PLAZA INTERVIEW

vol.032「独自の感性で社会を鋭く批評する」

いまや、日本の芸能界を席巻している感のある「オネエ」ブーム。日々、数多くのタレントが登場するなかにあって、スラリとして背が高い抜群の容姿ばかりでなく、高学歴で英語にも堪能という秘めた才能で、とりわけ輝きを放っているのがミッツ・マングローブさんだ。テレビやラジオでは、身近な出来事から社会的な問題までを、舌鋒鋭く批評する。しかし、その鋭い批評眼の源をたずねれば、「私自身が偏った人間だから」とあっさり答える潔さを持ち合わせているのも、人気の理由の一つだ。芸能界では八面六臂の活躍をする一方、東京、新丸ノ内ビルディングにある女性限定バー「来夢来人」では、毎週1回は接客をしているというミッツ・マングローブさん。今回は、そのミッツさんのもつ独特の感性を、松武秀樹CPRA広報委員長がじっくりと引き出させていただいた。
(2011年06月09日公開)

Profile

タレント ミッツ・マングローブさん
1975年神奈川県横浜市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。英国ウエストミンスター大学コマーシャル・ミュージック学科中退。初めて女装をして舞台に立ったのは20歳のとき。25歳のころには、昼は得意の英語を生かして通訳の仕事をし、夜はドラァグ・クイーン(女性の姿で行なうパフォーマンス)として新宿2丁目のディスコの舞台に立っていたという。数多くのラジオ番組や、テレビのバラエティ、情報、クイズ番組などで鋭いコメントを連発。今年3月には、CD『若いってすばらしい』(日本コロムビア)をリリース。

女装すること、すべてが「芸能活動」

032_pho01.jpg ―― テレビやラジオなどで大変にご活躍のミッツさんですが、ご自身ではこの人気ぶりをどのように感じていますか。
あまり意識していないです。人気っていっても、実態がないものですからね。今まで自分がやってきたこととは全く関係がないものなので、完全に水ものだと思っています。

―― 多彩な活動をされていますが、ご自身の職業は何だと考えていらっしゃいますか。
特定できないですね。私の人生は、すべて成り行きなので。これになりたいとか目的をもったことがなくて、いまの立場なんて全然なりたいものじゃなかったし。その場その場で雇ってくれる人のところにお世話になってきたので、いまもそれの一つだと思います。

―― 芸能界にデビューされたきっかけは?
アングラなものやマイナーなものだったら、もう十数年やってます。私にとってこうして女装をしてやることは、ずっとやってきた舞台も、踊ることも歌うことも、街でティッシュを配ることも、全部芸能活動なので。

―― 徳光和夫さんが「伯父さん」と聞いていますが、何か影響を受けたことは?
全然ないです。伯父ですからね。親父だったらもうちょっと密接だと思うんですけど(笑)。

痛感するイギリスと日本の違い

032_pho02.jpg ―― 小中学校時代はロンドンに住んでいらっしゃったそうですが、イギリスと日本の文化の違いで、何か感じていることがありますか。
イギリスはやはり、戦争に勝った国、日本は負けた国ですね。私たちみたいなのは、完全に「敗戦国の人たち」という目で見られますよ。

―― またロンドンに住みたいと思いますか?
友だちもいるので行くだけならいいですけど、住むのはちょっと...(笑)。あの国って、良く言えば少し怠けた感じの国民性が、古い景色や伝統を守っているんだと思います。悪く言えばあまり向上心がないというか...。大きなウォークマンを20年ぐらい平気で使っていたり、携帯も日本だとどんどん進化していくのに、そういうのがない。車なんかもずっと乗っていて、お金のない人なんか、壊れたところにガムテープ貼って乗ってるし(笑)。

―― そのイギリスで、ウエストミンスター大学のコマーシャル・ミュージック学科に通っていたそうですが、どのような勉強をしたんですか?
「コマーシャル」は商業なので、ザックリ言えば、クラシック以外の音楽で、ビジネスになるような音楽について勉強したんです。ロックだったりテクノだったりの、制作と実技とビジネスを全般的に学ぶ学科です。私は、実技と制作ばかりやっていたんですけど。

