伝統を残していくために
―― でも、そういう伝統的なものの建て直しって、これからいろんなところで起きるんですよね。
残念なのは、歌舞伎はもちろん松竹という会社がやっている商業演劇ではあるんですが、伝統芸能といわれ、人間国宝に指定される人も出て、国の重要無形文化財になり世界遺産にもなったのに、その本拠地に対して行政が何も手を貸してくれないことです。今回の建て直しでは、松竹がやれば経費の関係などでビルにせざるを得ない。でも、ウィーンやパリのオペラ座へ行ったりすると、劇場がまちのひとつの顔になっている。市民の心のよりどころになっている。外国にくらべて、そこが寂しいところですね。
―― 同じお金をかけるなら、この形をなんとか残してほしいですよね。
僕は逆に、いま国立劇場の大チャンスだと思ってるんです。松竹がこの歌舞伎座をビルにしてしまったとき、国立劇場ももう50年近くなるので建て直すときに、やっぱり歌舞伎をやるには歌舞伎らしい小屋という発想をもってくれると、劇場に対するイメージが逆転するかもしれないですよね。いままで、国立劇場は いいけどちょっと雰囲気がねっていわれてたわけだから。やっぱり歌舞伎を観るなら国立劇場だねっていわれるように、逆手にとってチャンスにできると思っているんですよ。
―― こうやって楽屋にまで入らせていただくと、歌舞伎座ってふつうの劇場と何か違いますね。
そう。不思議なことにね、一日中いても歌舞伎座の楽屋は疲れない。窓があって、昼か夜かがわかったりね。ビルの中だとわからないでしょ。空気も循環しないし。
―― 空気が全然ちがいますね。楽屋って独特のにおいがありますけど、全然ないんですね。
ビルになっちゃった劇場は、一か月いたら疲れきっちゃいますよ。歌舞伎座っていうのは、疲れないんです。「木」の力ですかね。
今年も多彩に活躍の場を広げて
―― 昨年は『坂東三津五郎 歌舞伎の愉しみ』というご著書を出されました。とても歌舞伎を身近に感じられるご本ですね。
これは、2、3年歌舞伎をご覧になった方向けなので、観たことのない人がいきなり読むと難しいかもしれません。歌舞伎の本って、入門書と専門書があって中級編がないっていうんで、ある程度歌舞伎を観た人がさらに奥深く理解できるようにという狙いで書いたものなんです。
―― 今年は歌舞伎以外にも、いろいろなご公演を予定されているようですね。
7月に新国立劇場で現代能楽集のひとつ、坂手洋二さん作の「鵺(ぬえ)」を鵜山仁さんの演出でやる予定です。田中裕子さんと僕とたかお鷹さん、村上淳さんの出演で。それが歌舞伎以外の特徴的な出演ですね。4月5月は歌舞伎座です。日本舞踊協会では、2月15日に国立劇場で公演がありますので、こちらもぜひご覧ください。
―― 本日はご公演さなかのお忙しいなか、貴重なお話をどうも有難うございました。