SANZUI vol.05_2014 autumn

特集 ドキドキ

舞台の魔法
たとえば、男が女になる。たとえば、女が男になる。
たとえば、若者が年寄りになる。たとえば、現代人が未来人になる。
舞台の上で、ドラマの中で、さまざまな演者が、
鮮やかな「変身という魔法」を見せてくれる。
華やかな「変身という魔法」で魅せてくれる。
しかし、それは、魔法などという簡単なものではなく、
演者の一生における努力の結晶であり、
変身しても変わることのない強い意志であることをあなたは知るだろう。

ミシェル・マトロックアーティスト(シルク・ドゥ・ソレイユ)
観客をとりこにする世界最高峰のサーカス。
案内役のパワーの源は観客の笑顔。

Photo / Ko Hosokawa   Text / Natsuki Ishigami

 超人的なアクロバットと奇想天外な演出、圧倒的な世界観で、観客をめくるめく非日常へと誘うシルク・ドゥ・ソレイユ。単なる「サーカス」の枠組みには到底収まりきらない、そのドラマティックな舞台は、世界中でこれまで1億人以上もの観客たちの心をとりこにしてきた。

 現在公演中の『オーヴォ』はカラフルで躍動感に溢れ、生命の喜びに沸き立つ昆虫たちの世界へと観客を誘い込むファンタジーだ。個性的なヒロイン「レディーバグ」を演じるミシェルさんは創作段階から参加し、演出家たちと共に数年間かけてこの役柄を作り上げてきた。恋に恋するてんとう虫の女の子。元気いっぱい、とびきりチャーミングでハッピーな彼女の存在感は、登場しただけで舞台をパッと明るくする。

「そう感じてもらえると、とても嬉しい。彼女は私たち人間にとって大切なことを表現しているの。つまり愛、ロマンチックであること、楽観的であるといったことを」

 セリフはないが、豊かな身振りや表情に加え、「プルルルル」といった"虫の言語" で他の虫たちと会話する。虫が羽を震わせているようでもあり、歌や楽器のようでもある、何とも心くすぐられる音色だ。英語か日本語かといった言語の壁を越えて、虫たちの心の動きがダイレクトに伝わってくる。

「昆虫の生態を学ぶなかで、私たち人間の耳には聞こえないだけで、虫たちはいろんな音を出してコミュニケーションしているはずだと気づいたんです。想像力を膨らませて、喜怒哀楽を表現しながらも虫らしさを失わない音色を試行錯誤しました」

 もともとは古典的なシェイクスピア演劇を学び、NYのダウンタウンで舞台に立っていた。当時はシルク・ドゥ・ソレイユに特に関心を持ってはいなかったが、ある日突然オーディションに呼ばれたことで、新たな扉が開いた。

 アスリート出身の俳優たちとは異なるバックグラウンドが、彼女にしか演じられないレディーバグを生むと同時に、シルク・ドゥ・ソレイユ独自の物語世界を支えている。「人間離れしたアクロバットにはみんなびっくりするけど、"私にはできない" と遠い世界のことのように感じてしまう。でも私が登場すると"あ、これなら私にもできる!"とホッとする(笑)。自分に近い、人間くさいキャラクターを通して初めて、昆虫たちの世界に感情移入できる。昆虫という設定だけれど、これは人間の物語でもあるんです」

 虫たちのミクロな世界を「等身大」に感じ、共感してもらうために。ミシェルさんはステージのたびに、目の前の観客たちと"ドキドキ(enchanting /心を奪われる)" を分かち合うことを大切にしている。

「観客の前に立つときが、一番ドキドキする。最初に日本に来たときは、客席が静かで不安だった。でも客席の間を練り歩く場面で一人ひとりの顔を見たら、みんな笑顔で目がキラキラしていて、心からショーを楽しんでいることが伝わってきた。役者を続けているのは、お客さんが私のパフォーマンスから感じた"ドキドキ" を、客席から返してくれるから。これからも観客との関係性を大切にしていきたいです」


PROFILE 米シアトル生まれ。ニューヨークの国立シェイクスピ ア・アカデミーにて古典演劇を修める。 2001 年、自身の脚本演出 によるひとり芝居"マミープロジェクト"を開始。全米の大学やフェ スティバルで上演される。2008年10月、『オーヴォ』の創作段階か らシルク・ドゥ・ソレイユに参加。「ダイハツ オーヴォ」東京公演を 終え、大阪(7/17~11/2)、名古屋(11/20~2015/2/1)、福岡 (2/20~4/5)、仙台(4/23~6/7)を巡る。(※情報は発行当時)

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