PLAZA INTERVIEW

vol.012「「ヒロシです・・・」で笑いを巻き起こす」

重みのあるムードミュージックをバックに、舞台の中央に立って「ヒロシです」と一言。肥後弁でトツトツと自身の失敗談など「自虐的ギャグ」をつぶやいて爆笑をとるスタイルでブレイクしたヒロシさん。ここにいたるまでの芸歴はけっして平坦なものではなく、さらに、幼少時代は「ずんだれ(九州方言でだらしない)」で、内向的で人前に立つのが大の苦手だったとか。ところが、その当時のエピソードさえも「自虐ネタ」にしてしまうのがヒロシさん。その後は、様々なお笑い番組に出演するほかに、「ヒロシ釣り紀行」というテレビ番組のレギュラーをもち、NHKFMの「サタデーホットリクエスト」ではパーソナリティーも。さらに、本名で何本もの映画に出演したり、50万部を突破したという著書『ヒロシです』などで多彩な活躍を見せている。お笑い芸の道に入るきっかけから好きなパンクロックにいたるまでのお話を、CPRA広報委員の松武秀樹委員がうかがった
(2008年05月28日公開)

Profile

お笑いタレント ヒロシさん
1972年福岡県大牟田市生まれ。サンミュージック所属。父親が炭鉱夫で、熊本県荒尾市の炭鉱住宅で育つ。デビュー時はコンビを組んだが、解散後は三鷹で3年間ホスト生活。その後、「ヒロシです」と名のって九州弁で愚痴るスタイルでブレイク。レギュラー番組にCSテレ朝チャンネル「ヒロシ釣り紀行」、出演映画に大林宣彦監督作品『転校生 さよならあなた』『22才の別れ』、劇場版『サンシャインデイズ』など。著書に『沈黙の轍~ずんだれ少年と恋心』(ジュリアン)などがある。
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「自虐ギャグ」のルーツは

012_pho01.jpg ―― ヒロシさんといえば、舞台の中央で音楽をバックに自虐的なギャグをポツリとつぶやいて爆笑をとることで有名ですが、こうしたスタイルはどのようにして生ま れたのですか。 僕はもともと漫才にあこがれてこの世界に入ったので、まさかこんなことをやるとは自分でも思わなかったんです。相方がやめて一人でお笑いやるとなったとき、なんか音楽かけたら面白いかなって思って、CDを借りにいって目についた音楽を使っただけなんです。

―― 近著の『沈黙の轍~ずんだれ少年と恋心』はご自身の幼少時代の自虐的エピソードを集めたものですが、こうした体験はギャグをつくる基盤になっているのですか。 ダイレクトになっています。あの当時の経験をネタにしていることが多いですね。

―― そもそも、お笑い芸人になりたいと思ったきっかけは? いちばん最初は、小学校2年生で転校したとき。いじめられてたんでなんとかしたいなって思って、クラスであった「お楽しみ会」っていう誕生会に「8時だよ 全員集合!」のなかのヒゲダンスを真似したんです。そうしたら思いのほかウケたんで、「お笑い」という方向に頭が向いたのが最初ですね。人前に立つのは好きじゃなかったんですけど、なんか目立ちたいっていうのはありましたね。

いちばん好きな音楽は「パンクロック」

―― ネタを演じるときのバックミュージックは「ガラスの部屋」。やはりあの音楽が流れると、ヒロシさんもぐっとしまるというか......。 そうですね。でも、最初は全然知らなかったんです。たまたまレンタルCD屋で手に取ったCDに入ってたという偶然なんです。これをかけながらやったら、しっくりきたんで選んだだけなんです。ただ、いまはもうずっとネタで使っていてこの曲のおかげみたいなところもあるので、思い入れはありますけどね。

―― テレビ朝日『笑いの金メダル』という番組の「出張ヒロシ」というコーナーでイタリアへいき、「ガラスの部屋」を歌うペピーノ・ガリアルディに会いにいったそうですね。 世界的に有名な曲だったんですよね。僕は知らなかったんです。しかも、行く前に「北島三郎さん的な人です」って聞かされていたんで、ちょっと恐ろしいなあって思って緊張していたんです。でも、会ってみたら全然違うんですよ。すごくテンション高くて、うるさいぐらいよくしゃべる人だったんです。

―― 食事なんかも一緒にしたんですか。 ええ。「ガラスの部屋」の生演奏もやってくれました。すっごくぜいたくなことなんでしょうけど、僕クタクタに疲れていたもんで、それどころじゃなかったんです(笑)。でも、考えたらすごいことだなって思いますよね。

