教えて、先生!【第9回】無断で名前や写真を使われたときはどうしたらいいの?
「教えて、先生!」チーム/小林利明
自分の歌声や演奏を勝手に使われたとき、どうしたらいいんだろう?
芸団協CPRAってなに?
念願のデビューを果たしたばかりの新人アーティスト、ネコ吉君の素朴な質問に先生が答えます。
第9回は「無断で名前や写真を使われたときはどうしたらいいの?」。
憧れのギタリスト、ライオーンさんと共演も果たし、徐々に知名度も高まってきたネコ吉君。でも、人気者ならではの心配事も出てきたようで…
第9回無断で名前や写真を使われたときはどうしたらいいの?
ライブで勝手に撮られた写真を使ったグッズが、フリマサイトで売られているのを見つけたんだけど。僕には「著作隣接権」があるから、止めさせることはできるよね?
確かにネコ吉君には「著作隣接権」はあるけれど、今回のケースでは著作隣接権は関係ないかな。
えっ、そうなの!?
たしか、僕には、ライブ演奏を勝手に録音・録画されない権利があったんじゃなかったっけ?※
※教えて、先生!【第1回】を参照
そのとおり。
だけど、「録音・録画権」には、「勝手に写真を撮られない権利」は含まれていないんだ。
そうなの?
じゃあ、勝手に売られているグッズなのに、僕は止めさせることができないんだ。なんかショックだな…
諦めるのはまだ早いよ!
「著作隣接権」とは別に、ネコ吉君のように人気があるアーティストやミュージシャンの写真等の利用には「パブリシティ権」という権利が認められているんだ。パブリシティ権は、容姿だけでなく、サインや声などの利用にも及ぶんだよ。
パブリシティ権??
なにそれ!もっと詳しく、教えて!!
<解説>
さすがはネコ吉君。実演家には著作隣接権が認められているという知識をしっかりと身につけています。ただ、ちょっとだけ惜しかったですね。少し説明しましょう。
写真撮影、録音や録画といった行為は、いずれも、著作権法でいう「複製」という行為にあたります。
しかし、著作権法91条は、「実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。」と定めています。著作権法が実演家に認めているのは、複製行為のうちの、録音行為と録画行為を禁止する権利だけなのです。
そのためネコ吉君には、ライブの様子を無断で録音や録画することを禁止する権利(これにはCDやライブDVD等の録音物や録画物のコピー作成を禁止する権利も含まれます)は認められているのですが、ライブの様子を写真撮影することを禁止する権利は認められていないのです。
では、ネコ吉君はライブ会場内での撮影を禁止することは一切できないのでしょうか。
そんなことはありませんので、安心してください。
たとえば、ライブ会場での鑑賞にあたっての規約(コンサートチケットの券面上に印刷されていることもあるでしょう)で、実演の撮影禁止を明記しておき、入場者には規約内容に合意してもらった上で入場してもらうような場合であれば、著作権法のルールとは別に、コンサート主催者と観覧者との間の合意(契約)に基づいて撮影を禁止することもできるでしょう。
また、ネコ吉君の顔写真が無断でグッズに転写されて販売されてしまったような場合は、パブリシティ権侵害を理由に販売停止や損害賠償を求めることができます。
パブリシティ権とは、最高裁判決によっても認められている、自分の氏名や肖像等が有する顧客吸引力(商品の販売等を促進する力)を排他的に利用する権利です。
どのような場合にパブリシティ権侵害になるかというと、
①肖像等それ自体が独立して鑑賞の対象となる商品等として使用される場合(たとえばポスター)
②商品等の差別化を図る目的で肖像等が商品等に付される場合(たとえば顔写真が掲載されているカレンダーやTシャツ)
③肖像等が商品等の広告として使用される場合(たとえば商品広告で使用する場合)
など、主として肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合です。
ですから、ネコ吉君がライブで演奏する様子を撮影した写真が無断で商品化され販売されているという場合には、パブリシティ権侵害を主張することができます。
ちなみに、パブリシティ権侵害となるのは、氏名や肖像等が無断で商用使用された場合ですが、ここでいう肖像等には、顔写真に限らず、サインや声、芸名その他の個人識別情報が無断使用された場合も含まれます。
本人にそっくりのイラストも含まれるでしょうし、場合によっては、本人に似ている動物等の図柄でさえも、それが本人を識別するものとして著名であるような場合は、「肖像等」に含まれるという見解もあります。
また、グループ名についても、そのメンバーの集合体の識別情報として特定の各メンバーを容易に想起し得るような場合はパブリシティ権が認められる、とする裁判例(2022年12月26日知財高裁判決)もあります。
このように、著名人やミュージシャンについては、著作権法上の権利とは別に、パブリシティ権を理由に無断使用行為の禁止等を求めることができる場合も少なくありません。
ところで、肖像写真が無断利用されグッズ化された場合などは、転写利用された写真についての著作権侵害となる場合もあります。
ミュージシャンは被写体であり当然にその写真についての著作権を有しているわけではありませんが、撮影したカメラマンや、あるいは、そのカメラマンから著作権の譲渡を受けたミュージシャンの所属音楽事務所が著作権を有していることが多いでしょう。
ですから、違法グッズの制作者に対しては、写真の著作権侵害を主張することもできるかもしれません。
ちなみに、パブリシティ権を含め知的財産権侵害物品がフリマサイトなどで販売されていることを発見したときは、違法出品者に直接連絡がとれない(あるいはとりたくない)場合でも、フリマサイトなどが設ける知的財産権保護のための窓口に連絡することで、出品禁止措置などの対応がなされる場合もあります。
模倣品や違法商品の対策を行うには、専門家への相談が有益ですが、まずはそのような窓口の活用も考えられます。
最後になりますが、人には、その肖像を正当な理由なく他人に撮影・公表されないという人格的な権利である「肖像権」が認められています。
そこで、プライベートな場面や誰しもが人に見られたくないと思う状況を隠し撮りした写真を撮影者が無断でSNSにアップしたような場合は、社会通念上受忍すべき限度を超える利用であるとして、肖像権侵害を主張できる場合もあるでしょう。
今回教えていただいた先生
小林利明 先生 弁護士(日本・ニューヨーク州)/東京藝術大学非常勤講師
2006年慶應義塾大学法科大学院修了。2007年弁護士登録。2013年New York University修了(LLM)。高樹町法律事務所パートナー。放送番組・映画、音楽、芸能事業等を行う企業複数社にて出向経験を有する。国際バスケットボール連盟認証エージェント。主著として、「エンタテインメント法実務」(編著、弘文堂、2021)、「職務著作の成否と様々な働き方」(『コピライト』744号(2023年)、「『デレブ』のパブリシティ権」(『ジュリスト』1529号(2019年)ほか。
教えて、先生! シリーズ
≫【第1回】アーティストやミュージシャンにも著作権ってあるの?
≫【第2回】プロじゃなくても「著作隣接権」ってあるの?
≫【第3回】ライブと録音物で違いがあるの?
≫【第4回】これまでのおさらい
≫【第5回】芸団協CPRAって何をするところ?
≫【第6回】サブスク配信の使用料も芸団協CPRAからもらえるの?
≫【第7回】自分の曲がお店のBGMに使われた場合、報酬は支払われるの?
≫【第8回】レコーディングに参加したら、名前は表示されるの?
≫【特別編その1】メタバースでイベントをするにはどうしたらいいの?
≫【特別編その2】メタバースで音楽を使うにはどうしたらいいの?
≫【特別編その3】AIカバーで自分の声が使われてるんだけどどうしたらいいの?