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ラジオ業界の挑戦
~「シェアラジオ」は浸透するか~

企画部広報課 小泉美樹

 昨年10月、radikoが新機能「タイムフリー聴取」と新たな聴取文化「シェアラジオ」の実証実験を開始した。楽天のインターネットラジオ「Rakuten.FM」、第三の放送「i-dio」、難聴・災害対策として始まったワイドFMの拡大など、近年、改革の動きが活発になっているラジオ業界のリスナー拡大に向けた挑戦を取り上げる。

ラジオ業界の動き

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 近年、ラジオ業界では改革の動きが活発になっている。2016年6月、TBSラジオがPodcast への配信を終了し、新サービス「TBSラジオクラウド」に移行。2016年7月1日には、楽天がインターネットラジオ配信プラットフォーム「Rakuten.FM」を提供開始。同日グランドオープンを迎えた「i-dio」内で、TOKYO FMグループ企業などとの協業で「Crimson FM」の放送もスタートした。「i-dio」は、地上アナログテレビ放送終了後に空いた周波数帯V-Low(99MHz~108MHz)を利用するデジタル放送サービス。音声だけでなく映像やデジタルデータなども送ることができ、「第三の放送」として注目される。チューナーを内蔵したスマートフォンが発売されているほか、外部チューナーを接続すればそれ以外のスマートフォンでも受信可能だ。現在は東京・大阪・福岡を中心とするエリアで提供されているが、今後も順次拡大するとしている。

 2016年12月には、ワイドFM(FM補完放送)が一周年を迎えた。ワイドFMは、AMの番組をFMラジオで聴くことができるもので、難聴対策や災害対策を目的として始まった。AMラジオ局の電波は地表を流れ、高層ビルや山などの障害物に遮られやすい。また、電波塔の多くは平地に設置されており、災害時の影響が懸念される。そこで、高台などから放送ができるFM放送用の周波数を新たに割り当て、その帯域を利用することで、AM放送が入りにくい場所や災害時にも聴くことができる。2015年にTBSラジオ、文化放送、ニッポン放送の在京3局でスタートし、2016年12月現在、全国の民放AMラジオ47局中26局が放送を行っている。

ラジコの実証実験

 そして2016年10月11日、「radiko.jp」(ラジコ)の「タイムフリー聴取機能」の実証実験が始まった。放送済みの番組を、放送後一週間いつでも遡って聴くことができるというもの。初めに再生ボタンを押してから3時間に限り、何度でも再生することができる。ラジコには各局の本来の放送エリアを超えて番組を聴くことが出来る有料のプランもあるが、今回追加されたタイムフリー聴取機能は無料で、登録も不要だ。そのような形を採った理由について、株式会社radikoの青木貴博業務推進室長は「できるだけハードルを低くするため」と話す。「タイムフリー聴取機能の最大の目的は、ラジオリスナーの数を増やすこと。そのためには、とにかくラジオ番組というものに接してもらわないと始まらない。とにかく広げるというところが最優先なので、『お金が必要ならいいや』『登録が必要ならいいや』という人を生みたくなかった」という。

 新規リスナーの獲得は、ラジオ業界全体の課題でもある。「リアルタイムの放送では、新しいリスナーを獲得することが難しくなっている。深夜に面白い番組をやっていても、生活スタイルを変えてまで聴いてもらうのはハードルが高い。遡って好きな時間に聴くことができれば、ラジオ番組の聴取機会を醸成できる」と青木氏は言う。ラジコは2010年3月に実用化試験配信、同年12月に本配信を開始して以来、「ラジオのメディア価値の向上」を目的として掲げてきた。「より多くの人に聴いてもらうということが、メディアの価値を高めることになる」(青木氏。以下同)

 ここ数年、ラジコのユニークユーザーは月1,000万~1,200万人を推移しており、実証実験の始まった10月11日から月末までの調査では、全体の10%強となる150万人がタイムフリー聴取機能を利用した。タイムフリーでは、ワイド番組よりもアーティストや芸人の番組が多く聴かれている。「あくまでも感覚値ではあるが、おおよそ予想通りの状況」と青木氏は言う。

