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著作権法の一部を改正する法律案について

芸団協CPRA 法制広報部

「著作権法の一部を改正する法律案」が、国会で審議されている(2023年5月1日現在)。改正法案には、いわゆる「簡素で一元的な権利処理方策」としての「著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設等」が盛り込まれている。本稿では、これまでの議論を振り返るとともに、改正法案の概要を紹介する。

はじめに

令和3(2021)年7月に、文部科学大臣から「デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策の在り方について」諮問を受け、文化審議会著作権分科会に設置された各小委員会での審議が進められた。
令和3(2021)年度基本政策小委員会では、「簡素で一元的な権利処理方策と対価還元」の方向性を審議し、翌年度法制度小委員会では、その法制的な審議を行った。令和5(2023)年2月、文化審議会は『デジタルトランスフォーメーション(DX)時代に対応した著作権制度・政策の在り方について(第一次答申)』を取りまとめ、今回の改正法案に至った。改正法案には次の三点が盛り込まれている。

①著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設等
②立法・行政における著作物等の公衆送信等を可能とする措置
③海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し

本稿では、とりわけ議論となった「簡素で一元的な権利処理方策」としての「著作物等の利用に関する新たな 裁定制度の創設等」について見ていくことにする。

簡素で一元的な権利処理方策の検討経緯

諮問では、「デジタル技術の進展に伴う社会・市場の変化を踏まえ、コンテンツの利用円滑化とクリエイター への適切な対価還元の両立を図るため、過去のコンテンツ、一般ユーザーが創作するコンテンツ、著作権者等不 明著作物等の膨大かつ多種多様なコンテンツについて、いわゆる拡大集中許諾制度等を基に、様々な利用場面を 想定した、簡素で一元的な権利処理が可能となるような方策」の審議を求めた。
審議にあたっては、「クリエイターや著作権者、ユーザー、事業者を含む幅広い関係者の意見を丁寧に聴取した上で、それらの意思を尊重し、権利保護と利用円滑化のバランスを確保しつつ、適切な対価還元が可能となる制度」を検討するよう求めた。

(1)基本政策小委員会における審議

多様な関係者へのヒアリングの上、審議が行われた。
芸団協CPRAからは、「簡素で一元的な権利処理」が、権利処理の簡略化のみを追い求めて、実質的にクリエイター の意思や権利が蔑ろにされることがあってはならないとしつつ、具体的内容を明らかにした上で、改めて関係者 からの意見を丁寧に聴取するよう慎重な検討を求めた。

令和3(2021)年12月には基本政策小委員会として『中間まとめ』を取りまとめ、著作物等の種類や分野を横断する一元的な窓口を創設し、分野横断権利情報データベース等を活用した著作権者等の探索を行うとしつつ、「(同) データベース等に情報がなく、集中管理されておらず、分野を横断する一元的な窓口による探索等においても著 作権者等が不明な場合、著作物等に権利処理に必要な意思表示がされておらず、著作権者等への連絡が取れない 場合、又は連絡を試みても返答がない場合などについて、新しい権利処理の仕組みを創設し、当該著作物等を円滑 かつ迅速に利用できるようにする」との方向性を示した。

(2)法制度小委員会における審議

『中間まとめ』を受けて、法制的課題等について審議が進められた。ヒアリングが再び実施され、芸団協CPRAか らは、制度化にあたっては著作物等の保護と利用のバランスを失わないことが重要であるとの認識のもと、権利 者の意思表示がされていない著作物等の判定基準や、著作者等の人格的な利益への配慮等について意見を述べた。
また、報告書(案)に対する意見募集も実施され、新たな制度の運用にあたっては、行政の関与等を通じて濫用 や誤用が生じないようにすべきとの意見を提出した。

