「補償金制度」はどうあるべき?
―― 最後の質問ですが、iPodなどで音源がコピーして使われていくことについては、アーティストや著作者の権利のようなものがなんらかの形でカバーされるべきだと僕は思っています。文化庁の小委員会でもいろいろ議論がありましたが、結局は棚上げのようになっている状況はどうお考えですか。
委員会でもいいましたが、僕は、補償金制度はそんなに悪いもんじゃないと思っています。ただ、iPodのインパクトはすごく大きかったと思うんですよ。 99年にiモードが出てみんな電車内で携帯ばかり見るようになったのが、iPodが出たことによって、電車内で音楽を聴く人が戻ってきた。30代から50代の人たちが戻ってきてるのも、おそらくiPodのようなものが登場してきたことによるところが大きかったと思っています。
―― そういう意味では、iPodは大きかった。
それに補償金をかけたいという思いはわかるんですけど、音楽業界はいままで、技術発展の恩恵をものすごく受けてきているでしょ。僕も、ちょうどレコードからCDに切り替えの時期に中学生ぐらいだったんで、高校に入った入学祝いにCDラジカセを買ってもらって、それで音楽をたくさん聴くようになった経験がある。それから音楽にいっぱいお金を払うようになって、優良な顧客になっていったわけです。音楽産業は、技術的発展の恩恵を受けていることは間違いないと思うんです。
―― それはたしかにあるでしょうね。ただ、この10年間ぐらいで、コピーやリッピングが音楽業界全体を縮小させているという状況がありますよね。
本当は、娯楽が多様化しているなかでの音楽の位置なども含めて考えなければいけなかったのに、たぶん、レコード業界はここ10年ぐらい、目先の売り上げを伸ばすために最悪の手ばかり打ってきたと思っています。いままでテクノロジーと二人三脚でやってきたのに、都合の悪いときには「これはコピーになっているから音楽産業を侵害している」みたいなことをいいだす。それはなんか、いいとこどりだけをしているのではないかと思います。「補償金をかける」っていう主張もわかるけど、そのまえにiPodなんかが音楽愛好家を広げたプラスの面にも目を向けなきゃだめでしょ。そのうえにたって、落とし所をさぐるしかないんじゃないですか。
―― ただ向いあって、お互いの言い分だけをぶつけても答えは出ませんからね。
でも、補償金ていうのは100%の透明な分配っていうのはどうしても無理じゃないですか。じゃあ補償金はやめちゃって、DRMの世界に行くのがいいともい えないけど、補償金のようなものをとるのだったら、たとえばCPRAのようなところがやっているように、もっとクリエーターのセーフティネットや社会保障のようなものに使っていくような方向のほうがいいと思います。
―― 誰がどうコピーしたか究極的にはわからないけれど、CPRAでは、放送二次使用料やCDレンタルの分配データをもとに、実態に即した分配はしてますけどね。
そういうやり方をするよりも、たとえば20億円集まったとき、それを原資にしてクリエーターの供託金のようにして、病気になったときの保険にしたり。若いクリエーターなんかは、意外に家が借りられないんですよ。保証金もないし収入も不安定で。そのときに連帯保証人の肩代わりをするとか。
―― それは面白い考えですねえ。
サラリーマンでないがゆえの不利があるので、絶対にそういうセーフティネットをつくるべきなんですよ。もちろん、いまもそういう側面をもって分配していると思いますが、もっと、専業でプロとしてやっていこうとしている人たちに、一定のものを保障すべきだと思います。たしかスイスなんかは、50%近くを共通目的基金に使っていたんじゃないかな。そういう下支えをもっと考えていかないと。
―― たしかにそうですね。すごく重要な意見だと思います。今日は貴重なお話をありがとうございました。