CPRA Talk

Interview.009

「衛星放送」について、小牧次郎氏に聞く

CPRA news第79号では、「衛星放送の誕生と発展」を取り上げ、スカパーJSAT株式会社取締役 執行役員小牧次郎氏にお話を伺った。CPRA Talkでは、CPRA newsの誌面上では届けられなかったインタビューの全文を掲載する。
(2016年02月01日公開)

衛星放送の位置付け

 衛星放送の特色のひとつとして、「多チャンネル」であることが挙げられます。この衛星多チャンネル放送が始まったとき、地上放送との違いは、「総合」と「専門」と言われていました。
 地上放送では、放送局が放送番組を編成し、視聴者は、放送される時間に放送番組を視聴する受動的な受け手となります。しかし、衛星多チャンネル放送では、音楽、映画、時代劇、アニメなど専門チャンネルがたくさん並ぶことによって、視聴者が、能動的に視聴したい放送番組を選択し、自分の好みで編成し、視聴することができます。つまり、疑似的なオンデマンド視聴が可能になる、というのが衛星放送の強みだと言われたのです。
 しかしながら、インターネットを通じた配信が始まると、そう短絡的なものではないと思うようになりました。
衛星多チャンネル放送の中には、専門チャンネルだけではなく、総合編成チャンネルもあります。地上放送における総合編成は限られた時間の中で、効率的に視聴者に届ける工夫がされ、例えば、サッカーの中継番組は、地上放送では試合が中心です。それに対し、衛星多チャンネルにおける総合編成チャンネルでは、試合前のサポーター同士の応援合戦や、試合後の監督や選手のインタビューまで届けます。つまり、同じ題材で地上放送より深化した内容を放送しているのです。
 一方インターネットは、地上放送でも衛星多チャンネル放送でも取り上げないコアなコンテンツを視聴者に届けます。
 衛星多チャンネル放送は、単に地上放送との違いだけではなく、インターネットも加えてみることによって、その位置付けが見えてきました。すなわち、地上放送を一方として、その対極にあるのが、ネット配信だとすると、そこには、必ず中間があって、衛星多チャンネル放送は、そこに位置付けられるのではないかと思います。

デジタル化・ネットワーク化における衛星放送

 衛星多チャンネル放送が本格的に始まったのは、1990年代の終わりごろです。日本は、地上放送にNHKと民間放送局とで6つの全国ネットワークがあり、諸外国に比べ、地上放送が強い国と言われてきました。地上放送のプライムタイムに放送される番組が、全て新作と言うのも日本だけです。ただ、衛星多チャンネル放送については、未開の地であり、当時は「地方局炭焼き小屋論」(※1)もありましたが、日本国内でも通信衛星を使った放送も可能になるなど法制度環境等も整って、商社やメーカー、放送局などが中心となって、複数の衛星多チャンネル放送が開始されました。時が経ち、現在、衛星多チャンネル放送のプラットフォームは「スカパー!」に集約され、日本で唯一の衛星多チャンネル放送のプラットフォームになっています。
 放送であればテレビ受像機やラジオ、通信であればパソコンやスマートホン、タブレット機器というように、放送や通信を通じて届けられるコンテンツを視聴する機器は、分かれていました。しかし、デジタル化、ネットワーク化の発展で、パソコンで見ていたコンテンツをテレビで見たり、放送番組をパソコンやタブレットで見たりすることができるようになりました。放送局や通信事業者は、時間や場所、機器を問わずにコンテンツを届けるという、同じ方向に向かっています。このような流れの中でスカパー!も、インターネットを通じてスカパー!を楽しむことができる「スカパー!オンデマンド」を開始し、時間や場所、機器を問わずに視聴できるようになっています。
 放送や通信にかかわらず、あらゆるプラットフォームが、同じ方向、つまり時間や場所、機器を問わずにコンテンツを届ける方向に向かうと、各プラットフォームにとって、コンテンツが非常に重要になっていきます。差別化を図るために、これからは、コンテンツの独占化や、オリジナル・コンテンツの制作に力を入れるようになるのではないかと思います。

今後の衛星放送

 衛星放送は、人工衛星を通じて、日本全国に放送を届けることができ、日本全国にネットワーク網を構築するのと比べてコストがかかりません。しかも、通信では、加入者が増えることに比例してサーバー代などのコストがかさんでいくことになりますが、衛星放送では、人工衛星を使用するためのコストは一定ですので、採算点を上回る加入者数になれば、後は楽になります。加入者の増加は、関係するコンテンツホルダーや権利者にとっても、多くの配分を受けられるというメリットにもなるのです。  また、新しい技術に、いち早く取り組むことによって、ほかのプラットフォームを先行することができます。例えば、スカパー!では、4K専門チャンネルの商用化を既に開始しています。より高画質なコンテンツを楽しむことができる4K HDR(※2)映像伝送実験を推進し、技術面で、ほかのプラットフォームに先行しています。  今後、衛星放送は、地上放送やネット配信との位置付けを踏まえつつ、コンテンツや技術などに強みを持って進んでいくべきではないでしょうか。

(2015年12月3日インタビュー)

Profile

小牧 次郎(こまき・じろう)

スカパーJSAT株式会社取締役 執行役員専務有料多チャンネル事業部門長 兼放送事業本部長。1983年フジテレビジョン入社。1997年、フジテレビが経営参加したジェイ・スカイ・ビーに出向。その後、スカイパーフェクト・コミュニケーションズコンテンツ事業本部副本部長、フジテレビCS事業部企画担当部長、クリエイティブ事業局統括担当局長などを経て、2015年から現職。

GUIDE/KEYWORD

地方局炭焼き小屋論(※1)

衛星から日本全国にダイレクトに電波が届けられるようになると、地方局は炭焼き小屋のように時代遅れになってしまうのではないかという考え方。(▲本文に戻る)

4K HDR(※2)

4Kは「解像度」のこと。HDRとは「High Dynamic Range(ハイダイナミックレンジ)」の頭文字を取った、映像に記録できる明るさ情報(輝度)のレンジを拡大する技術。(▲本文に戻る)

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