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情報通信審議会 中間答申を公表

企画部広報課 小泉美樹

7月20日、情報通信審議会は「視聴環境の変化に対応した放送コンテンツの製作・流通の促進方策の在り方」について、総務省に中間答申を行った(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu04_02000070.html ※総務省ウェブサイト)。
ブロードバンドを活用した放送サービスの高度化の方向性、放送コンテンツの流通を支える配信基盤及びネットワークの在り方並びに放送コンテンツの適正かつ円滑な製作・流通の確保方策について、中間的にとりまとめられている。
本稿では、中間答申の内容に沿って、検討委員会の議論を紹介する。

検討の経緯

本件については、2016年10月に総務省が情報通信審議会に諮問し、これを受けて同審議会の情報通信政策部会に設置された「放送コンテンツの製作・流通の促進等に関する検討委員会(以下、検討委員会)」及び「放送コンテンツの製作・流通の促進検討ワーキンググループ(以下、WG)」(第2回~第7回まで検討委員会と同時開催)において検討が行われてきた。

今回の中間答申は、検討委員会において、意見募集を経てまとめられた。放送コンテンツの視聴環境やネット配信に係る国内外の取組を整理した上で、特に取組が始まったばかりである同時配信の実施に関して、具体的な課題を整理するとともに、今後取り組むべき事項を示している。

現状の整理

1.放送コンテンツの視聴環境の変化と放送事業者の取組

中間答申の第1章では、放送コンテンツの視聴環境の変化について、視聴デバイスの変容、テレビ視聴動向の変化、動画配信サービスの拡大・多様化という3つの観点から整理している。

無線ネットワークのブロードバンド化の急速な進展、スマートフォンやタブレット等の普及により、多くの人が、テレビ放送番組を含めた動画コンテンツを、テレビ受像機だけでなく、モバイル端末で視聴することが可能になっている。

また、テレビのネット接続率は2015年時点で27.7%に達している。4Kやハイブリッドキャスト対応テレビの出荷台数も増加しており、インターネットに接続する4Kテレビを通じてコンテンツを視聴する機会の普及・拡大が示唆される。

4Kについては、既に2015年より実用放送が開始されているが、8Kについても、2016年から試験放送が、2018年には実用放送が順次開始される予定となっている。

しかし、技術の進展の一方で、10代、20代を中心に行為者率(1日15分以上テレビを見る人の割合)や視聴時間が減少傾向にあり(※1)、テレビ保有率も減少している(※2)。2014年には、行為者率、利用時間ともにネット利用がテレビのリアルタイム視聴を上回った。

若年層のテレビ離れが徐々に進む中、視聴時間の拡大をもたらすものとして期待されているのがネット配信だ。日本の有料動画配信市場は、2011年から2015年の5年間で、2倍以上の伸びを示している。電通総研の試算では、同時配信や広告付き見逃し配信を実施した場合、視聴時間が拡大するとの結果が示されている(※3)。放送事業者各社が見逃し配信を行っているほか、2015年に在京民放キー局5社が共同で「TVer」をスタート。今年5月1日時点でダウンロード数は700万を超える。大阪の毎日放送、朝日放送、読売テレビも加わり、今年9月時点での参加社は8社となっている。

4K等の超高精細なコンテンツの配信も拡大し始めており、インターネットに接続している4Kテレビ向けのサービスも今後増えていくことが想定されるとしている。

2.国内外における同時配信の状況

同時配信についても、限定的ではあるが、取組が始まっている。NHKが2015年及び2016年に、スポーツイベントやNHK総合・教育チャンネルの番組を試験的に配信したほか、地上波放送ではテレビ東京、東京メトロポリタンテレビジョン、日本テレビが、その他スカパーJSAT(衛星放送)やNTTぷらら(IPTV)、ジュピターテレコム(ケーブルテレビ)も、報道番組等一部の番組を同時配信している。

検討委員会においては、三菱総合研究所より、同時配信サービスが多くの放送事業者等によって提供されている米国、英国、ドイツ、フランスの事例が紹介された。

欧米では、複数のチャンネルの同時配信サービスを無料で視聴できるアプリケーションが提供され、多くの人に利用されている。また、三菱総合研究所によれば、米国のサービスの多くは商業放送によって顧客の囲い込みや契約の維持のために、2、3年前から提供が始まったもので、試行錯誤している段階と見られるという。

一方、10年前からBBCが同時配信を提供している英国をはじめ、ヨーロッパでは、公共放送が先行している(※4)。なお、同時配信については、2015年11月から「放送を巡る諸問題に関する検討会」において検討が行われており、中間答申においてもその議論の概要が紹介されている。インターネット経由での同時配信について、民間放送事業者は特段の規制を課されていないが、NHKは、放送法上、国内テレビジョン放送の常時の同時配信を認められていない。NHKが2019年に24時間の常時同時配信を本格的に開始することを目指し、制度整備についての検討を求める一方、民間放送連盟や新聞協会からは、慎重な検討を求める意見が上がっており、今後も引き続き、公共放送の在り方に係る議論を進めていくこととなっている。

