PLAZA INTERVIEW

vol.003「漫画とデジタル技術の融合をめざして」

天井から下がる巨大なソニー製3管プロジェクター。リモコンで上下する大型スクリーンの背後には、3台の大きなJBL製スピーカー。大人の力でも持ち上げられないマッキントッシュの本格的なアンプに、世界に50台しかないというスイス製DVD再生機...。 自宅の一室を改造してつくられた、AV機器が並ぶ完全防音のオーディオルーム。この部屋で無限に広がる映像と音の世界を愛するモンキーパンチさん(本名、加藤一彦さん)はまた、「ルパン三世」などの漫画を描く仕事をするときにも常に音楽を流しているという音楽マニアでもある。 日本が世界に誇るカルチャーである「漫画」界で最先端を走り続け、いままた、漫画とデジタル技術の融合という近未来の世界を展望するモンキーパンチさんに、CPRA運営委員の松武秀樹委員が趣味・仕事・漫画の未来について縦横にお話をうかがった。
(2005年12月22日公開)

Profile

モンキーパンチさん

自分にあった音の「キャラクター」を求めて

―― オーディオルームに入ると、プロもうらやむような本格的AV機器に驚かされますね。
どんな素晴らしい機械でも、生の音にはかなわないですよ。ただ、問題はキャラクターなんです。音の組み合わせでできるキャラクターが自分にピッタリだなと思ったとき、どうしてもその機器で聴きたいとなるんです。

―― 自分の体に合う音があるんでしょうね。
僕はどちらかというと、メリハリのきいた音が好きなんです。よく聞くのはジャズでもMJQあたりなんですが、それにはこれがあってるなとか。このスイス製のDVD再生装置も、映像はそれほど変わらないんですが、音を聞いた瞬間に"ああ、これだ"と思いました。広がりが全然違うんですよ。

―― セッティングなどはご自分で?
いや、友達にオーディオの専門家がいて、配線や調整はすべてやってもらってます。すごいですよ。「あ、これはウーハーの音が少し遅いですね」というんで調整してもらうと、全然違うんです。僕らにはわからないけど、調整すると引き締まって聞こえるんですね。

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―― これだけの機器をそろえると、DVDを見るのでも覚悟しないと見られないでしょうね。
そう、やはり気合を入れてみないとだめですね。最近はわりと、ライブを見ることも多いんですよ。マドンナとか、イーグルスの最新版なんかいいと思いましたね。以前はロックはあまり好きじゃなかったんですが、ライブで見るようになってだんだん好きになってきました。クイーンももちろん見ました。

―― こうやってこって聴いてくれる人が増えてくれると、音楽をつくる方も甲斐があります。
僕は、あまり静かだとかえって気が散っちゃうんで、仕事をするときも、いつもiTunesで音を流しながら仕事してます。そのほうが、余計なことを考えなくていいんですよ。

「プレスリーから始まった音楽への関心」

―― こういうオーディオの世界にのめりこむきっかけは、どういうことだったのですか。
もともと、中学生のころから自分でラジオやステレオ組み立てたりしてましたから。昔の鉱石ラジオなんかで音が出てきたときは、「あっ、聞こえる」と感激しましたね。それが原点で、東京に出てきたころは一時中断してましたけど、漫画家になってまたぼちぼちやり始めたんです。こういうふうにAV機器を本格的に収集するようになったのは、30歳ぐらいからですね

―― 音楽も若いころからお好きで...
好きでしたね。僕らが高校生のころは、プレスリーでした。あとでビートルズが出てきたときは、プレスリーがもとにあってそれを4人でやってるみたいに思えてね。心情的にもプレスリーが大好きでしたね。最近、iTunesを聴いていると、ビルボードの過去何十年分というのが聴けるでしょ。あれで1950年代ごろの曲を聴いていると、懐かしくってねえ。やっぱり、自分が20歳代のころの曲が、いちばん記憶にありますね。ダイナ・ショアあたりから聴いていましたから。プラターズなんかも、懐かしいなって思いますよ。

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―― いまもうまい人はいますが、あのころの歌い手さんは歌唱力が全然違いますね。
そう。声量が違います。いまの人の歌は、なんか胸に響かないんですよね。当時はレコードも、そうとうたくさん集めました。これだけは、いまも残しています。ターンテーブルも再生装置もないんだけど、なんかあれだけは捨てられない。やっぱり、思い出があるからですかねえ。こってたときは、糸ドライブでやってたんですよ。モーターもターンテーブルも30kgぐらいある機器でね。やはり、オーディオが原点ですね。

デジタル技術と漫画の融合した将来像は

―― 映像と音の融合は、将来どうなると思われますか。そこにテキストもあわせて、マルチメディアのようないわれかたもしますが。
僕は漫画家なので、漫画とのうまい融合ができないかなっていうのはたえず考えています。アニメーションとはまた違ったやり方でね。デジタル放送になるとメモリーに蓄積できて、放送局で漫画も見せられるようになるのかなと。アニメ番組はありますが、"漫画番組"というのはまだないんですよね。そういうものが、いずれできればいいなって思います。テレビで連載漫画なんて、やってもいいんじゃないかなって。

―― 携帯端末機で見られたりもするような...
いずれは、携帯で漫画も見られる時代がくるんじゃないかと思います。いますでに、ネットで漫画を見せているところはたくさんあります。でも、昔からある漫画をスキャニングして張りつけただけだったり、Flashを使ったアニメーションがほとんど。それじゃあ、せっかくのデジタルがもったいない。漫画独特の見せ方をしてないんですよ。そこに音なり音楽なりが入っていれば、漫画もまた新しい形になるのかなあと思います。僕らもデジタル漫画協会というのを立ち上げて、ネットやDVDやマルチメディアで漫画を見せるのにどんな方法があるか研究をしています。うまく融合できて、ヒットが出るとグーンとのびると思うんですけどね。

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―― 紙に印刷された漫画は、次はどうなるかというワクワク感がいいんでしょうね。
印刷の漫画を研究すると、本当に機能的によくできてるんですよ。これをそのままデジタルにもっていくのは、まず不可能だと思います。限られたワクのなかでどうやるかが、いちばん頭を悩ませるところです。でも、いまいちばん普及しているのが携帯電話なんで、まずこれに乗せることを、考えなければいけない。ただ、漫画家っていうのは、いまある仕事を片付けなくっちゃならないのがほとんどなので、なかなか手が伸ばせない状態なんですよ(笑)。

―― CPRAにもいろいろな専門家がいるので、協力できることはぜひご一緒にやらせていただければと思います。漫画は世界に誇る日本のカルチャーでもありますしね。
本当にお願いしたいですね。これからの漫画はデジタルで見せる。その独特の見せ方を、いろいろな人の知恵や力をお借りして開拓していきたいと思っています。

―― 今日はありがとうございました。

(文責:CPRA WEB編集室)

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