韓国FKMPにおける取組について―オンデマンド配信における集中管理を中心に
法制広報部 君塚陽介
本年3月に芸団協CPRA職員が、韓国音楽実演家連合(FKMP)を訪問し、韓国著作権法の動向について現地調査を行った。
また、10月には、FKMPのイ・ジョンヒョン会長らが来日し、親交を深めたところである。
そこで、韓国著作権法における実演家の権利と集中管理団体の現状も踏まえつつ、FKMPにおけるオンデマンド配信における集中管理の取組について紹介する。
韓国著作権法の概要 ※1
韓国では、1986年の著作権法全面改正により、著作隣接権制度が導入され、実演家の権利が認められた。1995年の「録音・録画権等」から「複製権」への改正 ※2、2004年改正による伝送権の創設、2006年改正による実演家人格権の付与、2009年改正によるレコード公演補償金請求権の創設など数次の改正を経て、現行法における実演家の権利は、図1のとおりとなっている。
また、韓国は、著作隣接権に関する国際条約として、2008年にローマ条約及びWIPO実演・レコード条約(WPPT)に、2020年に北京条約にそれぞれ加盟している。
集中管理団体の現状
韓国著作権法では、著作権等の集中管理については、著作権信託管理事業による規制がある。著作権信託管理事業を行うためには、文化体育観光部長官から認可を受ける必要があり、現在、11団体が認可を受けている。
音楽著作権の集中管理団体には、韓国音楽著作権協会(KOMCA)がある。KOMCAは、1964年に設立され、1988年に著作権信託管理事業の認可を受け、音楽の著作物に係る公の実演権、放送権、伝送権および複製権の集中管理を行っている。
また、2014年には、音楽著作権の集中管理団体として、共にする韓国音楽著作者協会(KOSCAP)も設立され、文化体育観光部長官から、著作権信託管理事業の認可を受けている。
レコード製作者の集中管理団体には、韓国レコード協会(RIAK)がある。RIAKは、2009年に商業用レコードの公演について補償金の受領団体として指定されていたが、著作権法違反や補償規程違反、管理能力の欠如により、文化体育観光部より補償金受領団体の指定の取消訴訟が提起され、2021年1月の最高裁判決により、指定が取り消された。
RIAKによる補償金の徴収・分配は停止され、2021年4月からは、原盤権を有する芸能事務所で組織される韓国芸能制作者協会(KEPA)が、新たな補償金の受領団体に指定され、徴収・分配業務を引き継いでいる ※3。
FKMPの概要
韓国音楽実演家連合(FKMP)は、1988年に設立され、2000年に文化観光部長官により、著作権信託管理事業の認可を受け、音楽実演家の著作隣接権を管理している。
FKMPは、この著作権信託管理事業のほかに、1988年からは商業用レコードの放送について、2008年からはデジタル音声送信について、2009年からは商業用レコードの公演について補償金請求権の行使について ※4、補償金受領団体として、補償金の徴収・分配を行っている。
2023年度、FKMPでは、総額約634億ウォン(約63億円 ※5)を徴収しており、うち約106億ウォン(約10億円)を補償金として韓国国内から徴収するほか、著作権信託管理事業に基づく使用料として約500億ウォン(約50億円)以上を徴収している。
FKMPによる伝送権の管理
①伝送権の創設
デジタル技術とインターネット環境に対応するため2004年改正により、実演家は、その実演を伝送(インタラクティブ送信)する権利(伝送権)を有することとなった(韓国著作権法第74条)。
「伝送(インタラクティブ送信)」とは、公衆送信のうち、公衆の構成員が、その選択した時間および場所において利用が可能となるような状態に置くことのほか、その後の送信も含むものとされ(韓国著作権法第2条第10号)、WIPO実演・レコード条約(WPPT)第10条に定める利用可能化権に位置付けられることになる。
②FKMPによる集中管理実務
FKMPでは、著作権信託管理事業者として、この実演家に係る伝送権を集中管理しており、FKMPが徴収する使用料の中でも多くの割合を占めている。FKMPが伝送権を集中管理するきっかけとなったのは、インターネット上における侵害複製物に対処する必要があったからという。
現在では、この伝送権に基づく使用料の徴収先は、ストリーミング/ダウンロードサービス(例、MeLOn、Genie、Vibe、YouTubeなど)、OTTサービス(例、ネットフリックス、YouTubeプレミアム、TVing、Wavveなど)、オンラインゲームなど多岐に亘っている。
これらの徴収先には、YouTubeといったユーザー・アップロード型サービスも含まれている。権利者は無許諾でアップロードされたコンテンツについて削除要請することが可能であるため、ユーザー・アップロード型サービスのプロバイダーが、本来アップロードする個々のユーザーが支払うべき使用料を支払うことになったという。
〔伝送権に基づく各権利者の使用料の算出方法〕
伝送権に基づく使用料の算出方法は、利害関係者など意見も聴取しつつ、市場状況なども考慮したうえで使用料規程を定め、文化体育観光部長官の承認を得る必要がある(韓国著作権法第105条第9項)。
