SANZUI vol.03_2014 winter

エッセイ

Illustration / Asuka Kitahara

矢崎和彦「舞台を観る 舞台に立つ 舞台をつくる」

 2013年8月、神戸で行なわれたサザンオールスターズの復活ライブに出かけた。4万人を超える観客は3時間におよぶ生のステージに魅了された。10年前にも神戸で行なわれたステージを見ていたが、今回はその時の何十倍もの感動を覚えた。病を克服し再び舞台に立つ桑田佳祐は32曲もの名曲を休むことなく歌い続けた。私は魂の歌声に触れた気がした。

 私は彼らと同世代で、学生時代にはブルーグラスというジャンルのバンドを組んで活動していた。フォークソングの洗礼を受けて育った私は大学に入ると、当然のようにギターを買い、音楽サークルに入った。そこで出会ったブルーグラスは、当初、どの曲目を聴いても同じようだと感じていたが、夏に入る頃にはこの音楽の虜になっていた。ライブハウスなどで演奏をさせてもらうこともあった。得たバイト代は殆どの場合、その場所での飲み代に消えた。葉山マリーナで演奏していた時には、クルーズを終えて通りがかった中村玉緒さん、勝新太郎さんご夫妻に演奏を聴いていただいたこともあった。中村さんからは「頑張ってね」と声を掛けられた。ご本人の記憶に残っているとは思えないが、テレビでしか見たことのない有名人から、そんな風に接していただいたことは、私の心に大きなタカラモノとなった。以来、そのように人に向かい合える人間になりたいと思い続けているが、器の違いは歴然で58歳になった今も中村さんのようには振る舞えない。

 私が経営するフェリシモは全国の生活者の方々にカタログやウェブを通じて多様なオリジナル商品を販売する会社である。さまざまなフェリシモのカタログや、500色の色えんぴつなどの商品を目にしていただいた方もいらっしゃるかも知れない。ビジネスの特性上、私たちがお客さまと直接接することは少ない。それゆえに、お客さまとお会いする機会を意識的に設けるようにしている。1995年の阪神淡路大震災をきっかけに誕生した「神戸学校」は月に一度、各界の第一人者にご登壇いただくメッセージライブである。これまでに200名近くの著名人の方々にスピーカーをお引き受けいただいた。「神戸学校」は準備から当日の運営までのすべてを入社二年目までの社員たちが行なう。彼らに人と接することの大切さを感じて欲しいからであり、ひとつの舞台を作り上げる大変さ、楽しさ、達成感を味わって欲しいからである。

 舞台を観る。舞台に立つ。舞台をつくる。人は生きている中でさまざまな役割を持つ。役割と舞台はそれぞれの人生シナリオに大きな意味を与えてくれる。

 そんな舞台が私は好きだ。


やざき かずひこ=株式会社フェリシモ代表取締役社長。1955年大阪市生まれ。1978年学習院大学経済学部卒業。2005 年3月1神戸大学大学院経営学研究科終了MBA 取得。1978 年株式会社フェリシモ入社。1987年より現職。公益社団法人企業メセナ協議会評議員。第30 回毎日経済人賞、2012 年神戸市産業功労者賞受賞。著書『ともにしあわせになるしあわせ』(英治出版)。

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