ピアノという楽器の素晴らしさ
―― 今年はピアノ誕生300年ですね。
宮谷 そうですね。それまでハープシコードだった鍵盤楽器に、クラヴィーアというものができて300年になるんですよね。弦を鍵盤と連動させた「爪のようなものではじく」という構造から「ハンマーで叩く」という構造になったんですが、当然、大きな音も出せるようになり、表現の幅が広がりました。大きなホールで大勢のお客さんに聴いてもらえるようになったわけですね。機能的で多層的な表現ができるピアノが産声をあげたわけです。
―― そのピアノ。キーを押せば簡単に音が出ますね。それこそ猫踏んじゃったでも音が出る。だけど、弾き手が違うとまるで音が変わって聞こえる。ピアノの持つ機能をフルに使いこなす、極めるのはとてもむずかしいということなんでしょうね。
高橋 同じ楽器でも、違う人が弾くとほんとうに一人ひとり違う音が出ますからね。
宮谷 曲によっても、そのときによっても違うし、私たちも全然個性が違いますしね。ソロで弾くのとデュオで弾くのとでは、また違うものが生まれてくるんですよ。
高橋 無限の可能性がある楽器です。
宮谷 多佳子ちゃんは、弾いてるときに絵が思い浮かぶタイプなんですよ。
高橋 映像が思い浮かんで、イメージをどんどんつくっていくんです。
宮谷 私は建築物的なんです。柱がどこにあるかって考えるような。全然違うのに、話し合ってると、お互いにすごくいい刺激になったりするのよね。
―― とかく堅苦しく感じられるクラシックですが、お二人のような美人に目の前で演奏してもらったら、クラシックを聴くのがとても楽しくなりますね。
高橋 私たち、学校訪問とか、クラシックを聴いたことのない人たちに聴いてもらう活動をけっこうやっています。理香りんは故郷の金沢で、市民のためのコンサート活動とか。
宮谷 ボランティアとか。Duo Graceのコンサートでも、おしゃべりもして楽しんでもらうよう努力していますよ。15年前ぐらいまでは、クラシックの演奏者が話をするなんてタブーだったんですけどね。
高橋 エンタテインメントの要素を入れていかないと、クラシックの演奏家も生き残れない時代に突入していると思いますね。
―― いまはもう、しゃべれる人の時代ですね。クラシックでも、とめどなくしゃべる人もいますよ。
宮谷 私たちもそうです(笑)。最初にどこまでって決めておかないと、とめどなくおしゃべりになっちゃって、ロングラン演奏会みたいになっちゃいますから(笑)。
―― 宮谷さんは最近、本を出されましたね。
宮谷 「ショパン」という雑誌に書いていたちょっと面白おかしいエッセイをまとめて、新たにピアノ人生を語った書き下ろしも盛り込んだ本です。多佳子ちゃんもいっぱい登場しますよ。『理香りんのおじゃまします!』っていうんですけど、読んでくれた人は、こんなに失敗談が多くっていいの?っていいます(笑)。
高橋 素敵ないい本ですよ、ほんとうに。私も感動しました。理香りんが小さいころの「お宝写真」も満載なんですよ。
―― 高橋さんは?
高橋 高橋 私もその雑誌に連載はしていたんです。本にしましょうって言われたんですけど、そういうのが全然できないたちなんで。理香りんに書いてもらおうかなぁ。『宮谷理香著 多佳子ちゃんの"こんチにわ!"』とか(笑)。 宮谷 それが出たら、絶対に3冊目は『Duo Graceの"わんばんこ!"』みたいになるよね。
高橋 なんとかの3部作みたいで、壮大な企画になるんじゃない(笑)。
―― 今日は楽しいお話をありがとうございました。これからもご活躍を期待しています。
(と、終わる気配すらない話をここで一応締めくくったのだが、お二人の話はこの後も数時間に渡って続いた。それはインタビュアーだけの余禄。楽しかった!)