CPRA news Review

他の記事を探す
カテゴリで探す
記事の種類で探す
公開年月で探す

教えて、先生!【特別編-その1】メタバースでイベントをするにはどうしたらいいの?

「教えて、先生!」チーム/関 真也

自分の歌声や演奏を勝手に使われたとき、どうしたらいいんだろう?
芸団協CPRAってなに?
念願のデビューを果たしたばかりの新人アーティスト、ネコ吉君の素朴な質問に先生が答えます。
今回は、芸団協CPRA30周年記念事業オンライン・セミナー テーマ1「新たな技術と実演」と絡めた特別編!いつもとちょっと違うネコ吉君の相談に、あの先生が答えます。
特別編-その1は、「メタバースでイベントをするにはどうしたらいいの?」。
最近話題のメタバースで何かイベントができないか考えているネコ吉君。リアル開催のイベントとは、どうやら勝手が違うようで…

特別編-その1メタバースでイベントをするにはどうしたらいいの?

ネコ吉くん
ネコ吉くん

ついに僕のファンクラブができたんだ!最初のファン・ミーティングは目新しいことをして、ファンの皆を喜ばせたいんだけど。

先生

それはおめでとう!!
だったら、メタバース上でファン・ミーティングをするのはどうかな?結構簡単にイベントを主催できるみたいだよ。

ネコ吉くん
ネコ吉くん

なるほど!面白そう~
でも、どこから始めたらいいんだろう?たとえば会場は、どうやって用意するの?

先生
先生

メタバースのプラットフォームが公式に用意している会場データを使ったり、プラットフォームの機能や外部ツールを使って、自分でデータを制作することもできるよ。誰かが作った会場データを借りることもできるかもしれないし。

ネコ吉くん
ネコ吉くん

本当だ!結構かっこいいイベントスペースを作っている人もいるね。
でも、誰に断れば使えるのかな?
詳しく教えて!

<解説>

テクノロジーの進化によって注目を集めているメタバース。最新技術を積極的に活用しようというネコ吉君のチャレンジ精神はとてもすばらしいですね!

メタバース」とは、ざっくり言うと、複数のユーザーがネットワークを通じてアクセスし、アバターを用いてコミュニケーションなどの活動を行うことができるバーチャル空間です。株式会社矢野経済研究所の調査によると、メタバースの国内市場規模は2023年度で2851億円と見込まれ、2027年度には2兆円を超えると予測されています。

|プラットフォーム
メタバースでは、プラットフォームに応じて様々なサービスが提供されています。ユーザー同士のコミュニケーションのために設計されたソーシャル系のメタバース、ゲームなどのエンタテインメントに力を入れたメタバース、バーチャルオフィスなどのビジネス利用に強いメタバースなどがあります。また、アクセスするためのデバイスも、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)※1はもちろん、これを必須とせずにPCやスマートフォン、タブレットで気軽に楽しめるものがあります。

すべてをご紹介することは難しいですが、国内の代表的なプラットフォームとしては、「cluster」や「REALITY」などがあります。

「cluster」は、3DCG空間の中でアバターを介してコミュニケーションをとることができるソーシャル系メタバースのプラットフォームで、ユーザーが自分で手軽にワールドやアバターを作ったりイベントを開催したりすることができるように工夫されています。ユーザーが、ワールドに並べるアイテム、アバターが身に着けるアクセサリーなどを出品し、他のユーザーに販売することもでき、クリエイターのための経済圏(クリエイターエコノミー)を実現する場にもなっています。HMDはもちろん、PCやスマートフォン等の各種機器やOSをカバーしている点も魅力です。

「REALITY」は、配信者が自分の好きなアバターとなってライブ配信を行い、他のユーザーがそれを視聴したり、ギフトやコメントを送ったりしてコミュニケーションをとることができるサービスです。ユーザー同士がチャットで交流する機能など、コミュニティへの参加を通じて楽しむための工夫にも力が込められています。ライブ配信を行うユーザーはその活動などに応じて収益分配を受けることもでき、こちらもクリエイターエコノミーの実現に向けた取組みを行っています。スマートフォンが1台あれば気軽に配信に参加できる点も評判です。

