PLAZA INTERVIEW

vol.015「ショパン・コンクール入賞者同士の華麗なピアノ・デュオ」

ピアニストにとって最難関といわれる「フレデリック・ショパン国際ピアノコンクール」。5年に1度、ショパンの祖国ポーランドのワルシャワで開かれ、ショパンに憧れる世界中のピアニストたちが集まるこのコンクールで、ともに第5位入賞という輝かしい実績を残した高橋多佳子さんと宮谷理香さん。そのお二人が2006年に、ピアノ・デュオ「Duo Grace」を結成した。「優美」「上品」「しとやかさ」「神の恵み」などの意味がある「Grace」の言葉どおり、お二人はショパンのスペシャリストとしての確固たる実績と、麗しい美貌を併せ持ったスーパー・ユニット。これぞ正真正銘のセレブだ。その一方で、「多佳子ちゃん」「理香りん」と呼び合う仲の良さで、コンサートでは楽しく洒脱なトークでも聴衆を楽しませている。 演奏活動などで世界を駆け回りながら、クラシック文化普及のために学校公演やファミリーコンサート活動などでもお忙しいお二人に、美貌の「Duo Grace」の裏側に迫るお話を、CPRA広報委員会の松武秀樹委員長と菊地一男委員(社団法人日本演奏連盟事務局長)が伺った。
(2009年02月13日公開)

Profile

ピアニスト
高橋多佳子さん(右)
宮谷理香さん(左)
(Duo Grace)
高橋多佳子さん
東京生まれ。桐朋学園大学卒業後、1991年国立ワルシャワ・ショパン音楽院研究科を最優秀で修了。90年に第12回ショパン国際ピアノコンクールで第5位入賞。同年、ラジヴィーウ国際ピアノコンクールで日本人初の第1位など、数々の国際コンクールに入賞。加藤伸佳、J・エキエル、下田幸二の各氏に師事。繊細かつ豊かな音楽的感性とテクニックで、日本や全ヨーロッパで演奏活動を続けている。最新のCDアルバム『ラフマニノフ/ピアノ・ソナタ第2番&ムソルグスキー/展覧会の絵』(オクタヴィア)は「レコード芸術」誌で特選盤に選ばれた。
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宮谷理香さん
1971年金沢生まれ。桐朋学園大学卒業後、95年第13回ショパン国際ピアノコンクール第5位入賞。松岡貞子、アンジェイ・ヤシンスキ、園田高弘などの各氏に師事。96年、サントリー大ホールでデビュー。第23回日本ショパン協会賞などを受賞。2010年のショパン生誕200年に向けた連続企画「宮谷理香と廻るショパンの旅」などのリサイタルやレクチャーコンサート、学校公演など幅広い音楽活動を展開し、自然で知性あふれる音楽性が高い評価を得ている。 CDに『BALLAD~Rika Plays Chopin~』など。
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ともにショパン・コンクールで入賞

―― お二人には多くの共通点がありますね。まず、大学が桐朋学園で一緒。その後、ともにポーランドに深い縁ができて、お二人ともあの「ショパン・コンクール」 で入賞された。確か高橋さんのほうが1回早かったんでしたね。
高橋 はい、私が90年の第12回で、理香りんが95年の第13回です。
宮谷 私たちにはもっと共通点がありますよ。多佳子ちゃんも私もピアノを始めたのが5歳からで、しかも、お互いに音楽家とは関係のない、普通のサラリーマンの家庭の子なんです(笑)。

015_pho01.jpg ―― ピアノを始めたきっかけは?
高橋 うちの場合は、両親とも音楽好きで、娘が生まれたらピアノをやらせようと最初から決めていたんです。
宮谷 うちは母が娘をバレリーナにしたかったから、3歳からバレエを習わされたんです。そしたら、そのバレエ教室にピアノがあって、すごく興味をもってしまったんです。で、ピアノも一緒に習ったのが始まり。いまは、バレリーナじゃなくってよかったぁって思ってます。重くて持ち上がらないから(笑)。

―― ショパンへの憧れは相当強かったですか?
高橋 私はポーランドに留学したんですけど、日本にいるときからショパンが好きで好きで。ポーランドっていう言葉を聞いただけで「うふっ」てなってしまうような感じでした。ポーランドに留学することになって、飛行機からポーランドの大地が見えてきたときは感動で泣きましたよ。
宮谷 わおっ、昔からそんなに思い入れがあったのね。でも、やっぱり感動しますね。ショパンの生まれた国に行きたいっていうのは、ピアノを弾いている人の共通の憧れですからね。

―― コンクールで弾くときって、すごく緊張するでしょうね。
高橋 ショパン・コンクールの一次予選は、かつてないほどの緊張でした。本当に気が遠くなるんじゃないかと思ったんです。会場にショパンの銅像が飾ってあったので、「どうか守って下さい」ってショパンに祈って(笑)。あとは自動演奏!何も考えずに弾きました。でも、理香りんは落ち着いてたんですよね。
宮谷 私は、緊張はしてたんですけど意外と集中してたんです。だって、誰にも注目されてなかったから(笑)。親もついていってなかったし、気楽だったんです。

ショパンの曲の難しさは

―― ピアノの曲というと、リストは聴いていてすごく難しそうで超絶技巧に喝采! という感じですが、ショパンはその技巧を感じさせる前にとても叙情的で、ピアノの詩人というイメージですよね。

