SANZUI vol.06_2015 winter

特集 うたう

私たちは、歌うことで生きている。
さまざまな人生と歌でつながる人がいる。
うなることで、言葉を遥か遠くまで伝えられる人がいる。
自分自身という楽器から生の歌声を奏でる人がいる。
次元を超えて、愛のメッセージを発信する人がいる。
ジャンルも表現も違うけれど、みな、歌うことを心から楽しんでいる。
みな、歌うことで生きている。

国本武春浪曲師
浪曲は「うなり」だ! シャウトだ!!

Photo / Ko Hosokawa   Text / Masako Yamaguchi

 弾く手が見えない程の速弾きで三味線の名手としても知られる浪曲師国本武春さん。三味線を弾きながら自由自在に歌い語り、浪曲以外にもミュージカルや芝居、ロック、ブルーグラスなど幅広く活躍するマルチな芸人、言わばスーパー浪曲師である。

「昭和30年代くらいまでは非常に人気のあった浪曲ですが、今や廃れつつあります。その浪曲のイメージを変えたいということもあり、様々なジャンルに挑戦しています」

 そう語る国本さんの太く、通りの良い声こそ浪曲の特徴、「うなり」を思わせるものだ。

 「修行を積んでこういう声になるんです。わざと物売りのような『胴声(どうごえ)』を出すんですが、ロングトーンの読経のようでもあり、海外でも通じるシャウトだと思いますね。拡声器のない時代に始まった芸です。普通の声だと遠くまで聞こえないけれど、胴声だと遠くまで聞こえる。その上で、お坊さんの説教のように、『人間というものはね』という教訓的な、お前に言われたくないよ、といった内容を語るわけです(笑)。だから声でもっともらしく、面白い話を節に乗せて人々の心を掴み、『うなり』で遠くに伝え、胴声でうなると、『浮かれ節』とも呼ばれたくらい聴衆もいい気持ちになった。浪曲は一に声、二に節、三に啖呵と言われるのはこのためでしょうね」

 そもそもの起こりは、「お坊さんのような恰好をした」修験者(しゅげんじゃ)が、祝詞(のりと)(祭文(さいもん))を唱え、お布施をもらったことに端を発するらしい。

 これが門付け(かどづけ)芸に移り、浪曲になった。関西に起こったので、関東では浪花節とも言う。

「明治になり、修験者が使っていたほら貝や錫杖(しゃくじょう)の代わりに、三味線で抑揚をつけるようになったのですが、それまであった三味線の音楽ではなく、好きなように作るのが浪曲。ですから、とても多彩で、縛りがない。受ければよいのです。でも、この型のない自由こそが、演ずるのにも伝承するのにも難しく、浪曲が廃れた原因の一つかもしれませんね」

 さらに浪曲はアドリブの占める割合が大きいため伝授しにくく、弟子も取りにくい。

「言わば一代限りの芸ですが、そこが潔いとも思えます」

そんな自由自在さこそが浪曲の大きな魅力の一つであることは間違いない。

 さて、それでは、浪曲の屋台骨とも言える「うなり」は「歌」なのだろうか。

「浪曲はそもそも語りなので、『うなり』は言葉が聞き取れないといけない。だから歌と違って漂わないんです。根が生えている。三味線がべんべんと入るだけで、声の力でぐっと人心を掴み、酔わすわけですから、声の力は浪曲そのものです。その上、決まった旋律もなく、楽譜もない。アドリブの連続です。やはり、歌うことではないという気がしますね」

 なるほど「うなり」は「うなり」、「うたう」とは別の表現形態なのだろう。しかしながら、今回のテーマ「うたう」を通して「うなる」を再考すると、改めて歴史ある「うなり」文化の魅力が見えてくる。かつて大人気だった「うなり」が、国本さんらの活動によって、現代の私達の心をも掴み始めている。

「一生のうちに一つでも、このために演ってきたと思える浪曲を作り、演じたいですね」

 スーパー浪曲師国本武春の「うなり」の快進撃は続く。注目したい。


PROFILE 1960年、千葉県生まれ。両親共に浪曲師。ギターなどの演奏法を取り入れて独自の三味線奏法を生み出し、ロック、ブルーグラスなど様々なジャンルに忠臣蔵や民話などを組み込んだオリジナル作品を次々と発表。2000年には宮本亜門演出ミュージカル『太平洋序曲』に出演し、二度の米国公演参加。03年文化庁文化交流使として米国イーストテネシー州立大学に派遣。04年ブルーグラスバンド結成など、ライブ、CD、ラジオ、テレビ、舞台等と多方面に活躍。第50回文化庁芸術新人賞、芸術選奨文部大臣新人賞、平成13年度国立演芸場花形演芸大賞受賞。(※情報は発行当時)

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