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リンクをめぐるEU司法裁判所の動向について

著作隣接権総合研究所 君塚陽介

文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会では、リーチサイトへの対応について検討が進められている。一方、EUでは、リンクをめぐって、いくつかのEU司法裁判所の判断が示されている。

はじめに

EUは、WIPO著作権条約及びWIPO実演・レコード条約に加盟し、情報社会における著作権を調和させるため、2001年に情報社会指令を採択した。EU加盟国は、この指令に沿うように国内法改正などの措置を講じなければならない。

情報社会指令3条1項では、著作者に対して「有線又は無線の方法による公衆への伝達(公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に著作物を置くことを含む。)を許諾し、又は禁止する排他的権利を与える」としている。インターネットにおけるリンクが、こうした情報社会指令の「公衆への伝達」にあたり、著作権侵害となり得るかについて、EU司法裁判所が判断したのだ。

EU司法裁判所の判断

ウェブサイトに掲載された著作物に直接リンクするハイパーリンクに関するSvensson事件や(※1)、自己のサイトの一部のように表示するフレームリンクに関するBestWater事件では(※2)、リンクは「公衆への伝達」にあたらないと判断した。しかしながら、これらは権利者の許諾を得てウェブサイトに掲載された著作物へのリンクに関する事案だった。

そのような中、GS Media事件は(※3)、権利者の許諾なく掲載された著作物へのリンクが情報社会指令の「公衆への伝達」にあたると判断した。また、Filmspeler事件では(※4)、テレビ画面につないで、許諾なくウェブサイトに掲載された著作物を視聴できるソフトウェアを内蔵したマルチメディア・プレイヤーの販売が「公衆への伝達」にあたると判断した。更に、Pirate Bay事件では(※5)、権利者の許諾なく、ファイル共有ソフトのユーザーにより共有されているファイルをインデックス化して検索エンジンを備えるプラットフォームの管理提供も「公衆への伝達」にあたると判断したのだ。

EU司法裁判所は、これらの事件において、「公衆への伝達」は情報社会指令の目的や前後の文脈から解釈しなければならないとする。そして、情報社会指令は高い水準により著作者を保護し、著作物の利用から適切な対価を得ることを可能にすることを目的としており、「公衆への伝達」は広く解釈されなければならないとする。そのうえで「公衆への伝達」には、「伝達行為」と「公衆」という重畳的な要件が含まれ、いくつかの補完的な要素も加味して判断すべきであるとしている。

まず、利用者が問題となる行為に対して必要不可欠な役割を果たし、その行為の結果について十分な認識を有しており、その行為がなければ、他の者が著作物にアクセスできないような場合には「伝達行為」があるとする。そして、「公衆」とは、不特定数の潜在的視聴者をいい、相当多数の者を意味するという。また、「公衆への伝達」にあたるためには、最初の伝達とは異なる特定の技術的方法を用いて伝達するか、そうでなければ、権利者が最初の伝達において考慮していなかった公衆、つまり「新たな公衆(new public)」に伝達されなければならないとする。例えば、ウェブサイトが閲覧制限されているにもかかわらず、閲覧制限を回避するようなリンクが設定されている場合には、権利者が考慮していなかった公衆、つまり新たな公衆に対して伝達されることになる。しかも、営利目的であるか否かも、考慮要素になるとしている。

GS Media事件では、権利者からリンクを削除するように求められ、その行為の結果について十分な認識があること、営利目的でリンクを設定していたことなどから、また、Filmspeler事件では、権利者の許諾なくインターネットに公開された著作物も無料で視聴できることを宣伝していたこと、問題となったマルチメディア・プレイヤーが多数購入されていたことなどから、更に、Pirate Bay事件では、ファイル共有のためのプラットフォームを管理提供し、その行為の結果について十分な認識があり、プラットフォームを相当多数の者が使用して、広告収入を上げていたことなどから、それぞれの事件において「公衆への伝達」にあたると判断したのだ。

結びに代えて

著作権分科会法制・基本問題小委員会では、差止請求権や刑事罰の対象として、特に対応する必要が高い行為類型の範囲について、憲法上の表現の自由との関係にも留意しつつ、法制面での対応の検討が進められている。

EU司法裁判所は、必要不可欠な役割、行為の結果に対する十分な認識、営利目的などを検討し、権利者の許諾なくウェブサイトに掲載された著作物へのリンクのみならず、許諾なく掲載された著作物が視聴可能になる機器の販売やファイル共有のためのプラットフォームの管理提供も、情報社会指令の「公衆への伝達」にあたり、著作権侵害となり得ると判断している。このような判断は、今後、わが国における検討に対して何らかの示唆を与えるのではないだろうか。

【注】
※1:Nils Svensson and others v. Retriever Sverige AB(C-466/12)2014.2.13 (▲戻る)
※2:BestWater International GmbH v. Michael Mebes and Stefan Potsch(C-348/13)2014.10.21 (▲戻る)
※3:GS Media BV v. Sanoma Media Netherlands BV and others(C-160/15)2016.9.8 (▲戻る)
※4:Stichting Brein v. Jack Frederik Wullems(C-527/15)2017.4.26 (▲戻る)
※5:Stichting Brein v. Ziggo BV and XS4ALL Internet BV(C-610/15) 2017.6.14 (▲戻る)