AEPO-ARTIS(欧州実演家団体協議会)が調査報告書を公表
法制広報部 榧野睦子
2022年11月、ヨーロッパ27ヶ国37実演家権利管理団体が加入するAEPO-ARTIS(欧州実演家団体協議会)が、"Performers' Rights Study (Update 2022)"を公表した。本報告書は、ヨーロッパにおける実演家の権利に関わる法制度や実情をまとめたもので、2007年、2013年、2018年に続く第四弾となる。
本報告書が出された背景
2018年版報告書公表時から音楽産業は大きく変化している。
まず録音物市場については、全体の売上に占めるストリーミング配信の割合がさらに高まっている。
IFPI(国際レコード産業連盟)"Global Music Report 2022"によれば、ストリーミング売上は、2017年にパッケージ売上を抜き、2021年には全体売上の65%超を占めるまでに成長している(図1)。
図1:世界の音楽売上金額の推移(1999年-2021年)
一方、公演市場は新型コロナウイルス感染症拡大により深刻な影響を受けた。Live DMA "Impact of the Covid-19 Pandemic on Music Venues and Clubs in Europe"によれば、2021年、ヨーロッパ3,253カ所のコンサート、ライブ会場において、音楽イベント数は約70%、総収益は約68%減少した(対2019年比)。
近年実演家の収入において公演が占める比重は大きくなっており、1990年代には収入の三分の一であったものが、現在では75%程度を占めるまでになっているという※1 。コロナ禍で貴重な収入源である公演が困難になった実演家の中で、ストリーミング配信収益の配分への関心が高まっている。
そうした中で出された本報告書では、ストリーミング配信を中心として、以下の指摘がなされている。
本報告書の概要
オンデマンド・ストリーミング配信サービスでの利用について、実演家に報酬請求権を
オンデマンド・ストリーミング配信サービスの隆盛にもかかわらず、実演家はその恩恵に十分浴していないと、本報告書は指摘している。
オンデマンド・ストリーミング配信サービスでの利用に対し、実演家には利用可能化権という許諾権が付与されている。
ただし、実演家の多くは、レコード制作の際に一括で許諾権を買い取られるため、その後参加した楽曲がいくら売れてもその分け前に与ることはできない。印税契約をしているフィーチャード・アーティスト(楽曲において中心的に氏名表示された実演家)であっても、実際に受け取る額は想定よりも低いものになるという。
CMU "Performer Payments From Streaming"によれば、過去5年間に締結されたレコーディング契約での印税率は15-25%だが、プロデューサー等への支払や様々な控除がされる結果、実際には約8.4%の受け取りとなる。60年代、70年代に交わされた契約での印税率は平均約12.5%と低いため、実際に受け取るのは5%以下だという。
本報告書では、時代遅れの法的枠組により実演家と製作者との間の不均衡が続いてしまっているとして、オンデマンド・ストリーミング配信サービスでの実演の利用に対する報酬請求権を実演家に付与することで、実演家が契約の内容に関わらず、公正な額の報酬を受け取ることができると主張する。
ここでは、実演家が製作者に許諾権を譲渡する際、実演家には放棄できない報酬請求権が残り、集中管理団体がそれを管理するメカニズムが想定されている。
図2:オンデマンド・ストリーミングに対する報酬請求権制度の導入状況(本報告書P38~39に基づき作成)
ラジオ局やレンタルショップのような機能を果たすストリーミング配信サービスは、ラジオ局やレンタルショップのように実演家に報酬を支払うべき
本報告書は、ストリーミング配信サービスによって音楽や映画を消費しやすくなったものの、新しい利用方法が生まれたわけではないと指摘する。
音楽配信サービスでは、ユーザーが選んだ曲ではなく、作成されたプレイリストや楽曲コレクションを受動的に聴くラジオ放送のような機能もついている。動画配信サービスでは、映画や放送番組を一定期間だけ視聴できるオンライン・レンタルサービスを提供している。
ラジオ放送やDVDのレンタルであれば、実演家には報酬請求権がある。
一方、ストリーミング配信サービスが提供するラジオ機能やオンライン・レンタルは、「利用可能化」と解釈される。前述の通り、利用可能化権は製作者に譲渡する場合が多いために、実演家には利用に応じた対価が支払われない。
本報告書は、ストリーミング配信サービスが提供するラジオ機能やオンライン・レンタルについて実演家が報酬を受けることができるよう、場合によっては政府が積極的な介入をし、商慣行を変更する必要があるとしている。
さらに、こうしたことを可能にするために、将来的にも有効な立法が必要だとしている。
その他
本報告書はその他にも、私的複製補償金制度の対象を拡大すること(クラウド・データ・ストレージ、スマートフォンなど)や、映像分野の実演家の保護期間や報酬請求権について音楽分野の実演家レベルまで引き上げること、実演の利用に関し製作者から実演家に透明性の高い情報が提供されるよう監視することを求めている。
今後の見通し
AEPO-ARTISは特にオンデマンド・ストリーミング配信サービスに対する報酬請求権に関し、EU及び各国政府に対し積極的な働きかけを行っている。
こうした問題意識は共有されているようで、欧州議会が出した複数の勧告において、EU加盟国に対し同報酬請求権を導入すること、欧州委員会に対しEU加盟国での導入を支援及び監視することが求められている※2 。
同報酬請求権をすでに導入しているベルギーの担当大臣は、ベルギーがEU理事会議長国の間に(2024年1月~6月)この制度をEUで一般化する努力をしたいとしており※3 、さらなる進展が期待される。
【注】
※1 Oisin Lunny (2019, May 15), Record Breaking Revenues in the Music Business, but Are Musicians Getting a Raw Deal?, Forbes (▲戻る)
※2 European Parliament Resolution of 20 October 2021 on the Situation of Artists and the Cultural Recovery in the EU (2020/2261(INI)), European Parliament Resolution of 14 December 2022 on the Implementation of the New European Agenda for Culture and the EU Strategy for International Cultural Relations (2022/2047(INI)) (▲戻る)
※3 AEPO-ARTIS (2022, June 16) AEPO-ARTIS Thanks Belgium for Modernising Its Copyright Act the Right Way!. (▲戻る)
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