012_pho02.jpg ―― 音楽に関しては、『ヒロシが選ぶ哀愁のヨーロッパミュージック』というCDも出されていますけど、好きな音楽のジャンルは? 意外かもしれないですけど、僕はパンクロックが好きなんです。ネタでこの曲を使うようになって、初めて映画音楽などの音楽を聴くようになったんです。そこからは、いろいろ興味がわきましたけど。

―― パンクロックはいいですねえ。よく、パンクっていうとちょっと不良のイメージで勘違いされるんですけど、実は歌詞で自分の生き様をすごく映し出す音楽なんですよね。 そうですよね。そういうのにグッときますね。いちばん、歌詞が熱い歌だと思うんです。

―― 「いつもここから」の山田一成さん、「18KIN」の今泉稔さん、世界のうめざわさんと「ハートせつなく」というバンドを組んでいるそうですね。 僕がホストクラブで働いていた6、7年前、山田さんにやらないかと誘われたんです。山田さんもパンクが好きで。なかなかパンクが好きな人っていないもんでね。

―― ヒロシさんはボーカル? 僕はベースです。ぽいでしょ?(笑) 僕が昔ベースやってたっていうのを山田さんがどこかで聞いて、バンドやりたくて声をかけてくれたんだと思います。 「どれぐらい弾けるの?」って聞かれたんですけど、僕、まったく弾けないんですよ。昔、モテたいがためにやってただけなので(笑)。

―― ミュージシャンの発想ってそうですよ。モテたいがために音楽をやったような。 それをきっかけに練習して、みんなうまくなるんですよね。でも、僕は全然練習してないんでへたくそなんです。

―― いや、音楽はやはり字のとおりで、音を楽しまないと。 そうですよね。パンクっていうジャンルは、それで許されるところが僕は好きなんです。ただ、みんなもう30歳オーバーですから、体力的には大変です。ハアハアいってますよ。

―― いまでもよく集まって? 週1回ぐらいではやってます。集まると楽しいですよね。休憩でみんなグチ大会です。なんで俺は売れねえんだろうかみたいな話になって、気づいたら朝になってたとか(笑)。練習よりも、そういう話で盛り上がってます。

ドラマで「演じる」ことの難しさ

012_pho03.jpg ―― NHKFMで『サタデーホットリクエスト』という番組のパーソナリティーを約3年やっていらっしゃいますが、ラジオのパーソナリティーという仕事はいかがですか。 ネタだけをやるのは平気なんですけど、僕はおしゃべりはすごく苦手なんです。みなさんがやってるように、途中で面白いことをいったりするのができないんですよね。

―― ラジオは顔が映らない分、しゃべりでひきつけなくちゃいけないですからね。 そうなんです。それなのに、なんだかんだで3年やってきましたね。一緒にやっている杏子さんとAKINAちゃんがすごくいい人なんで、人見知りの僕でもなんとかやれてます。

―― 映画やテレビ、ドラマなどいろいろなジャンルに出演されていますが、それぞれの仕事についてはどのように考えていますか。 お笑いの場合はライブやって、笑いをとれば成功じゃないですか。でも、役者さんの仕事はわからないですよね。評価がすぐに出なくて何が正解かがわからないから、すごく難しいなと思いますね。

―― 今後も、お笑いの世界では「自虐ネタ」でやっていきますか。 いろいろできたほうがいいんでしょうけど、できないんですよね、なかなか(笑)。最近、興味のあるのが農業ですから(笑)。自給自足の生活に非常にあこがれているんですよ。

―― それはいますごく大事な「エコ」ですよ。そういう形もやりつつ、ぜひお笑いの世界も。 僕、13年の芸歴があるなかで、10年目にしてやっと「ヒロシです」っていう形をつくったんで、何か次のものを出すとしても、たぶんまた10年後ですね (笑)。そのへんでまた何か、爆発があればいいなって思っています。

―― 最後に、最近、インターネットや携帯でタレントさんの顔写真が勝手に使われたり、顔を変えられたみたいなことがありますが、ああいうことはどう思われてい ますか。肖像権は非常に大事な権利で、CPRAや音事協はそうした問題の解決のためにも活動していますが。 嫌ですよね。お金くれるんだったらいいけど(笑)。タダですもんね。しかも、内容によっては悪口を書かれるわけでしょ。僕の場合なんか、たいがい悪口ですよ。ただでバカにされて嫌だなっていう思いはありますね。

―― 使うんだったらお金を払えと。 変なグッズを勝手につくられていたとかいうこともけっこうあって、そういうのは一般の人にはわからないでしょ。僕らは「ヒロシ」という僕自身が商品なんですから、ちゃんとお金を払いましょうよと言いたいですね。

―― 今日は楽しいお話をありがとうございました。今後もご活躍を期待しています。

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