さんは「餃子王」ということで、完全会員制の餃子専門店をやってらっしゃるんですよね。ここがその「蔓餃苑」なんですか?
ここがそうなんです。
―― なぜ餃子だったんですか?
あるとき、お花見にカセットコンロを持って行って、そこで餃子を作って焼いたんです。すると、まわりのお客がけっこう高級なお酒を持って「餃子と代えてくれない?」って来たりする。で、知らないうちに、山元さんがお花見で焼く餃子はうまいっていう話が広まっていったんです。「じゃ、1000人集まったら餃子のお店でも開こう」とかいい加減な思いつきからです。事務所兼スタジオではなく、事務所兼厨房(笑)。でも、この店というか、年に数日しか開いてないんですよ。丸2年間全然開けないこともあったぐらいで。年中休業、臨時開苑なんです、本当に(笑)。
―― 入浴剤のソムリエともお聞きしましたが。
札幌生まれで冬は寒いから、お風呂に入るのが一つの儀式なんです。市販の入浴剤を全部買って、1年365日、365種類の入浴剤に入って、これは星何個、♨♨♨とかつけていったんです。それを角川書店から『お湯のグランプリ』っていう本にしたためて出したら、入浴剤ブームになっちゃいました。その本で、「こんな入浴剤に入るなら白湯に入った方がいい」と激しくけなした入浴剤があるんですよ。そうしたら、そのメーカーの人が会いに来た。
―― それは大変ですね。
てっきり会うなりぶん殴られるんじゃないかと思っていたんですが、「私たちの設備で、パラダイスさんがブレンドした理想の入浴剤を作らせてもらえませんか」って言われたんです。びっくりしたけど、たまたま市販の入浴剤をブレンドした超良い入浴剤ができていたので、「これと同じもの作れますか?」って言ったら、3カ月後にそれを上回るものを作ってくれた。それを3年ぐらいかけて石油由来の成分を排除、天然原料にこだわって医薬部外品の認可もとって販売に至りました。そうしたら、けっこう売れたんです。
―― 素晴らしい。
入浴剤って日本だけの文化なんです。中国にもないし、私がよく行く北欧なんか、あんなに寒いのにシャワーだけだったりとかね。やっぱり日本人に生まれたら、日本人として何かをし続けることが大事だなと思って、いまも入浴剤はブレンドし続けています。ひどいもんになっちゃったときなんか、家族が犠牲になってますけど(笑)。