 この実験の開始にあたり、(株)radikoは一般社団法人日本民間放送連盟(民放連)ラジオ委員会と連名で「ラジオ業界の発展を目指して」と題した声明を発表。タイムフリー聴取機能を活用することによって、同委員会の提唱する新しい聴取文化「シェアラジオ」の実現を目指すとしている。実証実験の開始に伴いリニューアルされた聴取画面には好きな番組の好きな時点へのリンクを簡単に共有できる「シェア」ボタンが設置され、ユーザーは、TwitterなどのSNS上に投稿されたリンクから、そのまま番組の聴取画面を開くことができるようになった。

ラジコが次に目指すもの

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 今回のリニューアルでは、新しい機能の追加以外に、検索の使い勝手も強化されている。インターネットの検索エンジンのように、キーワードを入力している途中で、予測される候補が逐次表示されるようになった。番組名や出演者を正確に覚えていなくても、聴きたい番組を見つけられる仕組みだ。「タイムフリーが始まると、今まで以上に新しく番組を聴こうというモチベーションが増すはず。検索できなかったばかりに、諦められてしまってはもったいない」との思いから、コストをかけて検索機能の充実に踏み込んだ。リニューアル後、検索機能の利用数は月約300万回に倍増したという。

 ラジコは、「難聴取エリアの解消」「ラジオの聴取機会の拡大」「若年層の掘り起こし」を掲げ、2010年3月に実用化試験配信、同年12月から本配信を開始した。2016年9月時点で全国83のラジオ局と放送大学が参加している。無料でのエリア限定配信に加えて、2014年から始まった有料のエリアフリー聴取、今回のタイムフリー聴取によって、地域と時間の壁を越えてきたラジコ。次の段階として、青木氏はレコメンド機能を挙げる。「『この番組を好きな人はこれも』と薦めるような機能ができたらいいと思っている。薦められた時に、その番組の直近の放送を聴いてもらえる体制は整ったわけなので」

 そのためには、現在のエリアフリー聴取が可能なプレミアム会員だけでなく、無料の会員登録制度が必要になってくる。また、レコメンドの精度の向上のためには、番組タイトルや出演者名、放送予定の内容だけでなく、番組で実際に話されたトピックや紹介されたものなど「後メタ」と呼ばれる事後情報の充実も不可欠だ。

ラジオの可能性

 総務省の調査によれば、2015年にはスマートフォンを保有している個人の割合が初めて50%を上回った。特に20~29歳、30~39歳は約90%、13~19歳も80%近くになっている。「受信できるデバイスを多くの人が持ち歩いているというのはラジオの強み」と青木氏は指摘する。

 また、ラジコは熱心なファンを多く獲得している。定期的に行っているユーザーアンケートには、毎回多くの回答が寄せられる。現在集計中の第9回では、2週間でおよそ4万2000件の回答が集まった。「開始当初、一番多かったのが、エリア外の放送を聴きたいという声だった」という。エリアフリーの導入後は、遡って聴きたいという声が増えた。「ユーザーの意見と呼応するように、機能が拡大してきた形」と青木氏は言う。

 「番組制作者が丹精込めてつくった番組を、ひとりでも多くの方に届けたい。ラジオ番組への接触の拡大は、番組内で流れる音楽への接触の拡大にもつながる。音楽業界のお手伝いにもなるのではないかと期待している」

 現在、総務省の有識者会議では、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会を前に、テレビ放送の常時同時配信について検討を進めている。テレビのネット同時配信に向けた議論の行く末を占う上でも、ラジオ業界の挑戦は、今後も注目されるだろう。

【注】
※総務省「平成27 年通信利用動向調査の結果」 (2016年7月22日) http://www.soumu.go.jp/ menu_news/s-news/01tsushin02_02000099. html (▲戻る)

参考
株式会社radiko、一般社団法人民間放送連盟ラジオ委員会「ラジオ業界発展を目指して」 http://radiko.jp/newsrelease/pdf/20160926_ 001_pressrelease.pdf