放送サービスの高度化の方向性と課題

以上のような現状の整理を踏まえ、検討委員会の下に置かれた「スマートテレビ等を活用した4K配信技術タスクフォース」、「モバイル同時配信技術タスクフォース」、「放送コンテンツ製作取引タスクフォース」の三つのタスクフォースにおいて、各課題についての検討が行われた。中間答申では、特に取組が始まったばかりである同時配信の実施に関して、地方の放送事業者を含めた多くの放送事業者が参画可能な環境整備、大容量のトラフィックが発生した場合の通信ネットワークに対する負荷への対応、放送コンテンツの二次利用の進展に対応した製作・流通の確保の三つを検討すべき課題ととらえ、
 (1)放送コンテンツの流通を支える配信基盤及びネットワークの在り方
 (2)放送コンテンツの適正かつ円滑な製作・流通の確保
について、モバイル端末・PC 向け及びテレビ向けの両方のサービスを念頭に置いて、具体的な課題を整理するとともに、今後取り組むべき事項を示している。

(1)放送コンテンツの流通を支える配信基盤及びネットワークの在り方

中間答申の第2章では、モバイル・PC向け同時配信及びテレビ向け4Kコンテンツ同時配信について、サービス内容に応じて必要となる機能、システム構成のパターンを整理し、配信に係るシステムのコストの試算及びそれを踏まえた課題がまとめられている。

今回のコスト試算では、配信システム等を複数放送事業者が共同利用することによって一定のコスト低減効果が認められたものの、現在提供されている動画配信サービスでは一般に提供されていない、あるいは複数の放送事業者が同時配信を行った場合のデータがない等の理由により、一定の仮定に留まっている項目も見受けられる。

そのため、今後は複数の放送事業者が連携した実証事業を行い、検討を進めていくことが必要であるとした。

(2)放送コンテンツの適正かつ円滑な製作・流通の確保

第3章では、放送コンテンツの適正な製作取引の推進、迅速かつ円滑な権利処理の確保について、それぞれ現状を整理した上で今後取り組むべき事項が挙げられている。

①製作取引

放送コンテンツ分野における適正取引の推進にあたっては、総務省において「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン」が平成21年2月に策定されているが、その浸透・定着は未だ十分ではなく、総務省による平成28年度フォローアップ調査では、下請法において義務とされる「発注書の書面交付」をはじめ、「著作権の帰属」や「取引価格の決定」に関する事前協議の有無といった事項について、放送事業者と番組製作会社の間で大きな認識の相違があるという結果が見られた。議論の結果、「放送コンテンツ適正取引推進協議会」の設置が決定され、今年6月に設立された。学識経験者、事務局を務める日本民間放送連盟及び全日本テレビ番組製作者連盟のほか、放送事業者及び番組製作会社双方の主要団体が参加している。

②権利処理

中間答申では、放送コンテンツの同時配信にあたって処理すべき様々な権利のうち、著作権法上の著作権及び著作隣接権に関して、審議における主な意見及び今後取り組むべき事項について述べられている。

放送における著作権等の権利処理については、放送事業者と権利者団体との間で包括利用許諾契約や窓口の一元化等、実務上の運用手続が構築されている。放送コンテンツをネット配信する場合は、放送後か同時かに関わらず、放送時とは別に権利処理が必要になるが、放送後の配信については、放送同様、一定の実務上の運用手続が構築されている。news86_fig04.png

これまでの審議では、既に同時配信を試験的に実施している放送事業者にヒアリングが行われ、意見交換が行われてきたが、中間答申では、具体的にどのような課題があるのかについて十分に明らかになっていないとしており、今後は、これまで積み上げられてきた放送や放送後のネット配信における権利処理の実務上の運用手続を参考にしつつ、具体的な権利処理方法の形成について検討することが必要であるとし、特に著作権法上の権利については、権利の種別ごとに具体的な課題を抽出し、それに基づいた検討が必要であるとしている。最終答申の期限となっている2018年6月に向け、具体的な議論が行われていく見込みである。

【注】
※1: NHK 文化研究所「国民生活時間調査2015」。(▲戻る)
※2: 内閣府「消費動向調査」(▲戻る)
※3: 電通総研「生活者の動画視聴をめぐる論点」(第三回会合資料)(▲戻る)
※4: 情報通信審議会情報通信政策部会放送コンテンツの製作・流通の促進等に関する検討委員会(第3回)ワーキンググループ合同議事概要(▲戻る)