015_pho02.jpg 高橋 まさにそうです。心のひだを映し出す曲が多いので、1音の違い、和声が一瞬変わっただけで世界が変わるような感じになる作曲家なんです。だから、非常に繊細な感性も、それをきちっと表現できるテクニックも必要なので、私はリストよりもショパンのほうがずっと難しいと感じています。
宮谷 表面的な技巧という意味ではリストもかなり難しいと言えるかな。音符の数も多かったりして、それで演奏効果をあげるんですけど。でも、実は、ただ単に音を並べたり、速く弾いたり、大きい音を出すというようなことは、そのための練習を小さいときからずっとしてるんですからピアニストにとってそれほど難しいことではないんです。でも、ショパンはそれだけにとどまらなくって、音質のコントロールなど、求められるものがたくさんある。それを表現することはリストの超絶技巧を克服することよりもはるかに難しい。演奏に、過去の経験とか価値観などがすべて映し出されます。他の作曲家より知的なコントロールが求められるんです。

ピアノ・デュオを組んで

―― お二人ともお忙しいスケジュールの中で、「Duo Grace」というピアノ・デュオを組んでいますね。この組み合わせを企画した人は素晴らしいセンスを持っていると思うのですが。
宮谷 最初のきっかけは、たまたまあるコンサートの主催者から一緒に弾いてほしいと希望されたことでした。こんなデュオを始めるなんて思ってなかったんですが、一緒にやったらすごく意気投合しちゃって。

―― ピアノのデュオだと、地方公演なんかは大変でしょう?いいピアノが2台そろってないといけないから。

015_pho03.jpg 宮谷 でも、私たちはけっこう地方まわりもしてるし、場合によっては、アップライトも弾いてるから大丈夫です。どんなピアノででも弾けます。
高橋 本当に2台なくて、でも2人でっていうんだったら、連弾とかもできるし。
宮谷 私たちの強みは、デュオのコンサートなんだけどソロで10分ずつショパンのガチンコ対決をやるところ。対決といっても仲がいいから大丈夫ですよ(笑)。でも、すごく緊張するんですよね。
高橋 そう、そこが一番緊張するのね。いつも、やめときゃよかったって(笑)。

ピアノという楽器の素晴らしさ

―― 今年はピアノ誕生300年ですね。
宮谷 そうですね。それまでハープシコードだった鍵盤楽器に、クラヴィーアというものができて300年になるんですよね。弦を鍵盤と連動させた「爪のようなものではじく」という構造から「ハンマーで叩く」という構造になったんですが、当然、大きな音も出せるようになり、表現の幅が広がりました。大きなホールで大勢のお客さんに聴いてもらえるようになったわけですね。機能的で多層的な表現ができるピアノが産声をあげたわけです。

―― そのピアノ。キーを押せば簡単に音が出ますね。それこそ猫踏んじゃったでも音が出る。だけど、弾き手が違うとまるで音が変わって聞こえる。ピアノの持つ機能をフルに使いこなす、極めるのはとてもむずかしいということなんでしょうね。
高橋 同じ楽器でも、違う人が弾くとほんとうに一人ひとり違う音が出ますからね。
宮谷 曲によっても、そのときによっても違うし、私たちも全然個性が違いますしね。ソロで弾くのとデュオで弾くのとでは、また違うものが生まれてくるんですよ。
高橋 無限の可能性がある楽器です。
宮谷 多佳子ちゃんは、弾いてるときに絵が思い浮かぶタイプなんですよ。
高橋 映像が思い浮かんで、イメージをどんどんつくっていくんです。
宮谷 私は建築物的なんです。柱がどこにあるかって考えるような。全然違うのに、話し合ってると、お互いにすごくいい刺激になったりするのよね。

―― とかく堅苦しく感じられるクラシックですが、お二人のような美人に目の前で演奏してもらったら、クラシックを聴くのがとても楽しくなりますね。

015_pho04.jpg 高橋 私たち、学校訪問とか、クラシックを聴いたことのない人たちに聴いてもらう活動をけっこうやっています。理香りんは故郷の金沢で、市民のためのコンサート活動とか。
宮谷 ボランティアとか。Duo Graceのコンサートでも、おしゃべりもして楽しんでもらうよう努力していますよ。15年前ぐらいまでは、クラシックの演奏者が話をするなんてタブーだったんですけどね。
高橋 エンタテインメントの要素を入れていかないと、クラシックの演奏家も生き残れない時代に突入していると思いますね。

―― いまはもう、しゃべれる人の時代ですね。クラシックでも、とめどなくしゃべる人もいますよ。
宮谷 私たちもそうです(笑)。最初にどこまでって決めておかないと、とめどなくおしゃべりになっちゃって、ロングラン演奏会みたいになっちゃいますから(笑)。

―― 宮谷さんは最近、本を出されましたね。
宮谷 「ショパン」という雑誌に書いていたちょっと面白おかしいエッセイをまとめて、新たにピアノ人生を語った書き下ろしも盛り込んだ本です。多佳子ちゃんもいっぱい登場しますよ。『理香りんのおじゃまします!』っていうんですけど、読んでくれた人は、こんなに失敗談が多くっていいの?っていいます(笑)。
高橋 素敵ないい本ですよ、ほんとうに。私も感動しました。理香りんが小さいころの「お宝写真」も満載なんですよ。

015_pho05.jpg ―― 高橋さんは?
高橋 高橋 私もその雑誌に連載はしていたんです。本にしましょうって言われたんですけど、そういうのが全然できないたちなんで。理香りんに書いてもらおうかなぁ。『宮谷理香著 多佳子ちゃんの"こんチにわ!"』とか(笑)。 宮谷 それが出たら、絶対に3冊目は『Duo Graceの"わんばんこ!"』みたいになるよね。
高橋 なんとかの3部作みたいで、壮大な企画になるんじゃない(笑)。

―― 今日は楽しいお話をありがとうございました。これからもご活躍を期待しています。
(と、終わる気配すらない話をここで一応締めくくったのだが、お二人の話はこの後も数時間に渡って続いた。それはインタビュアーだけの余禄。楽しかった!)

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