柔軟性のある権利制限規定について
芸団協CPRA顧問弁護士 藤原 浩
平成20年以降、繰り返し議論されてきた権利制限規定の問題であるが、「権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)」から「柔軟性のある権利制限規定」と姿を変え、平成27年10月より、その導入の是非について、文化審議会著作権分科会の法制・基本問題小委員会で検討されてきた。そして、本年2月、同委員会より、柔軟性のある権利制限規定の在り方について、中間まとめが公表された。
これまで我が国の著作権法の権利制限規定は、個別具体的に規定されており、その特徴は「明確性」にあった。多くの権利制限規定では、どのような場合に権利侵害に該当しないのかを個別具体的に定めてきたことから、利用者としては事前に利用行為が適法であるかどうかを明確に判断することができた。ところが、「柔軟性」のある権利制限規定では、その適用される要件が抽象的、規範的になることから、利用者としては自分の行為が適法となるかどうかを明確に判断することは困難となる。つまり、「柔軟性」のある規定では、「明確性」が否定され、その適用範囲があいまいになるということでもある。
中間まとめでは、上場企業などの利用者からのアンケート調査の結果が報告されている。ここで興味深いのは、利用者の大半が権利制限規定について「明確性」の点を重視しており、「柔軟性」のある規定を評価したのは2割弱に過ぎないという点である。新たな時代のニーズに対応するためとして、柔軟性のある権利制限規定の導入が検討されてきたのであるが、産業界としても、適用範囲があいまいな「柔軟性」より、適法性の判断が容易となる「明確性」のある規定の方が望ましいと考えているようである。
問題の権利制限規定の在り方であるが、中間まとめでは、明確性と柔軟性の適切なバランスを備えた複数の組合せによる「多層的」な対応を行うことが適当であるとし、権利者に及び得る不利益の度合い等に応じた3つの「層」に分類して、それぞれ適切な権利制限規定を整備すべきと指摘している。
著作物の本来的利用には該当せず、権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型を第1層、本来的利用には該当せず、権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型を第2層、公益的政策実現のために著作物の利用の促進が期待される行為類型を第3層としている(詳しくは別稿参照)。
このうち、著作物の本来的利用に該当しない第1層、第2層の行為類型については、権利者の不利益はあまり想定されないので、「柔軟性」のある権利制限規定の導入は許されるというのが今回の一応の結論のようである。
ただ、本来的利用でなければ、権利者の利益とは無関係であると簡単に言い切れるのかは相当に疑問である。また、利用者も「柔軟性」のある規定の導入をあまり望んでいないことも事実である。果たして本当に柔軟性のある権利制限規定の導入が必要とされているのであろうか。多くの疑問が払拭されないままであるが、今後は「柔軟性」のある権利制限規定の導入に向けて動き出すようである。将来に大きな禍根を残さぬよう、実演家としても事態を注視していく必要があろう。