PLAZA INTERVIEW

vol.002「(社)音制連がエルダーマーケティング研究会スタート」

社団法人 音楽制作者連盟(FMP)のエルダーマーケティング研究会がいよいよ動き出した。 世間一般に言われる「エルダーマーケット」とは、1947~1949年生まれのいわゆる団塊の世代を中心とした市場のことである。2007年には、大量の団塊の世代が定年退職を迎えることから、日本の2007年問題とも言われているという。このエルダー層は、健康で、経済的・時間的な余裕がある人々が多く、さまざまな業界でエルダー市場の開拓が進められている。 音制連は、このエルダーマーケットを「大人マーケット」として、やや広く捉え、より大きなムーブメントとして関係していこうとしているようだ。 若者向けの音楽が主流で、大人向けの音楽が少ないといわれている日本の音楽シーンにおいて、エルダーマーケットは、まさに巨大な「隙間マーケット」「休眠マーケット」であるということもできるだろう。 ビジネスとして、そしてカルチャーとして、いま、なにを仕掛けていこうとしているのか。今回のPLAZAインタビューでは、音制連エルダーマーケティング研究会の中心メンバーである山中浩郎常務理事にお話をうかがった。
(2004年08月04日公開)

Profile

社団法人 音楽制作者連盟 常務理事
エルダーマーケティング研究会
山中浩郎さん

エルダーマーケティングとジーンズフィフティ

日本は世界に先駆けて急速な高齢化が進んでいると言われています。一般に「エルダーマーケット」と言われるのは、1947~1949年生まれのいわゆる団塊の世代のことですが、私たちはそこを中心とした30歳代以上を「音楽のエルダーマーケット」として捉えようとています。
定年退職を迎えて、団塊の世代は社会の第一線から退くのでしょうか。いやそんなはずはない。彼らこそが、ボブ・ディランを支持し、ビートルズを支持し、1960年代末に若者文化を創り出したのです。フォークを歌い、ロックを生み出し、髪を伸ばし、ジーンズをはき、いまの若者文化の源流ともなっているのだと考えているからです。
現在、日本では、若者文化が主流になっています。もちろん、若者文化が社会の柱のひとつであることは必要なことです。しかし、もうひとつの柱があるべきなのではないか。それは「新しい大人文化」なのだと思います。大学や仕事場に初めてジーンズをはいていった団塊の世代をはじめとする50代は、いまでも家でジーンズをはいています。私たちは、彼らを「ジーンズフィフティ」と呼んでいます。このこれまでの50代とは異なる「新しい大人」が「新しい大人文化」を創造していくものと考えています。
音制連では、今年1月、(株)博報堂、(株)東京サーベイ・リサーチの協力を得て、30代から50代の男女を対象に、インターネットによる意識調査「エルダーマーケットと音楽」を実施しました。このアンケートによると、いまの50代は、「成熟した人」と呼ばれるよりも、「若々しい人」「センスのいい人」と呼ばれたいと思っている。さらに、音楽に対しても、「ビートルズ」「フォークソング」「グループサウンズ」などのキーワードが共通して出てくる。そして音楽との関わりも、いままで音楽業界で常識とされてきた大都市を中心としたコンサート・ブッキングや開演時間など、あらためて見直さなければならないことがわかってきました。