実演家、著作者およびレコード製作者の各権利者の使用料の算出方法は、図2のとおりとなっている。
〔伝送権に基づく使用料の分配方法〕
FKMPでは、伝送権に基づく使用料の徴収分配に係る管理手数料の規程料率を20%以内と定め、2023年から2024年までの実施料率は12%となっている。
利用者から提出される利用報告とFKMPが有する会員情報や実演参加情報に係るデータベースとを照合させて、個人別分配額を算出している。個人別分配額の算出例は、次のとおりとなっている。
i)特定期間における曲単価の算出例
例)特定期間における分配対象額を全曲の利用回数で除し、曲単価を算出する。
925,000,000(特定期間における分配対象額)÷1,000,000,000(特定期間における全曲の利用回数)
=0.925ウォン(曲単価)
ii)対象楽曲に対する分配額の算出例
例)特定期間において対象楽曲が90万回再生されている場合、曲単価に、対象楽曲の再生回数を乗じて、対象楽曲の分配額を算出する。
0.925ウォン × 90万回再生 =832,500ウォン(対象楽曲の分配額)
対象楽曲の実演参加情報が、メインアーティスト1名、バックミュージシャン5名の場合、対象楽曲の分配額から、図3のとおり個人別分配額を算出する。
諸外国における対価還元方策
各国の事情に応じて、オンデマンド・ストリーミングからの対価還元方策がとられている。例えば、フランスでは、2021年の法改正に基づき、2022年5月に実演家の団体とレコード製作者の団体との間で、ストリーミング型音楽配信に関して実演家の最低報酬について合意している ※7。
また、ベルギーでは、2022年の法改正により、オンライン・コンテンツ共有サービスやストリーミング・サービスのプラットフォームにおける著作物や実演の利用について、著作者や実演家が公衆への伝達に係る排他的権利を譲渡した場合であっても、これらプラットフォームに対する直接の報酬請求権を有し、この権利は集中管理団体にのみによって行使することができるとしている ※8。
一方、韓国では、このような法改正によらず、FKMPの集中管理を通じてオンデマンド配信から実演家への対価還元を実現している状況にあると言えよう。
【注】
※1 2013年までの実演家の権利の状況については、張睿暎「韓国における実演家の権利と保護-現状と課題―」日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センター編『実演家概論―権利の発展と未来への道』346頁以下(勁草書房、2013)参照。また、近時における韓国著作権法の概要については、片岡朋行「韓国著作権その他コンテンツ行政などの現況と日本との違い」コピ736頁以下(2022)がある。 (▲戻る)
※2 複製権に至る改正の経緯については、小島京古「実演家に『複製権』を―その期待と展望」コピ606号41頁以下(2011)参照 (▲戻る)
※3 令和5年度文化庁委託研究『商業用レコードの利用に係る権利に関する諸外国調査報告書』86頁(三菱UFJリサーチ&コンサルティング、2024年3月) (▲戻る)
※4 韓国における商業用レコードの公演に係る報酬請求権については、張睿暎「韓国における実演家のレコード公演権を巡る近時の動向」CPRAnews89号4頁以下(2018)など参照 (▲戻る)
※5 10ウォン=1円で換算 (▲戻る)
※6 レコード製作者に係る伝送権に基づく使用料額の算出方法は、RIAKが、レコード製作者に係る伝送権の著作権信託管理事業を行うにあたって、文化体育観光部から承認を得た使用料規程に基づくものである。しかしながら、実務上、レコード製作者が個別に利用許諾する場合がほとんどであり、その場合でも、使用料については、この使用料規程に基づく算出方法が基準として用いられているという。 (▲戻る)
※7 CPRAウェブサイト「フランスでストリーミング型音楽配信に関する実演家の報酬について歴史的な合意が成立」参照 (▲戻る)
※8 CPRAウェブサイト「ベルギー:YouTubeやSpotify等での音楽や映像の利用について 著作者及び実演家に報酬請求権を付与」参照 (▲戻る)
CPRAウェブサイトでは、ベルギーのルーバン・カトリック大学名誉教授であり、ALAI(国際著作権法学会)会長も務めるフランク・ゴッツェン先生の「The Belgian approach to direct remuneration of authors and performers in the case of transmission via digital platforms(デジタル・プラットフォームを通じた送信における著作者および実演家の直接の報酬請求権に関するベルギーのアプローチ)」(RIDA276号(2023年4月))の翻訳を、ゴッツェン先生の許諾を得て掲載している。同稿では、ベルギーにおける、プラットフォームに対する直接の報酬請求権の成立経緯から、比較法やEU指令との関係まで述べられている。
≫「デジタル・プラットフォームを通じた送信における著作者および実演家の直接の報酬請求権に関するベルギーのアプローチ」について