令和5(2023)年1月に、法制度小委員会報告書がとりまとめられ、「著作物等の利用の可否や条件に関する著作権者等の『意思』が確認できない(「意思の表示」がされていない)著作物等について、一定の手続を経て、使用料相当額を支払うことにより、著作権者等からの申出があるまでの間の当該著作物等の時限的な利用を認める新しい制度(以下「新制度」という。)を創設する」とし、「新制度の手続においては、利用者にとっての窓口の一元化及び手続の迅速化・簡素化及び適正な手続を実現するため、文化庁長官による指定等の関与を受けた窓口組織が受付や要件の確認、利用料の算出等の手続を担うこととする。
併せて、その違法利用や濫用的な利用等の抑止の観点から、手続の簡便・迅速さには留意した上で、時限的な利用の最終的な決定やその取消しは文化庁長官の行政処分によることとする」との制度骨子が示された。

著作権法の一部を改正する法律案の概要 ※1

改正法案では、新たな裁定制度を創設するとともに、文化庁長官は、指定又は登録された機関に同制度の事務の一部を行わせることができることとした。

(1)未管理公表著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設

新たな裁定制度では、「未管理公表著作物等」について、文化庁長官の裁定により定められた利用方法及び期間(3年を上限)において利用が可能となる ※2
改正法案では、「未管理公表著作物等」を、公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、もしくは提示されている事実が明らかである著作物のうち、
①著作権等管理事業者による管理が行われているもの、
②文化庁長官が定める方法により、利用の可否に係る著作権者の意思を円滑に確認するために必要な情報であって文化庁長官が定めるものが公表されているもの

のいずれにも該当しないものとしている。

この未管理公表著作物等を利用したい者は、
①著作権者の意思を確認する措置として文化庁長官が定める措置をとったにもかかわらず、その意思が確認できず、
②著作者が出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかでない場合には、

通常の使用料に相当する補償金を供託し、文化庁長官の裁定を受けることによって、利用が可能となる。
文化庁長官は、裁定をしたときは、インターネット等を通じて、著作物の題号や著作者、利用方法等を公表しなければならない。

また、従来の権利者不明の著作物等の利用に関する裁定制度とは異なり、文化庁長官が裁定を取り消すことも可能にしている。
すなわち、裁定に係る未管理著作物等の著作権者が当該著作物の著作権を著作権等管理事業者に委託したり、連絡先を公表する等著作物の利用に関し協議の求めを受け付けるために必要な措置を講じたりした場合には、当該著作権者の請求により、裁定を取消すことができる。

(2)裁定制度等に係る機関の創設

改正法案では、裁定をより効率化かつ簡素化するため、次の機関を指定等することができるとする。

①指定補償金管理機関
文化庁長官は、全国を通じて一つに限り、「指定補償金管理機関」を指定することができ、補償金を受領し、管理し、著作権者等に補償金を支払う業務(補償金管理業務)を行わせることができる。
なお、同機関には、権利者不明の著作物等に係る補償金管理業務も行わせることができる。
また、同機関は、利用者から支払われた補償金の一部を、著作権等の保護に関する事業並びに著作物等の利用の円滑化及び創作の振興に関する事業のために支出しなければならない。

②登録確認機関
文化庁長官は、裁定申請を受け付け、未管理公表著作物等の要件を確認し、通常の使用料の額に相当する額を算出する事務(確認等事務)を、「登録確認機関」に行わせることができる。文化庁長官は、同機関による算出結果を考量した補償金額の決定を行わなければならない。
この場合には、文化庁長官が補償金額を定める場合と異なり、文化審議会への諮問は不要となる。

今後について

今国会で改正法が成立した場合、新たな裁定制度は、改正法公布から3年を超えない範囲内で政令で定める日から施行されることになる。
また、改正法案では、未管理公表著作物等の要件や著作権者の意思を確認する措置の詳細について、文化庁長官の定めに委ねている。





【注】
※1 澤田将史「簡素で一元的な権利処理に関する令和5年著作権法改正法案における『時限利用裁定制度』の創設について」ジュリ1584号45頁以下(2023)も参照。(▲戻る)
※2 改正法案102条により、新たな裁定制度は、実演、レコード、放送及び有線放送の利用の可否に係る著作隣接権者の意思が確認できない場合における利用についても準用されている。(▲戻る)