1000億円マーケットと新しい音楽の可能性

ここ数年、60年代から70年代、そして80年代のヒット曲をカバーした作品が注目されています。新しくデビューするアーティストや若いアーティストが、まったく新しい曲としてオールディーズを歌うと若い人たちにも受け入れられるということがわかりました。
これは音楽を通じてエルダーと若い世代がつながることができるということでもあります。現実に、これは音楽だけではありませんが、消費全体で、エルダーの母親とその娘という「母娘消費」が非常に多くなっているといわれています。母と娘で一緒にライブに行くこともあるし、今回の調査でも40代の母と娘で共通の好きな曲やミュージシャンがいるという結果が出ています。ということは、「エルダー=懐かしのヒット曲」であるとともに、新しい大人の音楽が求められているということではないでしょうか。
日本の音楽シーンの中で、充分なキャリアがあって、いまも現役で活動しているアーティストは数多くいらっしゃいます。そんな以前好きだったアーティストのヒット曲をもう一度聴きたいという要望を満たしながら、さらに新しい楽曲の提供も行っていけるのではないでしょうか。
調査結果を見ると、エルダーの音楽離れの要因のひとつに「いまのヒット曲についていけない」という気持ちが表れています。そんな人々を音楽に呼び戻すためにはどうしたらいいでしょう。アーティストが、いつまでも色っぽいセンスのある大人でいること、そしてその姿をちゃんと見せていくことではないでしょうか。アーティストも、若い時と大人になった時では歌い方や演奏、伝えたいメッセージが変化してくるのは当然のことです。例えば、ボブ・ディランやポール・マッカートニー、エリック・クラプトンなどは、いまでも積極的に活動を続けていますし、過去のヒット曲もたくさん演奏しながら、自分の現在の年代に合ったやり方で、いまのオーディエンスに対してメッセージを送っています。
40代、50代の人々は、本人はそうは思っていないのに、世の中ではおじさん、おばさんという呼ばれ方をされてしまいます。その背後には、40代、50代の気持ちを表現できていないという問題もあるのではないでしょうか。音楽というメディアを通じて、この世代の気持ちを代弁できれば、1000億円マーケットともいわれているマーケットを動かすことができると同時に、新しい大人の音楽を作るという素晴らしさをアーティストとオーディエンスで共感することができるのではないでしょうか。

新しい世代文化と幅広いミュージシャンの参加を

日本の50代は会社でもリストラの対象になったり、厳しい時期を過ごしてきました。50代後半となって、社会的には大量の老人になり社会の脇役になるのでしょうか。そうではないと思います。「永遠の50プラス」、つまり50歳を過ぎたら年をとらない人になるのだと思います。50歳代以降を、人生最高の時にできるというモデルができたら、それは、いまの若者に対しても素晴らしい贈り物となり、60代以上の人々の対しても生きる勇気を与えるのではないでしょうか。
具体的なイベントなどの流れですが、まずは今年、2004年の11月30日に、東京国際フォーラムホールAで「シンボリックな」コンサートを開催いたします。ここから、2005年の秋に予定している「大人のための野外ロックフェスティバル」の開催までがひとつの軸になるでしょう。
もちろん、それ以外、それ以前にも、様々なプランを企画し、実施しようとしています。
例えば、1000人程度のキャパシティの会場を使用した「沿線コンサート」です。これは、「沿線、午後2時開演、料金2,000円」がキーワードです。
次に、「コンピレーションアルバム」の制作です。レコードメーカーと契約の切れているアーティストなどにスポットを当て、「ライフ・ゴーズ・オン」「マイ・リスペクト」をキーワードに、大人たちが共感できるものにして行きたいと思います。
さらには、共通テーマを掲げた新曲のリリースも行います。「We Are The World」のように、趣旨に賛同したアーティストがひとつの運動体として参加し、制作して行けたらいいなと考えています。 また、エルダーアーティストによる新人、あるいは若手のミュージシャンの新曲プロデュースも行いたい。
過去の名曲のカバーアルバムをつくるために、10代のアーティストのオーディションを行う。 ...等々の夢のある企画が、現在続々と検討され、準備されています。
日本中のアーティストがコラボレーションし、どのような行動を起こせばいいのか。音制連では、「エルダーマーケティング研究会」への参加を広く呼びかけ、会員各社にとどまらず、関連団体、さらにはメディアも巻き込んで、皆様にご協力をお願いして、音楽業界全体のムーブメントとして行きたいと願っています。

(文責 : CPRA WEB編集室)
FMP 社団法人 音楽制作者連盟

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