海外のソーシャル系メタバースプラットフォームとしては、「VRChat」が有名です。HMDなどを使い、自由度が高く没入的な体験ができる点で人気があり、世界中に多くのアクティブユーザーがいると言われています。

そのほか、ゲームを通じてユーザーとの交流が生まれるサービスから発展したメタバースプラットフォームとして「Fortnite」、「Roblox」、「The Sandbox」などがあり、ビジネス系のプラットフォームとして「Meta Horizon Workrooms」などがあります。

|デバイス
ここまで解説したとおり、メタバースに参加するためには、HMDなどの専用機器は必ずしも必要ではありません。プラットフォームにもよりますが、PCやスマートフォンなどから気軽に参加することが可能です。また、これもプラットフォーム次第ですが、アプリをダウンロードしてから参加するタイプのサービスもあれば、ブラウザ上で動作するものもあります。さらに、「The Sandbox」や「Decentraland」のように、暗号資産のウォレットを接続するプラットフォームも一部ありますが、「cluster」、「REALITY」、「VRChat」などのように、暗号資産がなくとも利用可能なサービスも多く存在しています。

より没入感の高いメタバース体験をするためには、HMDなどの専用機器を使うのもよいでしょう。代表的なHMDには、「Meta Quest」、「Pico」、「Vive」などの各シリーズがあります。また、HMDと付属のコントローラを使用する場合、頭部と両手の3点のみの動きをトラッキング※2することになりますが、肘、腰、足などに追加のモーショントラッカーを装着したり、顔の表情や目の動きをアバターに反映するフェイシャルトラッカーやアイトラッカーを装着したりすることにより、アバターが本当に自分の身体であるかのような感覚により近い体験ができるようになります。現在、モーションキャプチャとして代表的な機器には、「mocopi」、「VIVEトラッカー」、「HaritoraX」などがあります。

ネコ吉君も、HMD、PC、スマートフォンなどの中から、自分がメタバースでやりたいことに合ったデバイスを選べばOKです!

|アバター
さて、デバイスの準備ができたら、次はアバターです。
アバターを作る方法にもいくつかあります。簡単な方法としては、メタバースプラットフォームがそれぞれ提供している標準的なアバターを使用する方法や、プラットフォームの提供するアバター作成ツールで作成する方法があります。たとえば、「cluster」では、プラットフォームが提供する素体にカスタマイズを加えることでオリジナルアバターを作ることができる「AvatarMaker(アバターメイカー)」というサービスがあります。無料でアバターを使ったり作ったりすることができる場合も多いので、まずはこれらの方法で手軽にメタバースを体験してみるのも良いでしょう。

また、アバター作成用のツールやソフトウェアを使って自作したり、クリエイターに依頼して作成してもらうこともできます。「Blender」や「Unity」のように高性能で比較的操作が難しい上級者向けのツールもありますが、素体やテンプレートをもとにカスタマイズすることによって比較的簡単に作成できる「VRoid Studio」のようなツールまで様々なものがあり、自分に合ったものを選ぶことができます。

なお、アバターのファイルフォーマットにも様々なものがありますが、特定のプラットフォームでしか動作しないのではなく、複数のプラットフォームやアプリケーションを跨いで使用できるアバターのファイルフォーマットとして、「VRM」が有名です。アバターを作るときには、自由度の高いメタバース体験のために、こうした点にも注意するとよいでしょう。

|いよいよメタバースへ
アバターの用意ができたら、いよいよメタバースに入ってみましょう!

