集中化は新たなフェーズに
芸団協CPRA権利者団体会議 委員/一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPN 理事長 椎名和夫
音楽や映像などの作品が利用される「場面」が爆発的に拡張し続ける中で、そうした「拡張」に相応しい対価が果たして権利者に戻っているのか?ということを常々考えてしまう。
音楽を例にとれば、作品に紐づく権利については、権利者の属性に応じて「著作者」はJASRAC、「レコード製作者」は日本レコード協会、「実演家」はCPRAがそれぞれ集中的に権利処理を行う形がおおむね定着しているが、それぞれが「利用の場面」ごとに構築している徴収分配のためのモデルは、「場面」が変わってステークホルダーが変わる都度役立たなくなり、そこであらためて「交渉」「合意」「モデル構築」という具合に、「場面」に応じて一定の人的、物的コストが発生する。もともと、権利処理の集中化が進んできた背景には、個々の権利者では負うことができないコスト部分を共通化するとの観点があったと思われるが、今後は更なる集中化や効率化が求められていくことが必至であるように思う。その意味で、もはや4年前の出来事になってしまうが、クラウドサービスの権利処理方法を検討していた文化庁・著作権分科会の場において、日本レコード協会の呼びかけにより、JASRAC、日本レコード協会、CPRAの三者による「音楽集中管理センター(仮称)」が提案されたことは、極めて画期的な出来事ではなかったかと思う。
例えば、音楽の権利処理を行う上で必要となる「データ」ということを考えてみた場合に、まずは、どの作品が、どこで、どれだけ利用されたかについて、その実態の捕捉が必要となる。これをプレイリストと呼んでいるが、さらに、個々の作品に関する情報、すなわち作品において、誰が、どのような権利を持っているのかを網羅したデータが必要となる。これをトラックリストと呼び、これらふたつのリストが揃ってはじめて音楽の権利処理業務は可能となる。こうしたデータは、音楽の権利処理において権利者の属性に限らず共通する必須要素であり、属性に応じた項目を整理するなどした上で、収集、管理のプロセスを完全に共有すれば、一定のコスト削減が見込まれる部分である。
もちろん、わが国における著作者、レコード製作者、実演家の権利処理のそれぞれは、背景や歴史的経緯、集中化の進捗状況等も全く異なり、すぐさまこれらをひとつに束ねていくことはなかなか困難であ
るといわざるを得ないが、海外に目を転じればすでにさまざまな動きが始まっている。
海外においては、レコード製作者と実演家の団体が「ジョイントソサエティ」として一元化され、協働して権利処理を行う形がごく一般的であるが、加えて、ロンドンに本拠を置くKobalt社に代表される「エージェント」と称される営利企業が、権利者へのより手厚いサービスなどを武器に、EU域内各国の伝統的な徴収分配団体を尻目に、国籍や属性等を越えた権利者との委任契約を取り付けて存在感を増しつつある実態もある。一概には言えないが、こうした傾向が既存の徴収分配団体への不満の受け皿となっているとの見方もあるようである。
外部要因もあって「音楽集中管理センター(仮称)」はいまだに実現していないが、この先数年間、われわれがいったいどこに手をつけなければならないか、見えてきたような気がする。