PLAZA INTERVIEW

vol.010「200本の映画に出演し今も現役で活躍」

1939年から50年までという太平洋戦争をはさんだ時期に宝塚歌劇団に所属し、久慈あさみ、南悠子と同期トリオを組んで娘役トップスタートして大きな人気を獲得。その後、映画界に進み、1950年のデビュー作『てんやわんや』で第1回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞。『夫婦善哉』(第6回ブルーリボン賞主演女優賞)などで、実に200本近くの映画に出演してきた淡島千景さん。紫綬褒章を受章するなど輝かしい芸歴をもちながら、80歳を超えたいまもバリバリの現役をつとめ、テレビや映画で活躍するだけでなく、1年の大半を舞台上で元気に過ごしている。今回は、日本俳優連合に所属し、朗読劇などで淡島さんとも舞台をともにしてきたCPRA広報委員会の丸山ひでみ委員が、往年の宝塚歌劇団や日本映画界の裏側から、日々を活力あふれて過ごしている「元気」の秘訣などについてうかがった。
(2007年12月14日公開)

Profile

女優
淡島千景さん
1924年東京生まれ。十代半ばの1939年から、50年まで宝塚歌劇団に在籍。美貌の娘役トップスタートして人気を博した。退団後は映画界に転身。渋谷実監督の『てんやわんや』でデビューし、第1回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞した。その後も『夫婦善哉』、喜劇駅前シリーズなどに出演するほか、数多くのテレビドラマ、舞台で活躍。55年に菊地寛賞、88年に紫綬褒章、95年に勲四等宝冠章などを受賞してきた。

「お嫁入り」の勉強を宝塚で

―― まずは、宝塚に入ったきっかけからお伺いしたいのですが。 私の家は、女の子は「お嫁にいく」のがあたりまえという考えだったんですけど、昔はどこのうちでもお嫁さんになる修行がありましたよね。踊りやピアノ、お習字を習ったりとか。私は女学校の途中で父も亡くなっていたので、いっぺんに習えるところということで、宝塚に目をつけたわけなんです。

010_pho01.jpg ―― お嫁入りの修行のためですか。 昭和9年に東京宝塚劇場ができて、父たちと初めて見にいって「ああ、こんなきれいなものが世の中にはあるんだ」と思ったんですね。それで、宝塚の学校へ入れば、お嫁に行くのに必要なことを全部習えると思って、試験受けたら合格したんですよ。

―― 宝塚では、上級生とすれ違う時は廊下の端にへばりついて挨拶するといいますよね。 私たちのときは、そんなことはきまってなかったですよ。ただ、駅からの道で、土手の上と下があったのね。上級生が下を歩いてきた時には、下級生は土手の下におりておはようございますといったことはありますね。

―― 宝塚で淡島さんの上級生というと... その後でいえば、越路吹雪さん、音羽信子さんなどが2年上でしたね。

―― 厳しかったですか? いいえ、素敵だったですよ。だけど、やはり宝塚には、厳しいところもあるのね。でも、それはいい経験よ。このごろの人って、人に怒られる経験ってあまりないじゃない。「それはいけません」ってはっきりいわれることがあまりないじゃない。上から見てくれる怖い人がいないと、人間はだめね。いわれれば、自分で努力してみようって思うもの。

―― 宝塚には何年いらしたんですか。 戦争のときもいれて、全部で9年です。

―― で、お嫁には行かなかったわけですよね。 そうそう。

フリーで多数の映画に出演

―― その後、映画のほうに行かれますよね。 越路吹雪さんと同じクラスにいた月岡夢路さんが、宝塚に在籍のまま東宝系の映画に出てたの。私が楽屋に遊びに行ったら、月岡さんが「あなた、映画って面白いわよ。仕事のことや演技だってなんだって、先生がなんでも教えて下さるのよ」っていうんですよ。それは面白いなって思ったの。それに、宝塚に女役で長い間いると、下から可愛らしい子が毎年入ってきて、お姉さん役とかお母さん役になっていくと私はみたの。あまり年取ってくると、大詰めのダンスだってしんどいでしょ(笑)。長くいればお嫁に行けって言われるだろうし。それで私は宝塚やめて映画に行ったのよ。

―― 出演された映画の数は... 200本近くですね、きっと。抜けてるのがあるかもしれないし、題名を見ても「これ、私出てるの?」なんて思うのもあるんです。

―― 映画の世界は宝塚と違いましたか? よかったのは、渋谷実監督さんが新劇がお好きで、わりと長いカットで撮影してくれたこと。それに、あまり難しい注文がなかったの。でも、映画は撮影中、待ってるのがつらくてね。扮装して待たされるのが辛かったですね。

010_pho02.jpg ―― フリーでずっと映画をやっていて、そのあとは舞台で。 そうです。映画に出てても、舞台に出たいなあって思ってたんですよ。でも、マネージャー役をやってくれていたいまの垣内の母親に「石の上にも3年ていう言葉があるでしょ。映画に移ったら今度は舞台じゃ、何も覚えない」っていわれたの。たしかにそうでしたね。いま思えば、10年やって次のことをしたほうがいい。10年でやっと、こうなんだろうなって思えるようになりましたから。途中で舞台へのお誘いもあったんですけど、垣内が出さなかったですね。本当は10年やってもわからないけど、そういうふうに考えられた時代だったのは、幸せだったと思います。

