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教えて、先生!【特別編-その3】AIカバーで自分の声が使われてるんだけどどうしたらいいの?

「教えて、先生!」チーム/佐藤 豊

自分の歌声や演奏を勝手に使われたとき、どうしたらいいんだろう?
芸団協CPRAってなに?
念願のデビューを果たしたばかりの新人アーティスト、ネコ吉君の素朴な質問に先生が答えます。
今回も、芸団協CPRA30周年記念事業オンライン・セミナー テーマ1「新たな技術と実演」に関連した特別編!いつもとちょっと違うネコ吉君の相談に答えます。
特別編(その3)は「AIカバーで自分の声が使われてるんだけどどうしたらいいの?」。
SNSで、歌ったこともない曲を自分が歌っているという動画を見つけたネコ吉君。どうも、今話題の生成AIを使った「AIカバー」のようで…

特別編-その3AIカバーで自分の声が使われてるんだけどどうしたらいいの?

ネコ吉くん
ネコ吉くん

大変、大変!!
「ネコ吉君に歌わせてみた」っていう動画をSNSで見つけたんだ!

先生

何が大変なんだい?ネコ吉君が歌っているんじゃないの?

ネコ吉くん
ネコ吉くん

それが、歌った覚えはないんだよ!
だけど、僕そっくりの声と歌い方でタヌキングの「ぽんぽこポン」って曲を歌っているんだよね。
なんだか「AIカバー」っていう謎の表示があったんだけど。

先生
先生

それは、最近話題の「生成AI」を使って、ネコ吉君の声で歌ってるように作られた音声なんじゃないかな?

ネコ吉くん
ネコ吉くん

せーせーえーあい?
なにそれ…もっと詳しく教えて!!

<解説>

生成AIは、入力されたキーワードなどの指示(プロンプト)に応じて、文章や画像、音声などを生成する人工知能システムです。
生成AIのなかには、人間の声を真似て、あたかもその人が歌ったり話したりしているような音声を出力するものがあります。

たとえば、インターネット上で公開されているサービスでは、既存の音源のボーカル部分を分離し、学習済みの人物の声と差し替えることで、あたかも差し替え後の人物が歌っているかのような音声を出力します。具体的には、学習済みの声(のデータ)を指定した上で、音源があるYouTubeなどのURLを指定するか、自分が持っている音源のファイルを指定すると、指定された音源がシステムに読み込まれ、読み込まれた音源のボーカル部分が指定した学習済みの声に置き換えられた状態の音声が出力されます。また、あるまとまった長さの声のみの音源があれば、新たに声を学習させることもできます。
このような人間の声を生成し出力するAIを使えば、どんな曲でも別のアーティストが歌ったかのようなカバー曲を作ることができます。これをAIカバーといいます。

ネコ吉君が見つけたように、インターネット上には多くのAIカバーが公開されており、残念ながら、それらのなかには、アーティストに無断で生成され公開されているものが少なからず存在しています。

確かに、AIカバーは、アーティストの一部のファンにとっては夢のような存在といえるかもしれません。「もしあのアーティストがあの曲を歌ったらどうなるだろうか」という想像を現実のものにしてくれますし、既に亡くなったアーティストのAIカバーであれば、そのアーティストがこの世に蘇ったような錯覚を得られるものでもあります。
その反面、アーティスト本人にとっては、知らない間にカバー曲がいたるところで作られることになり、その意味では悪夢のような存在といえるかもしれません。
アーティスト本人に無断でAIカバーを生成し、インターネットなどで公開する行為は、法律上どのように取り扱われるのでしょうか。

AIカバーを生成する段階

AIカバーを生成するにはまず、AIカバーで歌わせたいアーティストの声をAIに学習させなければなりません。
先に紹介したインターネット上でも公開されているサービスでは、アーティストの声のみの音源ファイル(アカペラでも単なる話し声でもかまいません)をシステムに読み込ませて学習させます。
この段階でシステムは声を音源ファイルから読み込んだうえで解析し、その声固有の特徴量を数値化しますので、この読み込みにより音声がコピーされるため、AIに学習されるアーティストの音声が実演の場合には、著作権法上の「録音」(著作権法2条1項13号)が生じます(録音①)。 つまり、冒頭のケースで言えば、ネコ吉君の実演が録音されることになります。

次に、ユーザは、学習済みのアーティストの音声を指定し、カバーしたい音源を読み込ませ、AIカバーを生成します。
これらの行為のうち、システムが読み込む際や、AIカバー生成時には、カバーしたい音源がコピーされるため、ここでも著作権法上の「録音」が生じます。
冒頭のケースで言えば、タヌキングのボーカルを含む「ぽんぽこポン」も録音されることになるのです(録音②)。

そして、先ほどのインターネット上で公開されているサービスでは、システムが読み込まれた音源のボーカル部分とそれ以外の部分とを分離した上で、ボーカル部分を指定された学習済みの声に改変し、残りの部分と併せて出力することでAIカバーが完成します。 つまり、タヌキングの「ぽんぽこポン」のうち、タヌキングのボーカル部分が、ネコ吉君の声となって、AIカバーが完成するのです。