032_pho04.jpg ―― ということは、音楽のプロデュースとか作曲とか...
でもあんなの、勉強してもできないですよね。勉強してみてわかりました。あ、こんなの勉強するもんじゃないって。ノウハウや理論的なものはあり得るけど、最終的にはセンスや生まれ持った才能なのでね。私は歌ったり踊ったりするのが好きで行ったんですけど、それで何か就職活動したわけでもないし。だから、親はすごく高い金払わされたので、今でも金返せって言ってます(笑)。でも、最終的には辻褄は合ってるような気がするんです。何がきっかけでこの世界に入ったかということにつながりますけど、ダイレクトではなかったにしても、あのとき勉強したものが何だったのかが今になってわかったりしてますから。

―― 音楽業界は今、大変な状況ですよね。
これは絶対に、聴き手が悪いですね。すべて損得で考えるような、みみっちい価値観ばかりがはびこってるでしょ。そういうのって、音楽に触れたりするとすごく出ますよね。それでいて、テクノロジーがここまで発達しちゃうと、やはりビジネスはきつい状況になるだろうなって思います。

―― 音楽もちゃんと良い音で聴いて、価値のあるものだという認識を持ってもってもらいたいですけどね。
大衆音楽にはもっと、ジャンルとか老若男女わけ隔てなく伝播する力があると思うんです。それを細分化してターゲットを絞ってなんてみみっちいやり方をして、「国民的ヒット曲」のようなみんなに伝わるようなものが、結局生まれにくい状況にあるんだと思いますね。

「鋭い発言」の源泉はどこに?

032_pho03.jpg ―― ミッツさんはテレビなどで鋭いコメントを多く発していますが、日ごろからいろいろな情報を収集したりしているのですか。
いえいえ。鋭く見えるのはたぶん、私の価値観が偏っているからだと思います。世間一般的なところに、あまり染まっていないんでしょうね(笑)。斜に構えて物事を見たり、重箱の隅をつつくような意地の悪い見方をするのが、昔から好きだったんでしょうね。それはとくに意識したり、努力してやってきたことではなく、私の性分なんです。その価値観で無責任に発言すると、鋭いとか、切れ味がいいとか言われるんです(笑)。

―― その鋭い意見を、ぜひテレビなどで発し続けていただきたいと思います。
別に価値観を押しつけたくはないんですけど、自分が思っているようなことをもうちょっとみんなが思ってくれれば、もっといろいろ良くなるのにって思います。音楽のことなんか、とくにそうですよね。私の言ってることが「鋭い意見」と思われないような価値観に、日本人が戻ればいいなあと思うんですけどね。

―― そうですね。最後に、今後、目指しているものとか...(ここまで聞いて、ミッツさん噴き出して)
ウフフフ、ごめんなさいね(笑)、質問の途中で。でも、何もないんです(笑)。

―― 先日はライブをされたとか。
あ、そういうのは、皆さんのご好意に甘えて、やらせていただいています。そういうものには執着心が強いので、たぶん続けていくと思います。でも、その先に何かをっていうのがないんですよ。

―― ということは、これからも思いついたことをどんどんやっていくと。
そうですね。長い目で見る癖はあるんですけど、なんとなくふんわりさせとくのが好きなんです。あるところへ行く目的があったとしても、こういう道もあれば別の道もある。一回戻ってまた行く道もありますよね。いろいろ考えながらやってて、気づいたらたどり着いていたとか。私の人生って、まさにそれなんですよ。たぶんこれからも、そういうふうに行くんだと思います。

―― 次のCDなどを発売される計画は?
私が出すって言って出せればいいんですけどね(笑)。歌は勝手にずっと歌っていくとは思いますけど。

―― ますますのご活躍を期待しています。CPRAも応援していますので。
ありがとうございます、本当に。よろしくお願いします。

―― 今日はどうもありがとうございました。

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