共演男性も「相手役」としか思わず

―― 宝塚にいた方が、映画でも舞台でも初めて男性相手にお芝居するときって、違和感はなかったですか。 男性だか女性だか、あまり考えたことなかったですね。「この人は相手役」としか思わない。

―― 佐野周二さんとか森繁久彌さんなんかのことは、もちろんご存知だったんでしょ? 知らないの。日本映画観なかったから。申し訳ないけどね。だけど、その世界に入った以上は、その方がどういうお仕事をなさった方か覚えなけりゃ失礼ですよね。だから、それは私たち役者にとっても常識なんで「偉い人」だなとは思いましたよ。でも、男性だとは思わない。だから、その方のプライベートなことなんか知りたくないの。

―― 役にあるように、本当に相手の男性に惚れちゃうなんてことは... 惚れない。ドラマでは「蝶子さんは惚れる」って書いてあるけど。だから、森繁さんにいわれましたよ。「淡島君って変わってるね。舞台ではやらなくていい世話まで焼いてくれるのに、袖へくるとケロッとして行っちゃう」って。私はそういう人ね。

―― 性格がさっぱりしていらっしゃるんでしょうか。 そう、さっぱりしてるのよ。だから色気がないのよ(笑)。私は無理はしないし、つくることもできないのよね。つくることができれば、「いい女ね」ってもっといわれるのに。

―― いい女ですよ、十分に。 長谷川一夫先生にいわれましたよ。「ここではみんな知ってるからいいけど、よその座組にいったら、楚々としてるんだよ」って。

―― 役の中では楚々として色気があるから、それができればいいですよね、女優ですから。ただ、その人のイメージってありますよね。 そう、だいたい役によって、その人の色を見ちゃいますね。

―― おしとやかなイメージがありますよ。 時代離れしてるんじゃない?

―― 男性からは憧れの女性ですよ。 男の方にとって便利な女に見られるの。お芝居のなかでいえば蝶子さんみたいに、世話焼きでさばさばした女がいてくれたら便利だなって男の方は思うんじゃないですか?

テレビや舞台で多忙な毎日

―― いま、CS放送の日本映画専門チャンネルで、淡島さんの出演された駅前シリーズなどをたくさん放映していますが、若い時のご自分の作品を観るとどうですか。 とても楽しいです。過去の作品でも、それはそのときのものとして観るわね。「へただ」なんていってもどうしようもないじゃない。若いころなんて、未熟じゃなかったらどうするのよ。いまならこうすればいいって、反省すればいいんじゃない。

―― いまも、テレビも映画も舞台も、なんでもなさってますよね。どれが好きっていうのはあるんですか? どれも違うもんだから、それぞれに良さがあるのね。

―― 同じ舞台に出ているこっちの役をやりたいなんて思うことは... ない。だって、自分にできる役とできない役があるっていうことはわかってるの。それに、いくら自分が努力しても、絶対いいと思ってもらえない役っていうのもありますよ。

―― 今度は、12月に名古屋で舞台ですよね。 ええ。それで、1月に帰ってきて2月にも同じものを明治座でやります。初役で、もうすぐお稽古です。これだけ好きなことに打ち込めるのは、本当に幸せだと思っています。いい時代に時間をかけて、ゆっくりと過ぎてきたから。このごろの方はそれがなくて、ただ忙しいと思って過ぎている方が多いんじゃないですかねえ。

―― もうすぐ今年も暮れになりますが、今年はどのぐらい舞台に立たれましたか。 1月の名古屋に始まって、3、4月が明治座、6月が新橋演舞場だったでしょ。それと、9月に朗読劇をやって、今度の12月がまた名古屋です。やっぱり、朗読劇みたいにふだんやりつけないものをやるっていうのは、とってもくたびれましたよ(笑)。

―― それにしても、失礼ですけどそのお年でほとんど休む間もなく舞台に立たれているわけですよね。健康の秘訣は何かあるのですか。

010_pho03.jpg 本当は聞かれたくないな(笑)。寝られるだけ寝ますね、昔から。ただね、うたた寝は絶対にできない。パジャマ着てお布団に入って、これから寝るんだぞっていうスタイルになって寝ないと眠れないんです。寝るのがいちばん回復しますね。最近は寝られないっていう人が多いんだけど、私は「寝てから考えるからいけない」っていうの。寝る時は、「いまから寝るんだぞ」って思うこと。他に何もできないんだから。そんなに気になるんなら、起きてそれをやれ。やって、やれやれと思ったらすぐ寝ろと私はいうの。

―― 寝る時に、セリフが浮かんじゃって寝られないなんていうことはありませんか? 浮かんじゃいけないのよ。たしかに、初日の前はやっぱりちょっと寝にくいですね。でも、寝不足だと舌が回らなかったり、目がちょろちょろしちゃうから、私は自分に「寝ろ」って言い聞かせて寝ているの。

―― なかなかできないですよ。やっぱり、性格がさっぱりしていらっしゃるんですね 今日は楽しいお話、どうもありがとうございました。これからも、多彩なご活躍を楽しみにしています。

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