SANZUI vol.04_2014 early summer

特集 変身

舞台の魔法
たとえば、男が女になる。たとえば、女が男になる。
たとえば、若者が年寄りになる。たとえば、現代人が未来人になる。
舞台の上で、ドラマの中で、さまざまな演者が、
鮮やかな「変身という魔法」を見せてくれる。
華やかな「変身という魔法」で魅せてくれる。
しかし、それは、魔法などという簡単なものではなく、
演者の一生における努力の結晶であり、
変身しても変わることのない強い意志であることをあなたは知るだろう。

宝塚歌劇団雪組 壮一帆役柄をどれだけ魅力的に演じられるか、
それをお客さんに楽しんでほしい

Photo / Ko Hosokawa   Text / Keihu Ishii

宝塚には〝男役10年〟という言葉があって、女性が演じる男役のスタイルが完成するには10年ほどの時間がかかるといわれる。逆にいうとその期間を超えると、完璧な男役像への変身術を会得するので、素の女性である立ち居振る舞いを置き忘れても気づかない現象がしばしば起こる。

雪組のトップスター、壮一帆さんは男役19 年目。今年100周年を迎えている宝塚歌劇団の頂点に立つ一人として、女性であることの日常をほとんど忘れかけていると笑う。

「私だけではなく、男役はみなそうだと思うのですが、10年以上やっていると、家にいる時でも無意識に足を開いて座っていたりします」

過去に芝居の中の役に没頭し過ぎてオンとオフを切り離せなくなり、私生活まで狂いそうになった経験を持つ壮さんは、舞台上では徹底的に役に集中する代わり楽屋を出たら男役としての変身に戻ることにしている。が、その男役から素の女性への変身というか脱皮はなかなか難しいらしい。では、改めて日常の変身過程を復誦して貰うと――。

「家を出た時点でスイッチが一つ入る。劇場前ではファンの方がたが待っていてくださりお手紙を頂きます。当然、男役・壮一帆として頂く訳です。それからウォーミングアップして楽屋でメークを始め、髪型を作り、衣装を付けたら、そこで完璧にスイッチが入りますね。顔を作って、衣装を着れば変身完了です。全身を鏡に映して、〝ああ、きょうも恰好いい!〟と毎日、自己陶酔しているのです(笑)」

役については、資料を徹底的に調べ、演出家の意図を第一に演じるという壮さん。色々な役を演じてきた中でも『ベルサイユのばら』には、6度登場した。

「まず、原作を読む視点が変わります。アンドレやアランでは平民目線、フェルゼンだと貴族目線、そうすると作品の見え方が違ってくる。『ベルばら』は再演も多く、役のイメージが確立されています。奇をてらわず、原作に忠実に演じることで、その人物の魅力をお客さんが見出してもらえるといいと思っています」

さらにもう一つ、宝塚には特有の変身過程がある。男役の経験を積んできた役者が女役を演じること。『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラなどキュートで強めの個性を持った女性は男役が務める。

「踊りでも筋肉の付き方が違うし、上から目線というか娘役には出せない強さとか、男役がやるからこそ意味のある女の役がある」

「でもね、結論的にいえば、与えられた役柄をどれだけ魅力的に演じられるか、気持ちよく楽しめるかだと思います。それを観にいらした方が面白かった、来てよかったと口をついて出るのが最高の褒め言葉」

変身を続ける中でも自分を見失わない、壮さんのリラックスした笑顔が光った。


PROFILE 中学から剣道部に所属し、高校の時に男役を目指して宝塚音楽学校を受験。一発合格。1996年に初舞台を踏み、花組に配属。2001年雪組、2006年花組へ組替えを経て、2012 年雪組トップスターに就任。明朗な歌声と心を捉える幅広い演技力で、客席を魅了する。『一夢庵風流記 前田慶次/My Dream TAKARAZUKA』の東京宝塚劇場公演(8/1~31)千秋楽をもって、宝塚歌劇団を退団予定。(※情報は発行当時)

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