SANZUI vol.03_2014 winter

特集 手

Text / Kiyoshi Yamagata

感情を心から身体へ
そして手先まで切れ目なく
流れるように伝えていく
名匠インタビュー 小松原庸子(スペイン舞踊家)

ほとばしる情熱と身体全体を使った感情の表現。そして印象的な手の動きが、さらに感情の機微を語り、見る者の目を釘付けにするフラメンコ。それは美しい手の感情表現があってこその舞踊と言える。小松原庸子さんは1960年に来日したフラメンコの巨匠ピラール・ロぺスの公演を観て激しく感動。単身でスペインに渡って修業を積み、帰国後もフラメンコと共に生き、50年以上も踊り続けてきた。

「当時、1万キロ離れたスペインには、ほとんど日本人はおらず、まだスペインでもそれほど脚光を浴びていないフラメンコを習いに来たというと不思議な目で見られた時代でした。 幸いにもたぐいまれな何人かの巨匠と出会い、マドリッドではテクニックを、セビリアでは踊る心や魂を吹き込まれました。私にとってフラメンコとは人生そのもの。これまで嬉しいことはもちろん、凄く悲しい思いを何度もしましたが、フラメンコを夢中に踊ることで、乗り越えることができ、生きる希望にもなってきました」

舞踊を極めた小松原さんはフラメンコにおける手の表現をどう考えているのだろう。

「指先、爪の先まで感情が入っていないといけません。本当に悔しいと思った時には、指先までグーッと力が入りますし、本当に好きだと思ったら、手や指の先まで優しく心を込めて動くでしょう。感情を心から身体へ、そして手先まで切れ目なく流れるように伝えていく。時には逆に手から身体に感情が流れることもあります。手拍子もフラメンコでは大切な要素。無造作に叩くのではなく、気持ちを込めなければならないし、肉体から発する音だからこそ心に響く。子供の頃から親しんだ日本舞踊のしなやかで流れるような手の所作、洋舞の基礎であるバレエの手の動作も、フラメンコの手の表現に生きています」

いま小松原さんは日本の伝統芸能やオペラなどを取り入れた舞台にも力を入れている。

「もちろんフラメンコが根底にありますが、良いものはすべて取り入れたい。生まれた時からフラメンコを踊っているヒターノには近づけないかもしれませんが、作品なら勝負ができる。日本人である私が、これまで培ってきた踊る心や魂、そしてテクニックや経験を統合して、フラメンコやスペイン舞踊の良さが引き立つような舞台を若い人達の新しい才能を生かして創り続けていきたいですね。私はとにかくフラメンコが本当に大好きです。今でも一番興奮するのは、舞台稽古から本番が近づいていく時、楽屋入りして楽屋を自分の気に入ったように飾って鏡の前に座り、だんだん自分が変わる瞬間。そして舞台が全部終わった後の満足感と、言いようのない寂しさ。もっとも自分の踊りに本当に納得し、嘆かないで済んだことは、長い舞台人生でも、まだ、数えるほどもありませんけど。まだまだ退屈している暇はありませんね(笑)」



PROFILE 常磐津節の師匠の父を持ち、幼少の頃より三味線、日本舞踊、クラシックバレエを習得。16歳で帝劇のバレエの舞台に立ち、俳優座に入所し、演劇活動も始める。その後単身でスペインに渡りフラメンコと共に生きる。 1996年紫綬褒章。2004年旭日小綬章。2006年にはスペインの最高の栄誉であるイサベル女王勲章を授かる。

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