SANZUI vol.09_2016 winter

裏舞台という名の表舞台

Photo / Ko Hosokawa   Text / Taisuke Shimanuki

多くの人たちによってつくられる舞台。
主役のまわりに視線を転じてみると、
至る所にプロの技が輝いている。
舞台を支える人に光を当てる。

STAGE 12フードスタイリスト 飯島奈美

フィンランドに小さな食堂を開く日本人女性を主人公にした『かもめ食堂』のスマッシュヒット以降、「料理映画」「料理ドラマ」というジャンルが確立したように思う。そこでの主役はもちろん俳優たちだが、ドラマを彩りつつ視聴者の食欲をそそる料理も同等の存在感を放つ。深夜に放送される料理ドラマに刺激されて、カロリー摂取量にシビアな紳士淑女をコンビニやラーメン屋に走らせたりするのも、よく聞く笑い話だ。『深夜食堂』『ごちそうさん』『南極料理人』などの料理を担当した飯島奈美さんは、フードスタイリストのトップランナー。最初に挙げた『かもめ食堂』も彼女の参加作品で、とんかつや焼鮭の丁寧で素朴な佇いが記憶に残っている人は少なくないだろう。けれども、本人はこう言う。

「『飯島さんのつくる料理、おいしそうでした!』と言われると、私ってまだまだだなあ、と思うんです。私たちの仕事は、監督やプランナーのイメージする料理を代わりにつくること。あくまで裏方であって、料理する人の存在がお客さんからは見えちゃいけません」。

フードスタイリストの仕事は、こんな風に進む。例えば映画作品の場合、まず監督から作品の世界観を聞く。時代設定や登場人物の性格や職業から、食環境を想像する。料理だけでなく、盛りつける皿を用意するのも仕事のうちなので、作品に合った食器を探すこともある。昭和の日本が舞台だったりすると、方々のリサイクルショップを訪ねるという。「福山雅治さんが主演した『そして父になる』では、一流企業のサラリーマン家庭と、町の電気屋さんの家庭が登場します。それぞれの家庭での『子どもが嬉しいごちそう』とオーダーされて私がイメージしたのは、前者がすき焼き、後者は山盛りの餃子。それから電気屋のお母さんはお弁当屋さんのパートで忙しいから、横着してポテトサラダはパックのまま食卓に並べるかもしれない。スタイリストが今つくりたいもの、食べたいと思うものを出すのではなくて、作品内にリアリティーを生む料理のあり方を考えるんです」。おいしそうなもの、美しいものを出すことが必ずしも正解ではない。これは、料理研究家や料理人とフードスタイリストの仕事の大きな違いだろう。

そんな飯島さんがこの仕事を選んだ理由は? 「これといって得意なことのない子どもで、まわりから褒められたのは料理くらいだったんです。長く続けられる仕事を選びたかったから、数少ない取り柄のある仕事を選んで今に至る、って感じですね。でも昔から飽きっぽい性格なんですよ」とも謙遜するが、料理にかけるストイックさは並外れたものだ。いちばんよいタイミングで料理をカメラに収めるために、肉本体だけでなく、熱した鉄板の温度も測り「原因と結果」を研究する。飽きっぽいなんてとんでもない。ほとんど科学者だ。「どうやったら上手に料理できるかを考えるとキリがなくて、日々の蓄積が大切です。一方で、今までしてこなかったやり方に挑戦する探究心も大事。肉じゃが=甘い味というのが定番ですけど、砂糖を控えて醤油を塩にしてみると、また一風変わった肉じゃがができたりします」。

取材に応じることも稀なくらい多忙な飯島さんだが、ささやかな夢がある。「今の事務所はマンションの一室なんですけど、調理もできる店舗を借りられたら予約制のお店をやってみたい、なんて想像したりもします。と言っても、知っている人だけ予約できる、個人的なお店ですけどね。やっぱりつくったものを食べて喜んでもらえるのは何にも代え難い喜びですから」。料理は愛情。飯島さんの話を聞いていると、この月並みな表現に意識が戻ってくる。ちなみに今回の撮影のためにカットした大量の紫キャベツはパクチーと一緒にからめてサラダにするそう。「キャベツは春が季節ですけど、冬は冬でしっかりした味が楽しいんですよね」。残さず食べるのも料理への愛情。それでは、いただきます!


PROFILE 飯島奈美(いいじま・なみ)東京生まれ。フードスタイリスト。TVCMなど、広告を中心に活動。2005年に荻上直子監督作『かもめ食堂』参加をきっかけに、映画やテレビドラマのフードスタイリングも手がけるようになる。13年にはNHK連続テレビ小説『ごちそうさん』のフードスタイリングを担当。主な著書に『LIFE なんでもない日、おめでとう!のごはん。』(東京糸井重里事務所)、『シネマ食堂』(朝日新聞出版)、『飯島風』(マガジンハウス)など。

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