教えて、先生!【第7回】自分の曲がお店のBGMに使われた場合、報酬は支払われるの?
「教えて、先生!」チーム
自分の歌声や演奏を勝手に使われたとき、どうしたらいいんだろう?
芸団協CPRAってなに?
念願のデビューを果たしたばかりの新人アーティスト、ネコ吉君の素朴な質問に先生が答えます。
第7回は「自分の曲がお店のBGMに使われた場合、報酬は支払われるの?」。
偶然入ったお店で、自分の熱烈なファンに出会って嬉しくなったネコ吉君。先生に報告したところ、ちょっとショックな現実を突きつけられたようで…
第7回自分の曲がお店のBGMに使われた場合、報酬は支払われるの?
この間ふらっと入った美容院で、僕のデビュー曲が流れてたんだよね。
店長が僕のファンらしくて、頻繁にかけてくれているみたい。嬉しかったな~。
それは、テンションが上がるだろうね!
店長さんも、ネコ吉君がお店に来てくれて、嬉しかったんじゃない?
突然ですが、ここで問題です。
ネコ吉君のデビュー・シングルがお店のBGMに使われた場合、ネコ吉君は報酬をもらえる?もらえない?
も、問題が出るなんて聞いてないよ…
えーと、えーっと……もらえる!
残念。正解は「もらえません」。
でも、ミュージシャン仲間のトムは、母国イギリスでもらっているって言っていたよ?
確かに、世界の多くの国では、実演家にはBGM利用について報酬をもらえる権利があって、日本みたいに実演家が報酬をもらえない国は少数派って聞くよね。
えっ、そうなの!?もっと詳しく、教えて!
<解説>
美容院だけでなく、レストランや居酒屋、スポーツ・ジム、スタジアムなど、さまざまな店舗でバック・グラウンド・ミュージック(BGM)が流されています。生演奏の場合もありますが、既存の録音音源の利用がほとんどです。店舗向けBGM専用有線放送サービスを利用したり、音楽CDを再生したり、最近では店舗ごとにサブスクリプションサービスを利用して好みの音楽を流すことも増えています。
けれども、残念なことに、このような店舗等で音楽を聴かせること(レコード演奏)について、日本では実演家やレコード製作者に権利はありません。それどころか、作詞家・作曲家などの著作者に演奏権が完全に認められたのも、ごく最近のことなのです。
話ははるか昔、昭和初期に遡ります。
当時、ドイツ人のウィルヘルム・プラーゲは、欧米の音楽著作権集中管理団体の代理人として、放送局等に対し、厳しい権利主張と使用料の取り立てを行いました。それにより、NHKがほぼ1年間、それらの音楽著作権団体が管理する楽曲の放送を中止するなど、大きな社会的反響が起きました。
こうした状況に対処するため、旧著作権法は改正され、レコード演奏等について、出所を明示すれば著作権侵害とみなされないという規定が導入されました。この考え方は、1970年に成立した現行の著作権法にも引き継がれ、1999年にようやく廃止されました。
世界に目を向けてみると、どうでしょうか。
音楽や映像など、著作物や実演は国境を越えて利用されることが多いですから、条約という共通ルールに基づき、お互いの国の著作物や実演を自国内で守っています。
著作隣接権に関する条約では、市販されるCDなどの録音物(商業用レコード)を放送または「公衆への伝達」のために利用することについて、実演家およびレコード製作者に報酬請求権(利用中止を求めることはできないが、利用の対価を請求できる権利)を与えています(実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(ローマ条約)12条、実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)15条)。
「公衆への伝達」とは、レコード実演などを放送以外の媒体により公衆に送信することをいい(WPPT第2条(g))、レコード演奏も含まれるとされています。
このような条約では、商業用レコードを放送又は公衆への伝達のために利用することについて、実演家及びレコード製作者に報酬請求権を与えなくても良いとされていますが、150ヶ国以上でレコード演奏権が保護されていると言われています 。
それでは、海外では、レコード演奏について、実演家にどのくらいの報酬が支払われているのでしょうか。
少し古いデータになりますが、ヨーロッパ25カ国の実演家権利管理団体が公衆への伝達に係る報酬として2017年に徴収した総額は、約1億7,400万ユーロと徴収額全体の実に30%を占める計算となります。
ただし、先ほど説明した通り、「公衆への伝達」というのはとても広い概念ですので、ウェブキャスティング(インターネット上で独自コンテンツを一斉同時にストリーム配信するサービス)等も「公衆への伝達」に含む国が多く、この徴収額には、そのような利用の報酬も含まれています。
とはいえ、レコード演奏の報酬が、ヨーロッパの実演家にとって、大切な収入源であることには変わりありません。
日本では実演家にレコード演奏権はないですから、日本国内の店舗でヨーロッパの音楽CD等がBGMに使われても、ヨーロッパの実演家には1円も報酬が支払われません。
そのため、EUから日本に対し、何度もレコード演奏権の導入が求められているのです。
もちろん、芸団協CPRAは、日本レコード協会とともに、政府に対し、レコード演奏権を導入するよう長らく働きかけを続けています。
今回はここまでとしましょう。それにしてもネコ吉君の交友関係は広いですね。世界デビューも近いかも!?
教えて、先生! シリーズ
≫【第1回】アーティストやミュージシャンにも著作権ってあるの?
≫【第2回】プロじゃなくても「著作隣接権」ってあるの?
≫【第3回】ライブと録音物で違いがあるの?
≫【第4回】これまでのおさらい
≫【第5回】芸団協CPRAって何をするところ?
≫【第6回】サブスク配信の使用料も芸団協CPRAからもらえるの?
≫【第8回】レコーディングに参加したら、名前は表示されるの?
≫【第9回】無断で名前や写真を使われたときはどうしたらいいの?
≫【特別編その1】メタバースでイベントをするにはどうしたらいいの?
≫【特別編その2】メタバースで音楽を使うにはどうしたらいいの?
≫【特別編その3】AIカバーで自分の声が使われてるんだけどどうしたらいいの?