メタバースでは、プラットフォームを通じて、個々に作成されたバーチャルワールドに入り、そこに構築されたコンテンツを体験したり、他のユーザーとコミュニケーションをとったりすることができます。それぞれのワールドは、プラットフォームが提供するものもあれば、ユーザーが作成して公開するものもあります。ユーザーが作成するワールドにも、特定のユーザーが一から独力で作るものから、プラットフォームから提供されたり他のユーザーから入手したりするアイテムを組み合わせて作るものまで、様々なパターンがあります。そして、その一つひとつのアイテムが著作権によって保護されていたり、それらを組み合わせたワールド全体がまた別の著作物として保護されたりなど、複雑な権利関係の上に成り立っています。

|メタバースでイベントを開催するためにワールドを利用するとき、誰から許諾を得ればよいのでしょうか?
そのワールドを形作るアイテムを作ったクリエイター一人ひとりから許諾を得なければならない・・・とすれば非常に大変ですよね。
ですが安心して下さい。多くのプラットフォームでは、利用規約で権利処理のルールを定めています。具体的には個別のプラットフォームの利用規約を確認する必要がありますが、おおまかな傾向としては、次のようになっていることが多いと思います。

①ユーザーがそのプラットフォームにアップロードしたワールドやアイテムなどのコンテンツの権利は、そのユーザーに帰属する。
②各ユーザーは、そのプラットフォームの利用に関する限り、他のユーザーがアップロードしたワールドやアイテムなどのコンテンツ(特に、そのユーザーが公開設定したもの)を利用することができる。

したがって、ネコ吉君も、利用規約で認められた範囲内であれば、メタバースでファン・イベントを開き、世界中のファンとリアルタイムな交流を楽しむことができるでしょう。

ただし、注意しなければならないのは、あくまで「利用規約で認められた範囲内」の利用に限られるのが原則であるという点です。プラットフォームによっては、企業による利用や商用目的での利用など、一定の利用を許諾の対象外としているケースがあるため、イベントの主催者、目的、内容などに照らし、利用するプラットフォームやワールドの利用規約その他のルールをよく確認することが大切です。

次回、特別編-その2では、メタバースにおける音楽の利用を取り上げる予定です。



【注】
※1 ヘッドマウントディスプレイとは、ゴーグルやヘルメットのような形状で、頭に装着して使用するデバイス。(▲戻る)
※2 アバターに生身の動きを反映させること。(▲戻る)

今回教えていただいた先生

関 真也 先生 関真也法律事務所弁護士・ニューヨーク州弁護士
バーチャルリアリティ学会認定上級VR技術者

漫画、アニメ、映画、ゲーム等のコンテンツやファッションに加え、XR、メタバース、VTuber/アバター、NFT、AI、eSports等の分野を中心に、知的財産問題、契約書作成、紛争対応、事業の適法性審査等を多く取り扱う。 XR分野では、一般社団法人XRコンソーシアムの社会的課題WG・メタバースWG・3DスキャンWGにて各座長を務めるとともに、経済産業省「Web3.0時代におけるクリエイターエコノミー研究会」、同ファッション未来研究会「ファッションローWG」の各委員を務めXR・メタバース領域を担当するなど、XR・メタバースと法に関する調査・研究、政策提言等を行っている。主な著作に「XR・メタバースの知財法務」(中央経済社、2022年)、「ビジネスのためのメタバース入門」(共編著、商事法務、2023年)、「ファッションロー〔第2版〕」(共著、勁草書房、2023年)等がある。



関連記事
≫メタバースと実演 関真也弁護士に聞く(2023年5月)

教えて、先生! シリーズ
≫【第1回】アーティストやミュージシャンにも著作権ってあるの?
≫【第2回】プロじゃなくても「著作隣接権」ってあるの?
≫【第3回】ライブと録音物で違いがあるの?
≫【第4回】これまでのおさらい
≫【第5回】芸団協CPRAって何をするところ?
≫【第6回】サブスク配信の使用料も芸団協CPRAからもらえるの?
≫【第7回】自分の曲がお店のBGMに使われた場合、報酬は支払われるの?
≫【第8回】レコーディングに参加したら、名前は表示されるの?
≫【第9回】無断で名前や写真を使われたときはどうしたらいいの?
≫【特別編その2】メタバースで音楽を使うにはどうしたらいいの?
≫【特別編その3】AIカバーで自分の声が使われてるんだけどどうしたらいいの?