このように、AIカバーを生成する段階で複数の録音行為が生じるので、音声を使われたアーティストは、無断で自身の音声を用いたAIカバーを作成することをやめさせられるようにみえるかもしれません。ただ、問題はそう簡単ではありません。

まず、問題になるのが、著作権法の権利制限規定との関係です。
アーティストの音声に含まれる実演をシステムに学習させる際の「録音」(録音①)が、「情報解析」のための利用として、著作権法102条が準用する30条の4第2号の権利制限規定に該当する場合には、実演家の録音権が及ばないため、ネコ吉君の実演を情報解析のために利用する場合には、ネコ吉君の実演家の権利が及ばないことになるのです。
もっとも、「情報解析」のための権利制限規定に該当するためには、(著作物の)思想又は感情を享受することを目的としていないことが必要であるという考え方が、文化庁の「AIと著作権に関する考え方」で示されています。
この考え方を採れば、特定アーティストの歌声等を生成して楽しむことを目的として、特定アーティストの音声を学習させることは、権利制限規定の対象外ということになります。

では、AIカバーは、学習された実演を「録音」したものということはできないのでしょうか。 学習済みのネコ吉君の音声データの声固有の特徴量を数値化したものに基づいて生成されるAIカバーが、学習されたネコ吉君の実演の(間接的な)録音物である、という解釈の余地が全くないわけではありません。
すなわち、現行の著作権法では、「音を物に固定し、またはその固定物を増製すること」を「録音」と定義しています(著作権法2条1項13号)。
これは、音が物に固定される態様を問わず、元の音を認識できる状態で再生できることを前提にしているものと考えられます。
そうすると、その音固有の特徴量のデータを実演の録音物と理解し、そのデータから生成された音声は、学習の対象となった実演の固定物の増製ととらえることもあながち無理ではないかも知れません。
そうなれば、生成されたAIカバー(録音物)の利用について、ネコ吉君の実演家の権利が及ぶものと考えられます。

生成されたAIカバーをインターネット上に公開する段階

AIカバーが先に述べたようにネコ吉君の実演の録音物であるとすれば、これをインターネット上で公開することは、著作権法上の送信可能化(著作権法2条1項9号の5イ及びロ)に該当しますので、ネコ吉君から許諾を得なければ、違法な録音物ということになります。
しかし、実演の録音物と考えられない場合には、学習された実演に係る実演家の権利は及ばず、ネコ吉君はAIカバーに、何も言えないことになります。

もっとも、AIカバーをインターネット上に公開し、そこから収益を得ている場合には、アーティスト名を表示する行為が、パブリシティ権の侵害にあたる可能性が出てきます。

日本の裁判例によれば、パブリシティ権は、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的として」肖像等を無断で使用させない権利とされています(最判平成24(2012)・2・2民集66巻2号89頁[ピンク・レディー上告審])。
そして、この「肖像等」には、人物を想起させる情報が含まれるとされ、一例として「声」が挙げられています(中島基至「最高裁重要判例解説」Law&Technology No.56(2012)74頁)。
また、専ら肖像等の顧客吸引力を利用する行為の例として、商品などの差別化の目的で使う行為が挙げられています(中島・前掲77頁)。
そうすると、アーティスト名が付されたAIカバーがインターネット上に公開され、公開した者がそこから収益を得ている場合には、パブリシティ権の侵害が生じる余地がありそうです。

むすび

AIカバーについては、ここでは触れられなかった問題もあります。
例えば、ネコ吉君が歌っている実演ではなく、話し声を学習した場合のように学習されたアーティストの音声が「実演」ではない場合にはどのようになるのかといった点や、ネコ吉君の声に改変されたタヌキングのボーカルのように「改変された実演」の保護はどうなるのか、といった点です。

AIカバーについては、法的な位置づけが必ずしも明らかでない点もあります。
現行の法律などによって、どこまで対応できるのかを見極めつつ、必要に応じて立法による対応も検討すべきかもしれません。

今回教えていただいた先生

佐藤 豊 先生 山形大学准教授/博士(法学)

専門は知的財産法、著作権法。著書として『18歳からはじめる知的財産法』(共編著、法律文化社、2021)。主要な論文として、「生成AIによる実演の学習、実演類似のものの生成及び生成結果の利用に対する規律の一考察➀」、「情報アクセシビリティと著作権制度」(2023)、「私人の著作物利用を誘発する者の法的責任」(著作権情報センター 第7回著作権・著作隣接権論文集)など。



教えて、先生! シリーズ
≫【第1回】アーティストやミュージシャンにも著作権ってあるの?
≫【第2回】プロじゃなくても「著作隣接権」ってあるの?
≫【第3回】ライブと録音物で違いがあるの?
≫【第4回】これまでのおさらい
≫【第5回】芸団協CPRAって何をするところ?
≫【第6回】サブスク配信の使用料も芸団協CPRAからもらえるの?
≫【第7回】自分の曲がお店のBGMに使われた場合、報酬は支払われるの?
≫【第8回】レコーディングに参加したら、名前は表示されるの?
≫【第9回】無断で名前や写真を使われたときはどうしたらいいの?
≫【特別編その1】メタバースでイベントをするにはどうしたらいいの?
≫【特別編その2】メタバースで音楽を使うにはどうしたらいいの?