気分転換は「食べること」?
―― 1年60回もの演奏会は大変だと思いますが、オフのときの気分転換はどのように?
食べることは好きですね。よく食べます(笑)。音楽家はよく地方に出かけるので、食べることが趣味になりがちです。それも、演奏会が終わった夜遅くに。健康によくないですね(笑)。家にいるときは本を読んだり、テレビを見たりするぐらいでしょうか。
―― CDなどで音楽を聴くことは...。
意識的に聴こうとすることはほとんどないですね。レストランでBGMがかかっていても「あれ、誰が演奏してるんだろう」って気になっちゃうので、リラックスするために音楽を聴くということはあまりないです。
―― ご自分の演奏を聴きなおすことも?
ありません!悪かったところばかりよみがえって、どうして聴けますか(笑)。でも、私はほとんどいつも、頭の中でピアノを弾いてるんです。「ここはこうだな。こう弾きたいな」なんて思いながら。実際に弾くには、伝える技術がともなわないとだめでしょ。「ここはフォルテッシモでいきたい」と思ってもリスクを考えて抑えちゃったり、絹のようなピアニッシモにしたいと思っても、音がかすれちゃうかも。でも、頭の中なら思いどおりに弾けますからね。新幹線に乗ってるときなんか、バンバン頭の中で鳴らしてますよ(笑)。
―― 演奏会で舞台に立つ直前などは、どのように過ごされているのですか。
あがらないようにおまじないをする人もいますけど、私は楽屋をちょっときれいにするぐらいかな。あまり散らかってると、ピアノも散らかりそうな気がして(笑)。でも、私は割りと演奏会の前は集中できる方ですね。面白いのは、レコーディングなどで人のいないホールで弾く方が物理的には静かなはずなのに、人が大勢いても集中して静かにしているときの方がより静かに感じるんですよ。そういう感覚は、コンサートでしかないですね。心していないと、こっちもホールの雰囲気に流されてしまうんです。なかなかむずかしいですけどね。
12年にわたるリサイタルの「旅」へ
―― ところで、今年の6月から、春と秋の年2回、12年24回にわたる壮大なリサイタルをオーチャードホールで計画されていますね。
ピアノにはいい曲がいっぱいあるんですけど、普通の演奏会ではだいたい1年ごとのスパンになってしまうんです。だから、弾きたいのに弾けない曲がいっぱいあるんです。そこで、12年という年月の中で、リサイタルを構想してみようと思ったんです。
―― すると、普段のコンサートなどでは弾かないような曲も、演奏していくのですか。
はい。24回のシリーズの中でなら意味があるけど、単体で出したらちょっとという曲もあります。どうしてもリサイタルで弾いてみたいという曲もありますしね。
―― 12年24回という数字には何か理由があるんですか?
1オクターブは12音あって、それぞれに長調と短調とあるから24の調がありますね。また、1日は12時間が2回あって24時間だし、1年も12ヶ月。そのへんに自然のリズムを感じて、12年でひとつの旅をするというコンセプトのプログラムにしたんです。
―― 何やら秘密めいた感じがしますね。
はい。24回のリサイタルには、秘密がいっぱいこめられてるんです(笑)。謎解きをわかって聴いていただいてもいいし、わからなくて聴いていただいてもいいと思っています。
―― 楽しみにしています。今日はありがとうございました。
(文責:CPRA WEB編集室)
⇒Bunkamuraオーチャードホール