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実演家にレコード演奏権・伝達権を

芸団協CPRA法制広報委員会 委員長/ 一般社団法人日本音楽事業者協会 専務理事 中井 秀範

巻頭から、やや聞き慣れない「レコード演奏権・伝達権」というタイトルで失礼します。「レコード」を「演奏」ってどういうこと?「伝達」って?という疑問を持たれる方も沢山いらっしゃることでしょう。海外で生まれた権利を日本語に翻訳するとよくこのようなことがおこるのですが、平たく言えば、「市販された音源を店舗等で聴かせる目的で利用する場合に適用される権利」です。音楽を聴かせることを主目的とする場所だけでなく、飲食店、美容院、ホテル等々のお客様が集まるところで、音楽CDやダウンロード音源、有線放送、インターネット音楽配信サービスを使って聴かせる行為が、レコードの演奏・伝達にあたります。

ところがこの権利、日本では、作詞家、作曲家には与えられているのに、アーティスト(実演家)とレコード製作者には無いのです。では、日本以外の国々ではどうなのかといいますと、レコードに対して付与されている権利の形態がちがう米国を除くと、ヨーロッパのみならずアジア諸国でも、ちゃんと、この実演家、レコード製作者の「レコード演奏権・伝達権」は認められています。特に韓国では、2016年の著作権法改正を受けて演奏権の対象範囲が拡大されました。政府主導による権利拡大が実現したわけです。PSYやBTSなどのK-POPの世界展開のみならず、国内の権利保護の観点からも韓国の後塵を拝している状況です。昨年7月に署名された「日EU経済連携協定」でも、本件に関する協議の継続条項が第14章(知的財産)第12条「レコードの利用」に規定されています。

このように、店舗等では実演家、レコード製作者にレコード演奏権・伝達権が認められていない我が国ですが、インターネット放送では、とても強い許諾権が認められています。つまり、ウェブキャスティングする際に、市販されている音源を使いたければ、曲ごとにいちいち権利者に、事前に許諾を得なければなりません。勿論、使用料を支払う能力があるかどうか疑わしい利用者である場合もありますし、使用形態が権利者の意にそぐわない場合もあるかもしれません。しかし、それはまた著作権制度とは別の法的救済の手段も駆使して解決にあたればいいと思います。

諸外国(米国を含む)では、使用楽曲の多さや権利処理の効率化を配慮し、報酬請求権(法定許諾、強制許諾含む)として集中管理団体によって一元管理されているのが一般的です。国際条約では「公衆への伝達」というくくりで報酬請求権が与えられているレコード演奏・伝達とインターネット放送に関わる我が国の著作権制度は、一方では世界的潮流に逆らって権利を認めず、その一方で諸外国には比して大変強い許諾権を認めているという、非常にバランスの悪いものと言わざるを得ません。知財立国の旗を掲げる以上、我が国も、ガラパゴス化を脱し、一刻も早く、諸外国並みの制度の改正が必要であると考えます。