SANZUI vol.02_2013 autumn

裏舞台という名の表舞台

Text/Kiyoshi Yamagata   Photo / Anna Hosokawa

舞台は客席から見える表舞台と
見えない裏舞台によって
成り立っている。
舞台を裏で支える人に光を当てる。

STAGE 04スタイリスト 研

舞台やライブ、そしてプロモーションビデオなどで繰り広げられるパフォーマンス。そして、それぞれの場で、パフォーマーを最大限に引き立ててくれるのが衣装である。見る者のイメージを広げ、パフォーマーの個性や演技をより印象的にする衣装を創り上げるのがスタイリストという仕事。観客の心に残るパフォーマンスを影で支える極めて重要な役割だ。テクノポップユニット・Perfumeをはじめ、広告や舞台でも活躍中の研さんにお話を伺った。

「スタイリストと一言で言っても、仕事の仕方はさまざま。既製服を組み合わせる場合もあれば、一からイメージを創り上げていく場合もある。僕は物づくりが大好きなので、イメージ創りから縫製まで自分でやってしまうことが多いですね。最初に自分のアイデアありきではありません。話を聞きながら相手のやりたいことをシャープにしていきます。つまり絶対に着る人ありき。その人のキャラクターや、場所、時間帯、方向性、そういうことをソースにして、なるだけわかりやすくわかりやすくというのが僕の基本的な考え方です」

研さんは、出演者の個性はもちろん、音楽や動き、色、光、カメラワークなどあらゆる視点から衣装の役割をとことん考えているように見える。それはなぜなのか?

「専門学校のファッション産業科を卒業してイベント制作会社に入社しました。当時はバブル全盛で、いきなり年間230本ものイベントの制作ディレクターをやらされました。ところが翌年にバブル崩壊。予算がなくなり、衣装も自分で作らなければならない。もう毎日冷や汗ものでした。しかもイベントは、忙しいけれど作品が残らない。そこで会社を辞めてフォトプロダクションで光やカメラワークを学んだ後、あるタレントさんのところにお世話になりました。その人のこだわりが半端ではない。もう徹底的に衣装のことを叩き込まれました。イメージをすぐに形にしてと言われるのですが、そのレベルが高すぎて(笑)。本当に勉強になりました」

研さんの作品の絶妙なバランス感覚は、現場での厳しい仕事と緊張感を通して培われたようだ。衣装の色はどのように決めているのだろうか。

「何でも見ます。雑誌やインターネットも見ますし、山や川に行って自然の色も見ます。そして、他のところで使われていない色を使います。仕事ですから、あまり極端な色はNGを出される場合もある。そういうときも、光の当て方や素材で何か変化をつけられるようにしています。Perfumeの場合、引き受けたときは全くイメージがない状態でした。そこで、一曲ごとに雰囲気を変えるのではなく、同じことを三回やりました。それまでは同じような曲調なのに毎回ビジュアルを変えていた。でも、まずは覚えてもらうことが先だろうと考えたんです。音楽は『思い』ですから、聴くと赤や黄などの色が思い浮かびます。でもビジュアルはあえて白を選びました。これはキャンバスの色です」

本人たちとファンの反応を見ながら、常に半歩先を進むことを意識して進めていったのだという。

「チームで意見を共有したりはしません。そこに向かってそれぞれの仕事をやっていただけです。関わっているみんなが完成形をわかっていたから、それで良かったんです。『ポリリズム』のPVを撮ったときはそのバランスが最高でした。今は広告の仕事がほとんどですが、木の実ナナさんの舞台衣装なども担当させていただき、少しずつ世界が広がっています。現状では長期間携わる仕事はなかなかできないのですが、いずれは映画や舞台全体の衣装にじっくり取り組みたいですね。その時に備え、引き出しはたくさん用意しています。時間が少しでもあると、あれこれイメージを膨らませて自分でデザインし縫製しています。やはり物づくりこそが僕の原点だからです」


PROFILE 1991年、株式会社ギミックインターナショナル入社。アパレルカタログの製作、ファッションショー、ファッションイベントの制作を行う。1994年、フォトプロダクションにて、スタイリストとして、広告、音楽、などのビジュアル制作などを担当。1998年、フリーに。2003年4月から2004年5月までの1年間、アパレルデザイナーとしてロサンゼルスにて活動。2013年現在、広告、ミュージシャン、女優を中心に衣装デザイン、スタイリストとして活動を行っている。

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